マップを埋めてから次に進むタイプ(2)
「ふぅ……マジックバッグじゃないのが不便だな……わりとカバンが重くなってきたぜ」
ナオトは額の汗を拭って言った。
「このくらいにしておくニャ?」
私としても残業は嫌なのでさっさと先に進んで宿場町まで着いてしまいたかった。
「そうだな……でもその前に少しカバンを軽くしておくぜ。思ったんだけどポーションのビンが地味に重いんだ。コレ、持ち運びには適してないよな~」
薬草集めに精を出してポーションを飲み始める勇者ナオト。
「ん? なんかこの、のどは潤ってもあとから余計にのどが渇くような甘っとろい味は……もしかしてリポデーじゃないか?」
正解だ。ちなみにここイースにおけるポーションの精製方法は次のとおり。
まず採ってきた薬草をポイっと捨てる。次に適当なビンに市販の栄養ドリンクを入れる。これだけだ。
だからポーションとは言っても、飲んでも傷がパァァと治るわけではない。
つまり今、私たちが行っている薬草集めはまったくのムダなのである。
あ~。早く今日のミッションを終わらせたい……。
「リポデー? 聞いたことないニャ。ナオト様の世界でも同じような味のポーションだったニャ?」
「いや、俺の元いた世界のはただの栄養ドリンクだったぜ? ……しっかしこれで本当に傷が癒えたりするのかな~?」
「ナオト様が想像してるような効果はないニャ。ポーションはただちょっと元気になるお薬なのニャ」
「マジか!? それじゃあモンスターと戦ってケガとかしたらどうなるんだぜ? 回復魔法しかない感じか?」
さすがに回復魔法は現代科学をもってしても無理というもの。いくら魔法演出担当とて表現できるのは現実的にそれっぽく再現可能な魔法に限られる。
ナオトのステータス画面に表示されている魔法は三つ。ファイヤーボール、アイシクルアロー、ストーンバレットだけだ。
しかもファイヤーボールは自然環境の多いイースでは基本的に多用しないよう私がそれとなく制止することになっていた。
「回復魔法? 聞いたことないニャ」
それを聞いたナオトは少し顔を青くした。
「マジかよ……わりとハードモードだぜ……」
「でも大丈夫ニャ。そこまで強いモンスターはいないはずニャ」
ライオン型キメラとかの猛獣は別のスタッフが私たちから見えないところでちゃんと現代の武器を使用して処理しているからだ。
「なるほどな~……ま、ケガをしないよう用心しながら進めってことか」
「そうニャ!」
そう言っている間にナオトはよほどのどが渇いていたのか次のビンを開けた。
「ナオト様? まだ飲むニャ?」
「なんかリポデー飲んだら口の中が甘っとろくてさ」
そう言ってナオトが飲もうとしているのは毒消しのビンだった。
「もしかして毒消しって、毒状態じゃないときに飲むと身体に毒?」
それも市販ドリンクだから問題ないはずだったと記憶している。
「毒消しなら大丈夫だったはずニャ」
「そりゃ助かるぜ」
するとナオトは疑うことなく毒消しを一気に飲み干した。
「あ~。この独特な味も飲んだことあるぜ……なんだっけな、ドクターなんとか……あ! 思い出した、ドクペだ!」
「毒消しニャ」
「いやこれドクペだぜ」
「毒消しニャ」
勇者のやつ、なかなか味に詳しいな……。
それも実は正解だった。
「さて、のども潤ったところでそろそろ元の道に戻ろうか」
「了解ニャ!」
そうして私たちが寄り道から通常ルートに戻ろうとしたときだった。
突如、近くの茂みがガサガサと音を立てたかと思えば、そこから飛び出してきたのはサルに鋭い爪や牙の生えたサルキメラだった。
「な、なんでここにサルキメラがっ!?」
私は驚いてつい素に戻って叫んでいた。
「サルキメラ!? もしかして昨日、リリアンを襲ってた奴かっ!?」
それは違う。昨日のサルキメラは襲われた私を勇者が助ける構図を作り出すための演出であり、そのときのサルキメラはスタッフが着ぐるみを着ていただけだ。
今回の遭遇について私は何も聞いていない。すなわち完全なる偶然、間違いなく本物のサルキメラなのだ。
「すまないリリアン君。どうやら黒子衆が一匹取り逃がしたようだ……気をつけて戦ってくれ」
ネコ耳型インカムから九条専務の声が聞こえてくる。
しかし私は蒼然としていた。
私自身、本物のキメラを目の前にするのは初めてだったからだ。
基本能力はたかがサルとはいえ、実際にそれを目の前にしてみると身体一つで生命のやり取りをするには恐怖が大きすぎる。
そしてそれはナオトも同じであろう。できれば最初はスライムなどの簡単に倒せるキメラから慣らしていきたかったところなのに、寄り道をしてしまった結果、偶然ではあるがもうお互いに無視できない距離でバッタリと遭遇してしまったのだ。
――戦うしかないのか……!
私が覚悟を決めてからナオトをチラリと見ると、ナオトも真剣な表情でアルミームソードを構えるところだった。
急展開ではあったが、避けようもなくエンカウント。
今まさに私たちの初戦闘が始まろうとしていた。










