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処刑された悪役令嬢、二周目は「ぼっち」を卒業して最強チームを作ります!  作者: みかぼう。
第1章

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第7話 沈黙の会議室

(エリアナ視点・王都の会議室)


 会議室に入った瞬間、空気の重さが分かった。重厚な扉が閉まる音が、少し遅れて反響する。


 高い天井。磨かれた長机。席に着いた貴族たちの視線は、静かだが、様々な思惑が渦巻いていた。


 エリアナは一礼してから、用意された席に着く。王都での会議に慣れていないわけではない。それでも、今日は少し違った。地方視察の報告。それが議題であることは分かっている。


 ――聞かれるのは、内容だけではない。


 誰が、どう語るのか。どこに重きを置くのか。そういう場だと、エリアナは理解していた。


◇◇◇


「では、公爵令嬢エリアナ。地方視察について、報告を」


 司会役の貴族が、淡々と促す。エリアナは立ち上がり、軽く息を整えた。


「はい」


 声は落ち着いていた。意識して、感情を抑える。


「今回視察した町では、市が立ち、周辺の村からも人が集まっていました。表向きには活気があり、交易も続いています」


 何人かが頷く。


「一方で、物流の遅れが出ています。倉が詰まり、荷下ろしに時間がかかっているという声がありました」


 手元の書類に視線を落とし、数字を確認する。


「人口は微増。ただし、季節ごとの変動が大きく、安定しているとは言い切れません」


 淡々と、事実だけを並べる。父から教えられた「線」を越えないよう、慎重に言葉を選んでいた。


 活気がある。余裕があるとは言っていない。

 苦しい。だが、破綻しているとも言っていない。


 その線を、慎重に歩く。


「町の人々の声は、多様でした。現状に不満を持つ者もいれば、今は耐えるべきだと考える者もいます。いずれも、生活の延長として出ている声だと感じました」


 言い切らず、そう添える。


◇◇◇


 最初は、静かだった。誰も遮らない。誰も笑わない。報告としては、整っている。だが、質疑に入った途端、空気が変わった。


「確認ですが」


 一人の貴族が、指を組んだまま口を開く。


「つまり、不満は蓄積している、と?」


 エリアナはすぐには答えなかった。


「不満という言葉で一括りにするのは、難しいかと」

「では、統制の問題ではありませんか?」


 別の声が重なる。


「物流の遅れ、人口の流動。地方の管理が追いついていないのでは?」


 問いは穏やかだが、意図が隠されている。あたかも「不備があるから、中央が介入すべきだ」と誘導されているかのような違和感。


 エリアナは、視線を上げた。


「現地では、管理が及ばないというより、変化の速度に追いつこうとしている、という印象を受けました」

「変化、ですか」


 誰かが小さく繰り返す。


「地方の期待が、過剰になっている可能性は?」


 その言葉に、わずかなざわめきが走る。


 エリアナは、一拍置いた。ここで強く否定すれば、感情的に見える。肯定すれば、現地の声を切り捨てることになる。


「少なくとも、現地では、“変えたい”という声が、生活の延長として出ていました」


 それ以上、踏み込まない。説明も、擁護も、しない。そうすることが、父の言う「正しい在り方」だと信じていたから。


◇◇◇


 沈黙が落ちた。短いが、確かな間。


 誰かが書記を見る。ペンが、紙の上を走る音が、やけに大きく聞こえた。


 エリアナは、視線の動きを感じたが、気に留めなかった。必要なことは、言った。余計なことは、言っていない。


 そう思っていた。だが、空気は微妙に変わっていた。誰も直接は言わない。だが、視線の動きや、わずかな間の取り方が、一つの評価を、静かに行き渡らせていく。


 若い。現場に近い。感情が入っている。


 そんな受け取られ方が、言葉にならないまま、場に残った。そしてそれは、エリアナの預かり知らぬところで「政治的なラベル」として彼女の背中に貼られていく。


◇◇◇


「地方の発展は、王国全体にとって重要です」


 王太子アレクシスが、ゆっくりと視線を巡らせてから口を開いた。感情を煽るでも、誰かを責めるでもない。いつも通りの、穏やかな調子だった。


「短期的な安定だけでなく、中長期的な成長を考える必要があります」


 アレクシスが言葉を尽くしている。エリアナには、アレクシスの真摯な思いがよく分かった。


 だが、周囲の反応は薄かった。彼の言葉は正しい。正しすぎて、この政治的な駆け引きの場では、何の重みも持たずに空転していた。頷く者はいる。しかし、議論は広がらない。どこかで、「その話は、今ではない」という空気が漂っていた。


◇◇◇


 宰相は、発言しなかった。席に深く腰掛け、表情を変えずに、全体を見ている。エリアナの報告も、質疑の応酬も、王太子の言葉も。すべてを、等距離で。


 その瞳は、獲物が網にかかるのを静かに待つ蜘蛛のようだった。エリアナが「正しさ」を語れば語るほど、彼女を追い詰めるための糸が強固に張り巡らされていくことに、彼女は気づかない。


 やがて、宰相が一言だけ告げる。


「報告は、受け取りました」


 それだけだった。評価も、結論も、ない。会議は、そのまま次の議題へ移る。


◇◇◇


 会議が終わり、席を立つ。廊下に出ると、張りつめていた空気が、少しだけ緩んだ。


 エリアナは、深く息を吐く。


 ――うまくいった、はず。必要なことは伝えた。偏ってはいない。


 そう思っていた。しかし、解散する流れの中から、小さな声が耳に入った。


「……地方寄りだな」

「若いからな」

「感情が入るのも無理はない」


 それらは、悪意ではなかった。ただの評価だった。だが、その評価は、静かに残る。


 王太子が、少し遅れて追いつく。


「……気にすることはない」


 そう言われ、エリアナは小さく笑った。


「はい。私も、そう思っています」


 その言葉に、嘘はなかった。これが後にどのような罪の形となって返ってくるのか、知る術もなかったから。

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