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あなたを勇者にしてあげる 〜転生したと勘違いしている御曹司と偽世界を冒険中。なお全世界配信されてるから迫られても困ります〜  作者: nandemoE


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初めてのエンカウント(1)


 そのまま森の中でサルキメラと戦うことを決めた私たちではあったが、いざ戦闘を始めようと思っても、まず何をしていいかがまったくわからなかった。


 サルキメラも同じように爪を構えてこちらの動きを警戒している。


 私たちはしばらくのあいだ膠着状態となった。


「鑑定! サルキメラ!」


 ナオトは剣を前方に構えたままサルキメラの能力を調べようとする。


 ここでステータス担当が示すのはおそらく平均的なサルキメラの能力値だ。


 いくら爪や牙が合成獣として強化されているとはいえ、基礎的な能力はサルに近いものだ。人間が戦えないレベルではない……だろう。


「ナオト様……敵の強さはどうですかニャ……?」


 本来なら私は戦闘要員ではないのだが、身を守るためにも護身用ダガーを逆手にもって構えていた。


「大丈夫……ステータス的には昨日のサルキメラと変わらない……しかも今の俺にはアルミームソードもある……なんとか勝てるはずだぜ」


 ステータスが強敵の数値を表していないということは、本部もまたこの状況を戦って問題ないと認識している証拠。


 むしろここで臆するようならこの先の戦いもまた難しいということか……。


「なんとか倒すしかないニャ……」


 私もまた決意を固めて深く重心を落とした。


「まずは魔法でスキを作るぜ! ステータスオープン!」


 ナオトはサルキメラから目を切らずに、チラチラと自分の使用できる魔法を探していた。


「えっと魔法は……ウソだろ? なんだよ、この長い詠唱呪文は!?」


 それを見て驚いたということは、今ナオトのステータス画面には各魔法を発動するために必要な詠唱呪文が表示されているはずだ。


 そしてその呪文は各属性ごとに異なっており、それなりに長い構成となっている。なぜかと言えば……。


「やるしかないか……炎を冠する理よ、聞け。太初に生まれし熱、世界を分かちし赤き胎動よ。我は燃え盛る意思を束ね、空を裂き、影を焦がし、恐怖を灯す……」


 この無駄に長い詠唱をしている間に、私たちの後方に控えている魔法演出担当が準備を済ませるからだ。


 こうなると冒頭で属性を判断できる構成なのはありがたい。


「乾きし布に宿れ、燃料となれ。形を得て、質量を持ち、衝突の理を帯び……」


 ちょ! 待てぃ! 乾いた布に宿れってなんだよ!


 たしかにファイヤーボールは何かに火をつけないとまっすぐに飛んで行かないけどさぁ……もっとマシな作文ができたんじゃないの!?


「爆ぜよ、爆ぜよ、爆ぜよ! 敵意を照らし、退路を奪い、かの存在を否定せよ……」


 うわぁ……わかったぞ……? この詠唱呪文を考えた奴、絶対にあの駄作家だぁ……。


 私は内心でげんなりとしながらも、ハッとしてすぐナオトを制止した。


「だ、だめニャ! ナオト様! 森の中で炎魔法は危険ニャ!」


 ぶっちゃけ固く丸めたとはいえ布に火をつけてサルキメラに当てたところで一瞬怯ませる程度にしかならない場面が容易に想像できる。


 しかもそのあと油の染み込んだ布がポテッと地面に転がってみろ。とんでもなくシュールで違世界とは思えなくなってしまう可能性すらある。


 火災のリスクだってある。違世界だって火遊びは厳禁だ!


「えっ!? そうなの!? もう少しで発動できそうだったのに!」


 ナオトは非常に残念そうな顔をした。


「たしかに普通の冒険者ならいいかもしれないニャ……でもナオト様は勇者様なのニャ? そんな強大な力で炎の魔法なんか使ったら……きっと森が燃えちゃうニャ……」


 ナオトが強すぎるからと、持ち上げつつのフォローも欠かせない。


「た、たしかに……くっ、勇者が森を焼いてしまうわけにはいかないぜ……」


 チョロい。


「ならば次は! ……大地に眠る名なき質量よ。踏まれ、削られ、忘れ去られし者たちよ……」


 これはストーンバレットの詠唱だ。これならば大丈夫。魔法演出担当が裏で岩石の射出準備を進めているはずだ。九条財閥の技術で作られた超強力岩石射出銃ならばかなりの高威力が期待できる。


「今ここに集い、我が意志の弾丸となれ。重さを得よ、密度を誇れ! 回転せよ、加速せよ、直進せよ! 魔力は導火、理は弾道。破壊とはすなわち衝突なり。逃げ場なき力を刻むのだ! ――解き放てっ! ストーン・バレット!」


 すると私たちの背後から放たれた弾丸のような岩石が見事にサルキメラに直撃する。


「ニャ~! やったニャ! ナオト様!」


 サルキメラは見事に怯んでいた。


「なるほど。この世界の魔法は手から出るパターンじゃなくて、背後に展開された魔法陣から射出されるパターンか」


 ナオトはそんなひとりごとを言って自己完結していたが、ついでとばかりに次の詠唱を始める。


「凍てつく静寂よ、応答せよ。動きを止め、時間を縛り、水を縛し、流れを殺し、刃へと変える冷厳の理。我は零下の意思を矢に鍛え、空気を裂き、軌道を描き、貫通の力を与える……」


 どうやらここで自分の使える魔法をすべて試してみようという考えのようだ。その詠唱はナオトのステータス画面に表示された三つの攻撃魔法のうちの最後、氷魔法だ。


 今頃、魔法演出担当が九条財閥特製の氷結矢ボーガンに氷の矢をセットしているだろう。


「融けるな、砕けるな、氷結せよ! 一点に集え、硬度を誇れ。その身を貫き、内部より崩壊させるのだ! ――我が命に従え! アイシクル・アロー!」


 そして後方から放たれた氷の矢は見事にサルキメラの腕に突き刺さった。



 ストーンバレット(岩石投擲)、アイシクルアロー(製氷した矢)

 いざとなったらMPが足りない。



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