にゃふ~ん! きゅぴきゅぴ!(1)
昼休み。
後輩のノアと一緒に自席でランチを食べ終え、雑談をしているときにその人はやってきた。
身長は高く、細身ながらも筋肉質であることが窺えるシルエット。整った顔立ちからの甘い声が周囲の女性社員の視線をかき集めている。
「安藤梨里。先ほどの件で会長から話を聞いた。すぐに打ち合わせをしたいのだが時間は作れるか」
九条ハルト専務、32歳。
今回の件で勇者候補となった九条ナオトの実の兄にあたる。
「は、はい! 今すぐに」
九条専務が直々に来たというのにお昼休みだなんだと言っていられるほど私の心臓には毛が生えてはいない。
飛び上がるように立ち上がり、お弁当箱の片づけもそこそこに私は九条専務のあとについて自席を離れた。
九条専務の執務室は無駄な物を一切省いた緊張感漂う部屋だった。
超絶イケメンと部屋に二人きりとなると正直ドキドキしてしまう。
「そう緊張するなリリアン君」
なんてこと! 既に私はリリアンにされている……!
緊張は解けたが私は肩を落としてしまった。
「……祖父である会長からキミのサポートを頼まれた。違世界風の建物などについてはすでに建設に取り掛からせている。人員の手配も開始された。キミが負担に感じることはない」
さ、さすがは超有能エリート。今日の今日、すべてはテキトーに決まった話なのに仕事が早すぎる……。
むしろ私の役割がなくね?
そう思って聞いた。
「あの~……それだと私がいる意味がなくないですか……?」
「なにを言う。キミにはもっとも重要な仕事があるではないか」
「もっとも重要な仕事……?」
「違世界島『イース』の建設はこれから一ヶ月で終わらせる……その間、キミにはしっかりヒロインとしての素養を身につけてもらうぞ」
ヒ、ヒロインの素養とは……!?
「い、いったい何を……?」
「プロジェクトを成功させるには、勇者ナオトにイースを違世界と認識させる以外にない。つまりヒロインがあまりにも違世界離れしていては、たちまち真実がバレてしまうというわけだ」
違世界離れとは……!?
「私も私なりに違世界とやらの常識について学んだつもりだ。……鮮やかな原色の髪に獣の耳、独特の思考回路に異常な語尾……それが『萌え』なのだろう!?」
酷い歪曲解釈だが、大体あってる!
「そのなかでも私が重要視しているのは登場人物の思考回路だ……なんなのだ、あの異常なまでの思考回路は! 『いや~ん勇者様さすがですぅ!』と、何をやってもそうなる。……正気か!?」
そこな~……。
そこはまぁ、そういうのが好きな男性が多いからなんだろう。
「だが、そこを上手く表現できなければナオトに違世界だと思わせることはできない……わかるね?」
「それはつまり、私にその異常な思考回路を身につけろと?」
私は真顔になっていた。
「そうだ。違世界ヒロインはとにかく主人公の持ち上げが肝要だ。それがどんなに非現実的で腹立たしい行為であったとしても『さすが勇者様』に帰結させる能力が求められる」
「冷静に言語化すると恐ろしいですね」
「しかも基本的に主人公を拒まない。たとえそれがどんなに童貞丸出しの誘い方であってもだ」
「ちょっ! ちょっと待ってください! それじゃあ万が一、ナオトさんが私に手を出そうとしてきたら……!」
「そのまま抱かれろ。『いや~ん』と言いながらでもいい」
なに真顔でとんでもないこと言っちゃってくれてんの、この人ぉ!
「ちょっとしたことでも主人公にだけはすぐ惚れる。シナリオ都合で断ることはあっても、最後は必ず受け入れる。それが違世界ヒロインの基本的な思考回路だ」
「うそ……ですよね……? それじゃあ私の貞操権は……?」
「ない。だからそうなった場合は金で解決しようじゃないか」
ヤバい。冗談を言ってる顔じゃない。
異世界ヒロインはどうして「らめぇ」と言いますか?










