彼は剣を抜いて変わってしまった(1)
静謐な森の奥にひっそりと石の台座が設けられ、その中心に一本の剣が垂直に突き刺さっている。
どこか既視感のある光景だったが、勇者以外には抜けない特別な剣であることを演出するため、何人かのエキストラが我先に剣を抜かんと群がっている。
そのせいか私は観光地にでも来たような気分になっていた。
エキストラには今日勇者が剣を引き抜きに来ることを雑に伝達しているだけなので、各々が勇者来訪のタイミングを知らず、それゆえに肩の力を抜いた自然な演技ができている様子だった。
「すごいな……これが伝説の剣か……」
ナオトもまた私と同じように感嘆していた。
「ご覧ください勇者様……あれが伝説の剣『アルミームソード』ですじゃ……」
セツが剣を指さして言う。
「アルミームソード!」
ナオトは色めきだった。
「あのように勇者でもない者がいくら力まかせに引き抜こうとしたところで決して抜けはしませんのじゃ」
顔を赤くして必死に引き抜こうとしているエキストラもいるが、台座の下でロックを掛けているので当然抜けない。
「アルミームソードは主を選ぶのじゃ」
バァン! と勢いよく言ったわりに月並みなセリフだぁ。
「ナオト様だけの剣ですニャ~!」
私は大きく手を回し、元気な声で明るい雰囲気を作る役割に回る。
「あれが……俺の剣……?」
そしてナオトはゆっくりと剣に近づこうとするが、それをセツが止める。
「ただし勇者様……アルミームソードを手にするにあたり、一つだけ心得ていただきたいことがありますじゃ」
そこでセツは少しトーンを落とす。
「剣を抜くということは、同時に勇者としての使命も引き受けるということですじゃ……」
「大いなる力には、大きな責任がともなうということか……」
ナオトは自分の手を見つめ、セツはナオトに頭を下げた。
「勇者様……どうかイースをお救いくださいじゃ……こんなこと、生涯をかけてなおイースを救えなかったワシに言えたことではないのじゃが……」
うわ~。重い話で勇者を宿命に縛り上げていく作戦だぁ、と私は感心していた。
しかしナオトは友人であるセツの頼みを聞いて、真剣な表情で台座の剣を見つめた。
「わかった。セツの想いを絶対に無駄にはしない……セツがやり遂げられなかったこと……研究施設の自壊コード装置は俺が必ず起動してみせる!」
ま、目的意識を持たせるという意味では十分だろう。
「ありがとう、ありがとうございますじゃ勇者様……」
セツは両手でナオトの手を取った。器用に涙を流して、なかなかどうして演技派なようだった。
さぁ。ついさっき即席で設定されたとはいえ、友の生涯をかけた熱い想いを引き継ぎ、いよいよ勇者が伝説の剣を抜く感動のシーンである。
そしてここぞという場面になって、タイミングを見計らったように剣に群がっていたエキストラが一人も残らずはける。
誰にも邪魔されない重要なシーン。
私が――あなたを勇者にしてあげる――。
「現場はオッケーニャ。剣のロック解除を願いますニャ」
私は小声で本部に合図を出す。
「こちら本部、了解……解除した」
インカムから返答があり、剣の準備が整う。
「ニャア! それじゃあナオト様! さっそく剣を抜いてみるニャ!」
私の促しに従ってナオトは台座に近づいていく。
さぁさぁさぁ! このシーンは当然、全世界に配信されているよ!
伝説の剣を引き抜いたときの効果音、何で脳内再生されますか?
私はもちろんマスターソード! (チャーラーラーラー!)
同じだった勇者仲間の人は高評価とブクマですね?










