ラノベ作家の奥の手(1)
私たちはそれぞれ、それなりに重く覚悟を決めてサルキメラの巣穴へと突撃したはずだった。
だがしかし、現実には越えようもない壁というものが存在し、なんら戦闘訓練を受けてきたわけでもない私たちはあっけなくサルキメラに追い詰められてしまっていた。
少し広くなった洞穴の最奥。湿った壁を背にし、私たち三人は爪を光らせる数匹のサルキメラに取り囲まれていた。
出口は一つ。ただしサルキメラの包囲を突破しなければならず、この状況からの脱出は不可能に近い。
元々人工的に作られた洞穴だからだろうか? 陽の光は届かずとも、所々に不自然には見えないよう石などに擬態した光源も設置されており、薄暗くはあるが、完全な暗闇に視界を閉ざされているわけではなかった。
しかしそれだけに不気味に光るサルキメラの鋭い爪は恐ろしいものである。
「くっ……! なんて強いサルキメラなんだ……しかもこの数……まずい状況だぜ……」
一発も攻撃を当てられなかった勇者がのたまう。
「ぬぅぅ……ワシも耄碌したものよ……敵の戦力を侮るとは……」
駄作家には最初から何も期待していなかった。
「ニャアァ……こんなところで死にたくないニャア……」
薄暗い洞穴で、サルキメラの爪によって腹を抉られ、しかもそれが動画撮影されているだなんて間抜けすぎる死に様……!
私はなにかほかに生き残る術がないものかと思考をフル回転させていた。
「そ、そうだ! 村長! たしかさっき、なにか奥の手があるようなことを言ってなかったかニャ!?」
「よくぞ聞いてくれた……実はの。記憶喪失のワシに、先ほど少しだけ前世の記憶が甦ってきたのじゃ」
前世の記憶を記憶喪失とか、そもそもセツは転生ではなく転移の設定だったのではとかどうでもいい雰囲気だった。
「これはワシの前職、ラノベ作家としての知識なのじゃが、このように暗く狭い場所での戦闘シーンでは、得意げに『粉塵爆発』をお見舞いしてやると大抵の敵を殲滅できる流れがあっての……」
駄作家に期待した私がバカだった。これがラノベ脳の弊害というやつか……!?
「さ、さすがは賢くない賢者だぜ……それ、今やったら俺たちも死ぬぜ?」
「うむ……そこが問題なのじゃ……」
そもそもラノベ的な切り札としては派手で良いかもしれないが、現実的な粉塵爆発は爆薬のような衝撃波兵器ではないため『ドンッ!』というより『ボワッ!』っとなって決め手に欠ける可能性が高いものだ。
しかも粉塵濃度が薄すぎても濃すぎても駄目なので濃度管理も面倒なうえ、実は小麦粉程度では派手な火柱にはなりにくい。
さらに湿度があると失敗確率は高まるので今の環境は最悪だし、そもそも事前準備ができていないのに追い込まれてからじゃ絶対に無理。
もちろんナオトの言うように自分たちも巻き込まれる問題もあるし、よしんば奇跡や魔法が起きて、今この場で粉塵爆発が発生し、なぜか私たちが無傷に乗り切ったとしても、今度は酸素濃度がヤバいはず。
何度でもいくつでも駄策な理由を挙げよう。
ラノベの奥の手としてはカッコいいんだよ、ラノベとしてはだけどな!
「なんてことニャ……」
一番の敵は無能な味方であるとは誰の言葉だっただろうか。私は絶望からその場に崩れ落ちてしまった。
「じゃが絶望するのはまだ早い……ワシならばまだ奴らの注意を引きつけられるやもしれぬ」
「なんだって!? セツ、それは本当か!」
「本当じゃとも……そのスキに出口から脱出を図ればあるいは……」
「よしわかったぜセツ! その作戦でいこう! と言うより、もうその作戦に頼るしかない!」
「た、頼むニャア村長~! その最後の作戦とはなんニャ~……?」
私たちは藁にもすがる思いでセツを見る。










