スライムパーリィー(呪文コールでハイ! ハイ! ハイ!)
街道は丘陵から広がる林野を避けるようにカーブを描き続いている。
スライムはその街道脇の林から溢れ出るような形で、街道の広い範囲に渡って跋扈していた。
私も実物は初めて見たが、スライムは一見してクラゲのように見えなくもないキメラだった。
いったいどうやったらあんな形状のキメラが生み出せるのだろうか? 微生物かなにかと合成したのか?
天才科学者の考えることはまったくわからない。
「おりゃあ! せいいっ!」
私たちが駆けつけたとき、ナオトはすでにスライムの大群のなかに身を投じていた。
「こいつら、いったいぜんたいどんだけ多いんだよ! これじゃあキリがないぜ!」
まるで次から次へ水風船を切り捨てるようにアルミームソードを振り回し、無人の境を行くがごとく切り進んでいく。
予想どおり、さすがのナオトもスライム相手なら戦える様子だった。
「ここは魔法で殲滅するぜ! 炎を冠する理よ、聞け。太初に生まれし熱、世界を分かちし赤き胎動よ。我は燃え盛る意思を束ね、空を裂き、影を焦がし、恐怖を灯す……くそう、やっぱ長すぎだぜ、この呪文!」
こんな長い呪文はそもそも覚えきれないだろうし、ステータス画面に表示されている呪文を読み上げるにしても常に動き回っている戦場においては難しいだろう。
「ああっ! だめニャ! 詠唱を途中で止めてしまったら、もう一度最初からやり直しニャ!」
私はすかさず魔法の発動制限を仕掛ける。やはりどうしても演出として胡散臭い魔法はなるべく使わせないに越したことはないからだ。
「な、なんだって……!? くそう、もう一度だぜ……炎を冠する理よ、聞け。太初に生まれし熱、世界を分かちし赤き胎動よ。我は燃え盛る意思を束ね、空を裂き、影を焦がし、恐怖を灯す。乾きし布に宿れ、燃料となれ。形を得て、質量を持ち、衝突の理を帯び、爆ぜよ、爆ぜよ、爆|でにょ≪・・・≫! 敵意を照らし……」
今、『爆ぜよ』のところ噛んだな?
「ああっと! だめニャ! 噛んでももう一度やり直しニャ!」
「うっそだろぉ!? ……炎を冠する理よ、聞け。太初に生まれし熱、世界を分かちし赤き胎動よ。我は燃え盛る意思を束ね、空を裂き、影を焦がし、恐怖を灯す。乾きし布に宿れ、燃料となれ。形を得て、質量を持ち、衝突の理を帯び、爆ぜよ、爆ぜよ、爆ぜよ! 敵意を照らし、退路を奪い、存在を否定せよ――我が名に応えよ――ファイヤー・ボール!」
今度こそ言えた!
その成果もあってナオトの背後からは火炎球が射出され、見事にスライムに命中する。
街道脇の木の影からマフォーがチラリとグッドポーズでウィンクを送ってくれていた。
「やったか!?」
「やったニャ!」
不吉なフラグが立ちそうなセリフは私が即上書きする。
スライム程度であればファイヤーボールでも十分に破裂してくれるので魔法で倒した演出もできるうえ、火をつけた玉の残骸が転がってもスライムの死骸に見えなくもないし、そもそも次のスライムを倒さんと動き回っているナオトには気にされようはずもない。
「にゃふ~ん! やったニャ! ナオト様の魔法は最強ニャ~!」
「うむ! 賢者ナイトのワシでさえ驚くべき威力であったぞ!」
私たちは腕をブンブン振り回して無双中のナオトを応援する。彼がいい気になって|脳内麻薬≪アドレナリン≫を分泌すればするほど裏方の拙い部分も隠しやすくなるからだ。
ここはもう悪ノリだ。
私とセツは互いを見合って目を光らせた。
「ナオト様の?」
「ちょっといい魔法を見てみたい!」
「いっけ! いっけ! いっけ! ニャー!」
「ナ・オ・ト! ナ・オ・ト!」
「「ドーンとストーンバレットいってみよー!」」
シャンパンコールの要領で私とセツは盛り上がる。
「もっちろんだぜー!」
九条会長も九条専務もそうだったが、もしかしたら九条一族は実はみんなノリがいいのかもしれなかった。
「大地に眠る名なき質量よ。踏まれ、削られ、忘れ去られし者たちよ。今ここに集い、我が意志の弾丸となれ。重さを得よ、密度を誇れ。回転せよ、加速せよ、直進せよ。魔力は導火、理は弾道。破壊とはすなわち衝突なり。逃げ場なき力を刻め! ――解き放て! ストーン・バレットォッ!」
もちろん詠唱の合間にも手拍子や「ソーニャ!」と合いの手を忘れない。
「っしゃあ! ボクもノッてきたっしょ~!」
このノリに乗って裏方のマフォーも大盤振る舞いであったのか、いつもより多くの岩石弾丸がスライムを薙ぎ払っていく。
いける! このノリならどこまでもいける!
「ハイ! ハイ! ハイ! ニャ!」
「詠唱! 詠唱! もう一丁!」
「はい勇者コールいきますニャー!」
「冷たい魔法も飲みたいじゃー!」
スライム飲み放題パーリィーの始まりである。
「任せとけ~ぃ! 凍てつく静寂よ、応答せよ。動きを止め、時間を縛り、水を縛し、流れを殺し、刃へと変える冷厳の理。我は零下の意思を矢に鍛え、空気を裂き、軌道を描き、貫通の力を与える。融けるな、砕けるな、氷結せよ! 一点に集え、硬度を誇れ。その身を貫き、内部より崩壊させるのだ! ――我が命に従え! アイシクル・アロー!」
「「フォオオオオーーー!」」
私たちは大いに湧いた。
「まだまだ足りない勇者ニャ!」
「やればできる子、勇者じゃ!」
「「今がチャンスだ、ゆ・う・しゃ!」」
「うおおおおっ! い・く・ぜぇっ! ストオオオーン・バレットオオオッ!」
ナオトはノリにノッて叫ぶ。
「うえっ!? 詠唱破棄っしょ~!?」
裏方でマフォーも叫ぶ。
「まだまだぁ! ファイヤー・ボールッ! アイシクル・アローッ!」
ナオトは猛る。
「あっ! ちょ! ちょ! 間に合わないっしょ!」
マフォーは嘆く。
「「ゆ・う・しゃ! ゆ・う・しゃ!」」
私たちの暴走はとどまるところを知らなかった。
「これはちょっと危ない流れさね! スムスは魔法演出に協力しな!」
「承知したでござる!」
「ネルクはどうするっしょ!?」
「アタイはあいつらの暴走を止めてくる!」
あ、やべ。
私はインカムを通じて聞こえてくる裏方三人組の会話を聞いて正気に戻った。
が、ときすでに遅し。
そのときにはもう女剣士の格好をしたネルクが私たちの前に仁王立ちで現れていた。










