にゃふ~ん! きゅぴきゅぴ!(2)
「とはいえリリアン君も世界の九条財閥に勤める身だ。本来なら春をひさがずとも十分に幸せな人生が送れるだろう……それを考えれば心理的な負担に対して見合う額を提示せねばなるまいな……どうだろう、五億円程度を目安に交渉を始めてみないか」
「わかりました。請け負います」
金持ちは! これだから金持ちは!
そう思いながらも私は即答していた。
だって仕方ないじゃん……普通に考えてありえない金額だったんだから。
それに、この超絶イケメンの弟であれば同じくイケメンである可能性が高い。
ノアが言っていたからというわけではないが、玉の輿と聞けば私だって嫌な気分にはならない。
「いい心がけだリリアン君。腹の底ではそのようにいくら現実的思考をしてくれても構わない。表に出てくる性格さえ違世界の思考回路を通していればな」
専務には私の心の内などすべて見通されているような気がした。
「さて、違世界の思考回路について覚悟を決めてもらったところで、次はその異常さをもってしかできない究極のアクションを伝えよう」
「きゅ、究極のアクションとは……?」
「考えてもみろ……こんな荒い作戦、どう考えても途中で無理や矛盾が生じるだろう。当然ナオトにだって怪しまれるはずだ。そんなとき、一発で場の雰囲気をほわ~んと和ませ、まぁいいかと思わせてしまうアクションが必要になるはずだ」
「い、言われてみれば……?」
「今から私が披露するのは萌えの極意。あらゆる要素を加味して考案された究極のアクションだ……リリアン君、キミにはこれを使いこなしてもらう」
「そ、それは……!?」
この頭の硬そうなイケメンが考えたとなると、発想が想像のはるか斜め上を行くとしか思えなかった。
「いいか? 私に続いてマネをしてみたまえ」
そして九条専務の鉄仮面は崩れた。
「にゃふ~ん! きゅぴきゅぴ! ……だ」
……は?
ちょっと待って?
超絶イケメンで身持ち硬そうな九条専務が、まるで幼女のように片足を上げ、表情のみならず身体全体で『かわいい』をアピールしながら「にゃふ~ん! きゅぴきゅぴ!」などとおっしゃったように見えたぞ……?
私が呆然と固まっているうちに九条専務はまた元の直立鉄仮面に戻った。
「ではやってみたまえ」
いやいやいや、私、二十六歳ですから!
「……ちょっと、難しい気がします」
私は控えめに抵抗した。
「そんなに難しいことを要求したつもりはない。やりたまえ」
「は、恥ずかしいです……」
「リリアン君。キミはいったい仕事をなんだと考えているのかね。真面目にやりたまえよ」
マジかよ。この人、アレを真面目に仕事として考案したのかよ……。
「至って真面目ですぅ……だってこれ、世界中に配信される予定なんですよね……?」
「なにを今さら。動画配信とはキミが言い始めたことではないか」
「ぐぅ……!」
私はどうしようもなく、口を噤んでしまった。
「どうしても難しいと言うのかね?」
「できれば……もう少し控えめな方法でなんとかなりませんか……?」
「ふぅ……ならば仕方ないな……」
九条専務はため息を一つついてから冷たく言った。
「ロードローラー」
「にゃふ~ん! きゅぴきゅぴぃ!」
気づけば、私の身体は勝手に従っていた。
く、屈辱!
私は、今まさに金で買われたという感覚に襲われていた。
「ふむ……思っていたよりも筋が良さそうだ。これならば本番までには間に合いそうだな」
私がこんなにも恥ずかしい思いをしているのに、九条専務は冷静に淡々と話を先に進めていく。
それがなんとなく、悔しかった。
「だが安心するのはまだ早いぞリリアン君。キミのヒロイン修行はまだ始まったばかりだ。これからもビシバシ鍛えていくから頑張ってついてきたまえ」
「ま、まだほかにもあるんですかぁ~……?」
「当たり前だ。こんなことで音を上げてもらっては困る。もうあと戻りなどできんぞ? そんなことを言い出そうものなら……」
「ギャフン! クビ、クビぃ!」
「わかっているじゃないか」
私のなかで、プライドとかいうものが音を立てて崩れていくのがわかった。
そして約一ヶ月のヒロイン修行を経て、どピンクのショートヘアにネコ耳という違世界風ヒロイン、安藤梨里改めリリアン・ドゥが完成した。
どうにかして「にゃふ~ん! きゅぴきゅぴ!」流行らないかな~。










