初めてのエンカウント(2)
「ギ、ギャアッ!」
サルキメラは叫び声を上げ、完全に怯んでいた。
「よし! スキができたっ! 最後は俺がアルミームソードでトドメだぜ!」
ナオトは意気込んで踏み込み、サルキメラの前で思いきり剣を振り切った。
「やったか!?」
しかし、わずかに後方に飛んだサルキメラに剣は届かず空を切っていた。
そしてインカムから九条専務の声が聞こえてくる。
「ダメだ。ナオトの奴、怖がって直前で目を瞑っている!」
こんなときに目を瞑ってる勇者がいるのかよ!
「だが案ずるな。キミたちのそばには九条財閥が抱える隠密組織、黒子衆の者が控えている……! 空振りでもなんでもいいから、そのままナオトを勢いよく駆け抜けさせたまえ!」
九条専務の声に押されて、私は大きくナオトに声援を送る。
「ナオト様ならできるニャ! そのまま一気に駆け抜けるのニャ~!」
「うおおおおっ!」
再び剣を構え、駆け出すナオト。今度ばかりはと爪を光らせ待ち構えるサルキメラ。そしてすれ違いざまにナオトは剣を振り抜き、そのまま両者の影は交差した――。
「ギャアアア!」
結果、断末魔の声を上げ、その場に倒れたのはサルキメラのほうだった。
「俺……やったのか……?」
振り返って倒れたサルキメラを見たナオトは不思議そうに自分の手のひらを見つめた。
実感がないのだろう。無理もない。なぜなら先ほどの交差でもやはりナオトの剣は空振りをしていたのだから。
つまり、傍からは両者の激突に見えた場面であったとしても、サルキメラにトドメを刺したのはまったく別の第三者だったのだ。
それは空振りをしたナオトがそのままサルキメラの脇を走り抜けた瞬間、目にも留まらぬ速さで戦場を風のごとく走り抜けた一陣の黒い影――黒子衆。
その姿、まさしくアサシンのごとく全身を黒い衣で覆っており、顔も見えず、物音も立てず、それ自体がまるで私の見間違いであったかのように一瞬のうちに消えてしまっていた。
結果、その場には倒れたサルキメラとナオトだけが残り、状況的にナオトが倒したとしか思えない状況になっているのである。
「す……すっごい、すっごいニャ~! さっすがナオト様ニャ~!」
私は意地でもこの功績をナオトのものとすべく明るく場を盛り上げる。
「もうズバァーっと、必殺ナオトスラッシュが炸裂したのニャ~!」
テキトーに技の名前もつけてみる。
「そ、そうなのかな……やっぱり俺が倒したのかな……?」
ナオトはまだ半信半疑であったが、私の懸命なよいしょによって徐々に記憶を書き換え始めているようだった。
「ナオト様はまさしく勇者様だったのニャ~!」
「お、おう……やっぱりそうだろ……?」
「なにをやっても天才ニャ~!」
「はは……ちょっと褒め過ぎだぜリリアン」
勇者を褒め称えるバリエーションを考えた成果を見せるときとばかりに私はナオトを囃し立てる。
「よっ! 日本一ニャ~!」
「んっ? 日本?」
あっ! ヤベ! ここ日本じゃなかった……!
「リリアン。ここは違世界のイースだよな……なんでリリアンが日本なんて知ってるんだぜ……?」
「えっと……それは、ですニャ……」
私はすぐに名案が浮かび、ポンと手を打った。
「前に村長がそんな言葉を使ってたのニャ!」
「あぁ、たしかにセツならそんな言葉を知ってても不思議じゃないぜ」
あっぶね~。
つい戦闘が無事に終わって気が緩んでしまっていた。これでセツが日本から来たという即席設定を作ってなかったらアウトだったかもしれん……。
私は冷や汗の垂れそうなおでこを拭った。
「にゃふ~ん! そんなにカッコいいところを見せられたら、私、見惚れちゃうニャア……」
「と、とにかく。これくらいのモンスターを軽く倒せるようじゃないと勇者としていかがなものかってところだぜ」
ま、本当に倒したのはあなたじゃないんだけど。
私が話題そらしに少し色気を出すと、ナオトは照れ隠しのように頬をかいていた。
「お、今の戦闘でどうやら俺のレベルが上がったようだぜ!」
ナオトはステータス画面を見ながら嬉しそうに言う。
「おぉ! 一気にレベル3だ! やっぱ序盤はサクサクレベルが上がるぜ!」
「ニャ!? 私のレベルが4だから……ニャア! すぐ追い抜かれちゃうのニャ!」
私は焦ったふうに飛び上がる。
「はは、大丈夫だぜ。むしろすぐにリリアンを守れるくらいに強くなってやるつもりだからさ」
ナオトは大層得意げに、私にニカッと爽やかな笑顔を見せた。
「わぁ……やっぱりナオト様はすごいニャア……」
私は惚れ惚れした様子でナオトを上目遣いで見た。
さて、勇者の持ち上げも今回はこのくらいで十分かな?
私は気を取り直して元のルートに戻ることにした。
「ナオト様? それより私、またモンスターが出たらちょっと恐いニャア……」
私は心配そうな顔でナオトの手を握った。
「だ、大丈夫だぜ? 俺もそろそろ街道に戻ろうと思ってたところだからさ」
「ニャア! じゃあすぐに戻るニャ! 今日はこのまま、一気に宿場町まで進んじゃうのニャ~!」
私は少し強引にナオトの手を引いて歩き始める。
それは薬草採取に時間を取られたぶん、早く本日のミッションを終えないと私の勤務時間が長くなってしまうからだった。










