彼は剣を抜いて変わってしまった(2)
そんなふうに全世界の注目が集まるなか、ふとナオトは足を止めた。
「ちょっと待って。せっかくだし剣を抜く前にこの風景を写真に残しておきたいよな」
うぉい! いい場面なんだよ! 余計なことをしてないで早く剣を抜けよ!
「あっ、と……そういえば違世界にスマホはなかったんだっけ」
ナオトは少し残念そうな顔をしたのち、再び足を前に運ぶ。
が、なぜかまたすぐに止まった。
「待てよ待てよ? せっかくのシーンだし、剣を抜いたあとのカッコいいポーズまで決めてからじゃないとダメだろ」
そんなことどうでもいいから!
そんなふうに何度か私たちが肩透かしをくらっていると、背後から事情を知らないモヒカン頭のエキストラが肩をグルグル回し、意気込んでやってくる。
その男は肩になにやらトゲトゲのついた防具を装備していた。
「いよーし! 今日こそ俺様が伝説の剣を抜いてやるぜぇ!」
あんたその格好、違世界つーか世紀末じゃねーかよ!
私がツッコんでいる間にもそのモヒカン頭はズカズカと歩んでくる。
「おっ? もしかして先客か?」
そう、そしてその先客ことナオトがあんたの目の前で勇者として剣を抜くのだ。
裏方事情が伝わりきっていない、はぐれエキストラが現れたのは偶然だったが、これも恐れ慄く役割ができたというもの。
勇者ナオトの威光の前にひれ伏すがいいっ!
「ニャふふ~! 残念だったニャ~。あなたの前に、ナオト様が伝説の剣を引き抜いちゃうのニャ~!」
これもまた演出のチャンスとばかりに私は得意げに胸を張った。
だがモヒカン頭は台座の前で待機していたナオトに並ぶと、彼もまたナオトを同じエキストラだと思ったのかこう言った。
「ガハハハ! 兄ちゃんも勇者希望ってか! だが残念だったな! あの剣を引き抜くのはこの俺様だぜ!」
そしてナオトはナオトで完全に自分にしか剣が抜けないと思っているのか、余裕の態度でこう答える。
「そうですか。ではお先にどうぞ」
いやいやいや! ここで順番を譲ってんじゃねー!
と、そこで私は一度冷静に考えてから騒然とした。
待て待て待て!
たった今、アルミームソードのロックを解除しただろ!
たとえそれがエキストラだろうと世紀末モヒカン頭だろうと剣が抜かれてしまうだろ!
「お、すまねぇな兄ちゃん! んじゃあチャッチャと抜いてやるからよ。先に抜かれても泣くなよ!」
そしてモヒカン頭はヒョイと身軽な動きで台座に飛び乗った。
どうしてこんなときに急に素早い動きをするのか!
「ちょっ! ロック、ロック! 問題発生! 早く剣をロックしてニャ!」
「えっ!? またロックですか!?」
私はドタバタしながら小声で本部に合図する。
それがなんとか間に合ったのか、モヒカン頭は剣を引き抜けなかった。
「チッ! やっぱ今日も抜けねーか。ま、いいぜ! また明日も来るからよ!」
そしてあっさりとモヒカン頭は帰っていく。
「じゃあ、次は俺の番だな」
が、その直後に今度はナオトが台座に飛び乗った。
「ちょ! 解除っ! ロック解除! すぐ! 急いでニャ!」
なんでナオトまでこんなタイミングで急な動きを……!?
「えっ!? ロック!? 解除!? どっちなんですっ!?」
本部の混乱が伝わってくる。
「解除! 解除! 解除ニャ~!」
ここで剣が引き抜けなかったらナオトは勇者として終わる。プロジェクト崩壊は免れない!
私は騒然としながら両手を結び、目を閉じ祈った。
「よしっ! 抜くぞぉ~!」
頼む! ロック解除間に合ってくれ! 剣よ、抜けろ、抜けろぉ~!
冷静に考えて抜ける抜けないの指示を出せる私が何に祈っているのかとは思うが、私は必死だった。
そして――。
私が再び目を開いたとき、ナオトはただ黙って、その手に握ったアルミームソードを天に向かって高らかと掲げていた。
チャーラーラーラー!
と、森のどこからか伝説の剣を引き抜いたときに相応しい音楽が聞こえてくる。
「ニャー! 勇者様ニャ! やっぱりナオト様は勇者様だったニャー!」
私は安堵のせいもあってか飛び上がり、力いっぱいナオトを祝福する。
「な、なんだってぇ~! お、俺様の剣がぁ~!?」
その場を去りかけていたモヒカン頭も振り返って腰を抜かしていた。
そしてまた、それに張り合うかのように派手なアクションで驚いていた人物がもう一人。
「ま、まさか本当に……本当に勇者様じゃったか……!」
その人物とは村長こと風間セツ。
いや、あんた自分で剣を抜くよう仕向けておいて腰を抜かすほど驚くことはないだろう……。
「す、すげぇぜ兄ちゃん! あんたが、あんたこそが伝説の勇者だっ!」
モヒカン頭は事情を察したのかナオトのよいしょを始める。
「け、剣が抜けてワシの腰も抜けましたじゃ~!」
駄作家のセツはもはや何を言っているのかわからない。
「な、なんというオーラだ……これが勇者か……後光が差して見えるぜ……!」
「ぐふぅ! ワシなんか勇者様の威光によって命が削られとるわ~!」
「俺様だって、生きがいの剣を抜かれて生きる意味を見失っちまったぜぇ~!」
「ワシなんかもうお迎えが見えてますじゃー!」
なに変な方向に張り合ってんだコイツら……。
だがそんな賞賛? のような声援を受け、ナオトもまた気分をよくしていたようだった。
「は~っはっは! どうだ! 見たか! 俺こそが真の勇者だぜぇー!」
どうしたことだろう。
今のナオトには、表情にも口調にも自信がみなぎっているように感じる。
もしかしたら長いニート生活のなかで失いかけていた自尊心が、イースに来てからというものヒロインに好かれ、伝説の剣に認められ、超絶ハイになってしまったのではなかろうか……!
「これで俺は無敵だぜ! モンスターだろうが魔王だろうが、全員アルミームソードのサビにしてやるぜぇー!」
いやぁ……。
さすがに魔王まではいないとか、そういう問題とはまた少し違う問題に発展しかねない不安がある。
あぁ……なんということだ……。
彼は剣を抜いて変わってしまった……。
あなたが手に握るそのアルミームソードは、ミスリルでもアダマンタイトでもオリハルコンでも、いや、ただの鉄ですらなく、本当は、ただのアルミニウムで作られた玩具のような剣だというのに。
アルミニウムソード → アルミームソード
「ユーアー、ショォック!」(世紀末感)
これで魔王が倒せるのかよ的な絶望感がありますね。
ま、勇者が気づかなければそれでいいんです。










