憐れみのヒーロー
サルキメラの巣を出た私たちは、まず手のひらを太陽に透かして生きていることをを実感した。
「生きてるニャ! それだけでなんて素晴らしいのニャ!」
そして辺りを見渡せば木の影からマフォーが小さく手を振ってくれており、裏方三人組も合流できたらしいことがわかる。
「な、なんとか助かったぜ……」
ナオトもホッとひと息ついていた。
「ありがとうロイヤ。キミが来てくれたおかげで命拾いしたぜ」
ナオトはロイヤに握手を求めた。
「なんの。みなさんがスキを作ってくれたおかげッスよ!」
ロイヤは得意げにならず、爽やかな笑顔で握手に応じていた。
「にしても、あれだけの数のサルキメラを一瞬のうちに倒すとは……ものすごい戦士だぜ。もしかしてロイヤは名のある冒険者だったりするのか?」
「あ、いやぁ……オレは別に……?」
ロイヤは困ったように顔をそらし、チラリと私に助けを求めるように見てきた。
無理もない。彼は本来、私たちにその姿を見せる予定がなかった黒子衆。私たちに話せるようなイースでの設定は持ち合わせていないのだ。
もちろんその場のアドリブで適当に話を合わせることも可能だろう。
しかし彼の様子からは下手なことはできないと判断を私に求めているような感じがした。
「そういえばさっき、ロイヤはソロの戦士って言ってたニャ!」
そしてそのとき私はピンときた。
どうせこの先も私一人では暴走するナオトとセツを御しきれないだろう。それこそ命がいくつあっても足りないことが今回の件でよくわかった。
今回は裏方に徹するはずのロイヤが役割を不意にしてまで助けてくれたからなんとか乗り切れたようなものの、次回以降も同じような場面になったら、そのたびに偶然現れたというのも不自然になっていくだろう。
だったら、それを偶然ではなくしてしまえばよいのだ。
「冒険者の仕事を一人でやってるなんて危険ニャ! きっとロイヤは仲間に恵まれなくて困り果てているはずニャ!」
ここでロイヤを仲間にしてしまおう!
そうすれば彼は姿を見せられないという行動制限から解き放たれ、その人間離れした身体能力を余すことなく発揮できる。つまり私たちにとっても安全性が高まるというもの!
「そ、そうッス! オレ、ぼっちで絶望に打ちひしがれてたッス!」
ロイヤはすぐに私の意図に気づいたようだった。そしてそのうえでこの返答があったということは彼もこの案を拒んではいないということ。
あとはこの流れを汲んで、仲間のいない哀れな設定のロイヤにナオトが手を差し伸べてくれれば……。
私は期待を込めてナオトをチラリと見る。
「じゃが、かように強ければ仲間など必要なかろうに」
そこへセツが余計な口をはさむ。
この駄作家があああ! どうしてお前はやることなすこと目的を拒むのか! と、私はキレそうだった。
「で、でもオレ、さみしくて仕方なかったッス」
「ふん。お主のような陽キャイケメンをまわりが放っておくわけがなかろう……さてはお主、ワシら非モテ男性をバカにしようとしておるな?」
セツは明らかにイケメンのロイヤに嫉妬や嫌悪感を抱いていた。
「あれ? なんか俺まで勝手に非モテ男性にカテゴライズされたんだぜ?」
ナオトも今どうでもいいことで首を傾げていた。
しかし面倒だな……ロイヤを仲間に加えるなら、イケメンに嫌悪感を抱いているセツを説得しなければならないのか。
だがロイヤは真っすぐな目でセツを見据え、真正面から向き合おうとしていた。
「バカになんかしてないッス! むしろオレがバカすぎるから誰からも相手にされないんス!」
「ぬ! つまりお主は自分のことを賢くないと思っておるのじゃな……?」
セツはなぜかそこでロイヤに対する訝しげな表情を緩めた。
もしかしたら自称『賢くない賢者』に通じるものを感じていたのかもしれない。
「そうッス……オレ、とっても信頼していた仲間から脳筋戦士はいらないって言われてパーティーから追放されたんス……」
するとセツは目を見開く。
「ぬぅ。お主、追放された脳筋戦士じゃったのか……イケメンなのでワシらの敵かと思っていたが、こちら側であったとは……知らなかったとはいえ少々強く当たりすぎたようじゃ。謝罪しよう」
あ~……そこが敵対するポイントと共感するポイントだったんだ~……。
私は呆れた無表情で二人のやり取りを見ていた。
「オレ、もうこのまま生きてても仕方ないかなって思って、実は死ぬつもりでサルキメラの巣に入ったんスよ……そしたらみなさんがいて……」
この陽キャイケメンには似合わない壮絶な設定だ。
「早まってはいかん! なにも孤独だからと言って死を選ぶことはない! わかる! ワシにはお主の気持ちがよくわかるぞ!」
セツが涙を滝のように流しながらロイヤの手を握っていた。
「勇者よ! このような憐れな青年を救わずにおいて、誰が勇者と名乗れようか!」
セツはナオトに仲間に誘うことを促す熱い視線を向けていた。
イケメンならば敵なのに、憐れな弱者なら同志のように迎え入れる。なんという単純な思考回路なのかとも思うが、結果的には私も望むところなので黙って様子を見ていた。
「あ、うん……じゃあロイヤ。もしよかったら俺たちのパーティーに入るんだぜ?」
ナオトはなかば場の雰囲気に流されるようにロイヤを仲間に誘った。
「マジッスか! こんなオレでも勇者さんのパーティーに入っていいんスか!?」
ロイヤはすごく嬉しそうに言う。
「もっちろんニャ~!」
「よがっだのう。よがっだのう……!」
私やセツも歓迎する。
「ありがとうッス! これでオレ、さみしくて死なずに済むッス! そんでもってこの恩、たっくさんキメラを葬って返すッス!」
ロイヤはガッツポーズで宣言する。
こうして、私たちのパーティーに唯一の戦闘要員ロイヤが加わった。










