勇者よりイケメンしてる人(1)
その後、私たちは無事に宿場町で宿を取り、それぞれ自室に入った。
それで本日のミッションは完全コンプリート。
本日のリリアン・ドゥは疲れ果てて泥のように眠っていることになっているため、私はネコ耳型インカムとピンク髪のウィッグを放り投げて部屋を出た。
どこで夕食を食べようかな……?
一応、宿泊する宿の一階も違世界らしく酒場になってはいるのだが、さすがにそこで同じく夕食を摂るだろうナオトと鉢合わせしても面倒だ。
私は宿から少し離れた大衆食堂に向かった。
うわ~……両開きのウェスタン・ドアとか思いっきり違世界だな~……よーし、ここに決めた!
私がその扉をくぐったときだった。
「「カンパーイ!」」
店の中から威勢のいい男女の発声が聞こえてきた。小さな木製の樽を打ち合わせる心地よい響きが続き、さらに一気に飲み干した空の樽を思いきり木製テーブルに叩きつける音がリズミカルに重なる。
私までいきなりガツンと飲みたくなるようなコンボだった。
「ぷっは~! 今日の酒は本当に美味いさね!」
「たまにはこういう趣も悪くないでござるな」
「さすがに今日は気を張りつめすぎたっしょ!」
「みなさんのご活躍のおかげでなんとか難局を乗り越えられたッス!」
見れば冒険者風の格好をした男性二名と女性二名の組み合わせだった。
そしてそのうち三名は私とも面識がある。実は彼らは今日一日ずっと私とナオトのうしろをついてきた裏方スタッフの三人組だったのだ。
「いやぁ、みんなのおかげでアタイもいい画が撮れたってもんさね!」
一番最初に樽を飲み干した姉御肌の女性が|黒川ネル≪くろかわ ねる≫。裏方スタッフのまとめ役、監督だ。
「ステータス表示可能時間の制限は拙者にとって神設定でござった! 女神様だけに! プクク……!」
ござる口調でずんぐり太った、いかにもタンク役な男性は|捨板ススム≪すていた すすむ≫。本名かどうかは怪しいがステータス担当。
「ボクも今日で感覚は掴んだからね! 次はもっと早く魔法準備できるっしょ!」
この明るく活発そうな女性は|鵜塚井マホ≪うつかい まほ≫。魔法演出担当。
仕事時間を終えても役割口調を忘れていないそのプロ精神に私は感心する。
そしてここまでの三人は事前の打ち合わせで私とも顔合わせを済ませていた。
だがもう一人の男性を私は知らない。
イケメンで、背が高く、服の上からでもわかる明らかに引き締まった身体。爽やかな笑顔を見せており、それでいてオラついた感じが一切ない、まさに絵に描いたような好青年がそこにいたのだ。
「あれ? もしかしてそこにいるのはリリアンさんッスか?」
ふと見惚れていた私と目があったイケメンはそんなふうに言った。
「あら本当。リリアンもアタイらと一緒に飲みましょうよ」
「フォカヌポウ! 本日の主役リリアン嬢キタコレでござるな!」
「うわぁ! ボク、ぜひリリアンちゃんの話が聞きたいところだったっしょ~!」
裏方三人組も釣られるように私に視線を向けた。
「どうもお疲れさまです。……せっかくですし、ぜひ私もご一緒させてください」
私は笑顔で彼らの卓に近づき、さりげなくイケメンから差し出されたイスに腰を下ろした。
「リリアンさんと話すのは初めてッスね。オレはロイヤって言うッス! 戦士やってます!」
イケメンのロイヤはキラリと歯を光らせていた。
「ついでにアタイの名はネルク」
「拙者はスムスと申す」
「ボクはマフォーっしょ!」
ロイヤに続いて裏方三人組もそれぞれイース名で名乗った。
裏方とはいえ私たちに追随している以上、偶然に鉢合わせしてしまう可能性も考え、彼らもまた冒険者風の格好をしている。職業はそれぞれ女剣士、ガードナー、魔法使いといった具合だ。
「はじめまして。ご存知かもしれませんが、私は安藤……」
本名を言いかけた私をロイヤが人差し指を立てて遮る。
「気を抜いちゃ駄目ッスよ? いきなり勇者さんが現れたらどうするッスか。勇者さん、村長の変装を一発で見抜くくらい実はすごい人なんスから……ネコ耳やウィッグを外してきちゃったのは仕方ないッスけど、本名とか語尾とか、せめて変なクセが出ないようにしないと」
「あ、そうでしたニャ……」
私も変な口調の乱れ癖がつかないようにといつもの語尾に戻した。
「フニャ? でも私たちの事情をよく知ってるということは……」
私はそこでようやくロイヤの正体に予想がついた。
「もしかして、ロイヤは黒子衆の人かニャ?」
「当たりッス!」
イケメンで人当たりも良く、天下の九条財閥で隠密活動をやってるくらいなので頭も相当キレるんだろう。そのうえ身体能力も人並み外れたレベルとか、こいつ完璧超人か……!? 勇者か? 真の勇者なのか!?
私は思わず眉をひそめてしまいそうだった。










