怒られた
万が一、裏方三人組の姿が露見してしまった場合に備えてネルクたちも冒険者風の装いをしていたので、そのまま私たちの前に登場できたのだ。
「あんたたちっ! ちょっといい加減にしなよっ!」
そしてその威勢のいい怒鳴り声によって私たちの暴走はピタリと止まった。
「こんな一般人が通行するような街道で、そんな無闇やたらに魔法を連発する奴があるかいっ!」
ごもっともだった。
「あっ……! そ、そうだったぜ……」
ナオトは素直にそれを聞き入れて反省の色を見せた。
「すまない。あんたの言うとおりだったぜ……」
ナオトが頭を下げたのにつられて私とセツも従った。
「わかればいいんだ。アタイが見たところ、あんたはまだ素人だろうしね」
「わ、わかるんだぜ?」
「あんたには何か底知れない力を感じるが、それに振り回されてる危うさも感じる……そんなところからの直感さね」
「たしかに俺はつい先日、勇者として目覚めたばかり……よく見抜けたんだぜ」
「そりゃあアタイだって一端の冒険者さね」
ネルクは姉御肌がきわ立ちすぎていて、本当に冒険者なんじゃなかろうかと思えてしまうほどの貫禄だった。
「しかしまぁ。うわさには聞いたが、あんたが伝説の剣を引き抜いた勇者だってわけかい」
「もううわさが広まってるんだぜ……?」
「冒険者ってのは情報にも長けていないと一流にはなれないのさ」
「す、すごいぜ……先輩冒険者としての風格がビシバシ伝わってくるんだぜ……」
ええ本当に。これで本当は冒険者ですらない、ただの監督なんて信じられないくらいだった。
「だけどね。そんな先輩冒険者から一つアドバイスをさせておくれよ。あんたはまだ魔法を使うべきじゃない……理由はわかるだろう?」
ナオトは少し顔を伏せた。
「……通行人がいたら巻き込んでしまうところだった……それじゃあ勇者失格ってことだぜ……」
「そのとおりさね。たしかにあんたの力はすごいし、魔法は便利でもあるけどさ、使う者がそれに振り回されてちゃダメさね」
ネルクは優しく諭すように言った。
「わかったぜ……実は俺も詠唱が長すぎて思ったより使えないって思ってたところなんだぜ」
ん? そこ怒られたポイントと少しズレてね?
ネルクも少しだけ肩透かしをくらったようにしていた。
「だから約束する。俺はもう無闇に魔法は使わないぜ」
ん~、『だから約束』ってのがネルクに怒られたからなのか、詠唱が面倒くさいからなのか、よくわからない言い方にはなってしまったが、結果としては魔法の使用頻度も下がって、私たちとしてはプロジェクトを進めやすくなったようだった。
「まぁ、魔法が存在する世界ってのもわかったし、結果的にスライム程度ならアルミームソードで切ったほうが早いし、これでよかったんだぜ!」
ナオトがよいと言うのなら問題ないのだろう。
嗚呼、こうして勇者にはステータス表示可能時間に続いて新たな心理的制限が加えられていく。
ナオトは着実に箱庭の中で管理される勇者になりつつあった。
「ところで……」
ナオトの魔法が封じられて一件落着かと思いきや、今度はネルクの視線が私たちにも向いた。
「あんたたちもちゃんと反省しているんだろうね? 仲間を変なふうに煽り立てちゃダメさね」
「ごめんなさいニャ……」
私は素直に謝る。
「わかればいいさね」
ネルクは笑って許してくれた。
「ここは賢くないワシに免じて許してほしいのじゃ……」
セツはよくわからない。
「あ、あぁ……か、賢くないんじゃあ仕方がないさね……」
ネルクは少し反応に困っていた。
ともかく、スライムパーリィーでカオスとなった現場はネルクの介入によって無事に収拾がついたようだった。
ナオトも含めて、私たちはホッとひと息をついたものである。
「そういえば、まだ俺たち名乗ってなかったよな……俺はナオト。まだ駆け出しだけど勇者だぜ!」
「私は非戦闘員の村娘リリアンニャ!」
「ワシは老齢で戦えぬ賢者ナイトのセツじゃ!」
ナオトが名乗ったので続いて私たちも名乗った。
「お、おぅ……すごいパーティーさね……」
ネルクはやはり反応に困っていた。
「しかし、そちらに名乗ってもらったんじゃあアタイらも名乗らなきゃだね」
「「アタイら?」」
私やセツは裏方にもう二人控えているのを知っているが、ナオトの手前、一緒に首を傾げておく。
「あぁ。アタイたちも三人組でね。あんたらが魔法をまき散らしてたんで念のため隠れていたのさ……あんたたち! もう大丈夫さね! 出ておいで!」
ネルクが林のほうに向かって声をかけると、それに促されたスムスとマフォーも物怖じしつつ姿を現し、私たちの前まで歩み寄ってくる。
私と裏方三人組は昨夜オフレコで夕食をともにしたわけだが、これでイースのなかでの登場人物としても互いに知り合ったことになる。
いつか冒険中に見つかってしまっても偶然に居合わせた言い訳が立つように備えてはいたわけだが、こうして早いうちに認識を合わせておけたことをポジティブに捉えていこうかと思うところだった。
ついに裏方三人組がカメラの前に踊り出て、全世界に公開された瞬間でもある。
その姿は私たち勇者パーティーよりもよっぽど違世界の冒険者パーティーとして相応しいものだった。
「アタイのパーティー、|影の追跡者≪シャドウ・トレイサー≫を紹介するよ。まずはアタイから。リーダーで戦士のネルクさね!」
「せ、拙者、ガードナーのスムスでござる……」
「ボ、ボクはウィザードのマフォーっしょ……」
ネルクはともかく、スムスはモジモジとし、マフォーも前髪をいじりながらと、カメラを意識して緊張している様子だった。
「ネルクにスムスにマフォーだな! 俺はナオト! よろしくだぜ!」
ナオトは明るく三人組に握手を求める。
「ああ! よろしく頼むさね!」
「ど、ども……でござる」
「よろしくっしょ~」
私たち三人と裏方三人組は互いに笑顔で握手を交わし、妙な仲間意識を醸成したのだった。










