原作99パーセント改変の駄作家(2)
「ん? そうだ、ついでにいいことを思いついたぞ。実はプロジェクトの最終目的地となる研究施設だけは現代風の建物なのでな。違世界の風景に相容れず、目的地としての扱いに困っていたのだ」
「どうするつもりニャ?」
「風間セツは、研究施設とともに現実世界から迷い込んできた設定にしよう」
酷いこじつけを感じる。
「私が調べたところ、キメラの遺伝子にはいざというときのために例外なく自壊コードが定められていてな……研究施設にある設備から特定の波長をイース全体に流せば、それを受けたキメラどもは自壊して全滅……つまり我々の最終目的を達成できるというわけだ」
「私たちはそのために研究施設を目指していると言っても過言ではないわけですニャ?」
「そうだ。キメラを一匹ずつチマチマ倒していても非効率的だからな……とはいえ、そんな自壊コードなどという科学的な話を違世界の住民が知っているのもおかしい……説明に苦慮するポイントだったのだ」
「なるほどニャ! そこでナオトさん以外に現実世界から来た人の存在が必要になるわけニャ」
「そうだ。よし、そうと決まればさっそくこの方向で村長による説明事項を追加しよう」
「で、でも……」
私はまた一抹の不安を覚えた。
「設定が盛り盛りになっても仕方ないので、一度冷静になって話を整理してみませんかニャ? 今の話をまとめると……村長は現実世界から転移してきた人物。かつナオトさんと同年代の友人なのに老人。かつ科学的な知識があるけど記憶喪失なわけですニャ?」
んなモン、どう考えたって無理じゃねーか!
「そうだ」
いや、矛盾に気づけよ。
「少し要点の整理をするニャ……?」
私は不要な設定を省くことで少しでも矛盾を解消しようと試みる。
「まず、村長イコール老人である必要はないはずニャ?」
「だめだ。それでは村長感が出ない」
そこ重要なのか?
「ならせめて、説明役が村長である理由がないと思うのニャ」
「RPGや違世界モノでは、序盤の説明をする人物はだいたい集落の長と相場が決まっている」
くっ! 駄目だこの専務……!
私は悔しさに震える拳を握りしめた。
「厳しい条件なのはわかる……だがやるしかない。やるしかないのだ」
本当にこの人、九条財閥の専務か!?
まさか約一ヶ月にも及ぶ私とのヒロイン修行によって、九条専務まで違世界の思考回路に汚染されてしまっているのか!?
「あ、あの……急なトラブルなのは理解できますが、こういう変更はもう少し慎重に検討を重ねたほうがよいのではないですかニャ……?」
「大丈夫だ。違世界なら記憶喪失、時間跳躍、その他矛盾の一つや二つ、軽く笑い飛ばすのがお約束だろう」
いやぁ、ラノベなら少しくらい仕方ないかもしれないけど、それ混ぜちゃ危険なヤツでしょう……?
「……まさか、どうしても抵抗しようというのかな? リリアン君」
「というより、世の中には相反する条件というものがありますニャ……」
「そんなもの勢いで踏み潰していけばいいだろう」
「私にはそのやり方が想像もつかないニャ……」
「そんなもの、言葉のロードローラーで踏み潰せばよいのだ!」
「にゃふん! きゅぴきゅぴ!」
ロードローラーを打ち出されてしまっては、私は言論を封殺されたに等しかった。
「まぁそう一人で抱え込むことはあるまいよリリアン君。村長役の風間セツとて今回の事情は承知している。困ったときにはきっと助け舟を出してくれるはずだ」
だけどその作家、改変率99パーセントの駄作家だろう?
それが逆に心配なの、わっかんないのかな~……。
その後、二度と戻る予定もない家を出た私たちは、集落の通りを村長宅に向けて歩いていた。
「おやおや、リリアンが立派な男の人をつれて……ようやく春かのぅ……」
「なかなかにお似合いの二人じゃないかね」
「ええのぅ、若いもんは……村長に結婚の挨拶にでも行くのかのぅ」
道ゆくエキストラの老人たちが台本どおりに私たちをはやし立てる。
本来であれば私が「も~! そんなんじゃないニャア!」などと満更でもない演技をすることでナオトの気分を盛り上げるところではあるが、今の私はそれどころではない。
なにせその村長役の出来によってはたちまちプロジェクト崩壊に陥るのだから。
私は案内と称してナオトの少し前を真顔で歩いていた。
そして。
私たちはとうとうその村長宅の前にまでたどり着いてしまった。
私は軽く村長宅の扉をノックして、明るい村娘のノリで大きく声を上げる。
「村ちょ~! リリアンだニャ~! 勇者様をお連れしたのニャ~!」
すると家の中から渋い声が聞こえてくる。
「おや、リリアンか……なんだかいつもより浮かれた声じゃのう……どれ、入りなさい」
おや、予想に反してまともな声だぞ……?
「は~いニャ! それじゃ、失礼しますニャ~!」
そして私は明るく、そして内心ではドキドキしたまま扉を開ける。
そこにいたのは――。
違世界風の衣装をまとい、白髪に顎ヒゲを生やした立派な老人だった。
自然と腰を曲げ、杖をついた姿からはどう見てもナオトと同年代だという印象は受け取れない。
「よく来たのぅ……それにまさか勇者様を導いてきてくれるとは……お手柄じゃぞ」
これは、上手く化けたか……?
「ニャふふ~!」
私が褒められて純粋にも喜んで見せると、次いで村長はナオトにも頭を下げた。
「ようこそおいでくださった勇者様……ワシはこの村で村長をしております、セッカと申しますじゃ……」
無難な態度! 自然な演技!
これなら、これならまだプロジェクトは継続できる……!
私はそう確信してナオトのほうに振り返った。
だが、そんな村長を見ていたナオトは訝しげな表情をしており、やがてこんな言葉を漏らした。
「セッカ……? その顔、その声……いや、どう見ても風間セツ……だろ?」
フフッ。初見でバレた。
高評価、ブクマがないと……
「ロードローラーだッ!」










