勇気のない勇者(2)
だがそんなダメダメな駄作家の近くになにやらいかがわしい表情で擦り寄っていくナオト。
「な、なぁなぁ……魔力の消耗が激しいところ悪いんだけどさ、あとでちょっと俺とリリアンが将来的にどうなるのか見てくれない……?」
ナオトが私のほうをチラチラと気にしながら、小声でセツにそんなことを言っていた。
本来なら私の耳には届かないような小声なんだけど、悲しいかなナオトの音声は動画配信のために拾ってるんだよなぁ……。
私はなんだか、嫌ではないのだが、なんとも言えない虚しい気分になってしまった。
「ど、どうじゃろうな~……? それを知ってしまうことで未来も変わってしまうかもじゃし……」
とはいえ、そんなことを聞かれても困るだろうセツもさっそくボロが出たとばかりに目を泳がせて狼狽している。
「じゃ、じゃあさ……例えば今日、俺が告ったとするだろ? その数十秒後のリリアンの返答だけでも……」
さっすが勇者ですぅ! 出会って三日の私にもう告る気ニャ~!
私は呆れてものも言えない。
「そ、そういうのは若い二人で話し合うほうがよいのではないかの?」
「いや、フラれたらダメージでかすぎて死ぬんだぜ?」
そうだろうな。そんで間違いなくこのパーティーは全滅だろうよ。
「おお勇者よ。そんなことで死んでしまうとは情けない……」
セツは力なく首を横に振る。
「つまり、フラれないなら告る。フラれるなら告らない……そういう魂胆じゃな?」
「わ、悪く言うとそうなるんだぜ……?」
悪く言わなければそうならないとでも思っているのか?
「さてはお主、勇気のない勇者じゃな?」
「賢くない賢者がなにを言う」
もうやだこの二人。
この会話の流れは断固拒否である!
「にゃふ~ん! きゅぴきゅぴ!」
ほわ~ん。
こんなくだらないことで全世界に究極アクションを晒すことになろうとは屈辱もいいところだ。
「ナオト様~? 私を仲間はずれにして、村八分にされた村長となにヒソヒソ話してるニャ~?」
ここはナオトがドギマギしてしまうくらい近づいて彼の思考を中断させるしかない。
「村長も村長ニャ~! ナオト様がスライムの大群と戦う未来って、とっても危険でヒソヒソ話どころじゃないニャ~!」
わかってるよな? これはお前にとっても助け舟になるんだぞ? とナオトに表情を見せぬよう私はセツを睨みつける。
「そ、そうじゃった! スライムの大群がおるんじゃったわい……!」
セツは自分が苦しくなっていたせいもあってか正気に戻ったようだった。
「未来視で見えた街道の様子じゃが、どうも今ワシらが歩いている街道の様子に似ておったのじゃ……」
「ニャ!? それが未来ということはつまりニャ……!?」
「この先にスライムの大群が現れるってことだぜ!」
私たちは顔を見合わせた。
「街道に大量のモンスター! 通行人に被害が出る前に、ここは俺たちでなんとかするんだぜ!」
「ニャ!? ナ、ナオト様! キ、キメラが恐くないのニャ?」
私は正直、ここでナオトが怯むのではないかと思っていた。
だからこの場面では偶然に遭遇するまでスライムの情報は与えないつもりだったし、いざ遭遇したタイミングであまり臆するようならば女神ノアの導きを入れようかとさえ考えていたのだ。
だが、ナオトの目には恐れが一切なかった。
「当たり前だぜ! 俺は勇者! 人々に被害が出るかもしれない未来を放ってはおけないぜ!」
そして私に優しく微笑みかける。
「恐かったらリリアンはゆっくり来るんだぜ? あとで合流をしよう!」
それだけを言ってナオトはアルミームソードを握り、先へと駆け出していた。
もしかしたら勇者としての自覚、使命とかいうものを意識していたのだろうか。
自分だけが世界に騙されているとも知らず、今の彼は本気になって誰かのために戦おうとしているんだよな……。
そう考えたとき、たとえ世界中がナオトの滑稽な姿を見て笑っていたとしても、私だけはナオトのことを笑ってはいけないのだと思った。
気づけば、私は遠く離れていくナオトの背中を少し呆けて見つめていた。
「な、なにを呆けておるのじゃリリアンや! ワシらもあとを追うぞい!」
「あっ! そ、そうだったニャ!」
私たちは急いでナオトのあとを追って駆け出した。
たぶん、セツもまたナオトの意外な一面に驚かされていたのだと思う。










