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処刑された悪役令嬢、二周目は「ぼっち」を卒業して最強チームを作ります!  作者: みかぼう。
後日談/最終章

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第2話 月下の輪舞、重なる鼓動

 王宮の舞踏会場へと続く大廊下。その入り口で、エリアナは少しだけ足を止めた。


 隣に立つアレクシスが、完璧な所作で右腕を差し出す。


「準備はいいかい、エリアナ」


「はい、殿下。……その、少しだけ、緊張しておりますけれど」


 エスコートを受けるため、彼の腕にそっと手を添える。


 手袋越しに伝わるアレクシスの腕の確かさと、彼が自分を見つめる真摯な眼差し。ほんのわずかな接触。けれどそこから伝わる確かな熱が、エリアナの心に甘やかな安心感を広げていく。アレクシスは彼女の緊張を察したのか、悪戯っぽく、けれど優しく微笑んだ。


「大丈夫。今日の君は、この会場で誰よりも誇らしく、美しい」


 その飾らない言葉に、エリアナは頬を林檎色に染めながら、小さく頷いた。


◇◇◇


 重厚な扉が開かれ、侍従の朗々たる声が二人の名を告げた。足を踏み入れた瞬間、数百の視線が一斉に集まる。


 シャンデリアの幾千もの光がエリアナのドレスの刺繍を煌めかせ、人々の感嘆の吐息がさざ波のように会場を渡っていった。


 二人はゆっくりと歩を進める。声をかけてくる貴族たち一人ひとりに、アレクシスは鷹揚に頷き、エリアナは優雅な会釈を返す。かつてのような探り合うような視線ではなく、純粋な敬意と歓迎の熱が、会場の空気を心地よく震わせていた。


◇◇◇


 一通り挨拶を終え、ようやく主賓席の近くで一息ついたところで、エリアナは会場全体を見渡した。


 かつて王権至上主義を掲げた「中央派」という枠組みは、今や新しい国造りの奔流の中で自然と解消されている。


 ふと視線を向ければ、あの老獪な宰相オルフェンが、かつては対立していたはずの地方領主たちと穏やかに笑い合いながら、地方自慢のワインに舌鼓を打っている姿があった。


「宰相閣下も、あんなに楽しそうに地方のお話を聞いてくださるのですね」


「ああ。君が繋いでくれたこの『対話』こそが、今の王国の新しい形なんだろう」


 アレクシスは満足げに頷き、彼女の手を優しく引いてダンスホールの中心へと誘った。


◇◇◇


 オーケストラが、弾むようなワルツを奏で始める。


 アレクシスのリードは、力強くも驚くほど軽やかだった。一歩、また一歩とステップを踏むたびに、エリアナの心から重力が消えていくような錯覚に陥る。


 アレクシスの掌が腰をしっかりと支え、もう一方の手が彼女の指先を優しく、けれど離さないという強い意志を込めて握りしめている。


「……ふふ、殿下。少し、ペースが早くなってはいませんか?」


「おっと、済まない。君とのダンスが楽しすぎて、つい浮き足立ってしまったよ」


 二人は声を合わせて笑い、軽やかに、そして情熱的にフロアを滑っていく。


 翻るドレスの裾がアレクシスの燕尾服と触れ合い、重なり合う視線の温度が一段と上がっていく。アレクシスの瞳には、エリアナしか映らない。きっと、エリアナの瞳にもアレクシスだけが映っている。


 音楽がクレッシェンドを迎え、アレクシスはエリアナを鮮やかに旋回させる。視界が光の渦となり、最後の一音とともに、彼は彼女をしっかりと自分の胸元へと引き寄せた。


 静止した瞬間、重なる吐息。見つめ合う二人の間に、言葉など必要なかった。


◇◇◇


 会場の喧騒を背に、二人は涼やかな夜風を求めてバルコニーへと出た。


 銀色の月光が石造りの手すりを照らし、遠くからは楽団の奏でる穏やかな小夜曲が漏れ聞こえてくる。


「今日は、本当に素晴らしい夜ですわ」


 エリアナが手すりに手をかけ、夜空を見上げる。


 澄んだ空気。隣にいる愛する人の気配。すべてが完璧だった。


 けれど、ふと吹き抜けた風がエリアナの髪を揺らした瞬間、彼女の瞳にほんのわずかな、霧のような陰が差した。


「……エリアナ?」


 アレクシスが、彼女の顔を覗き込むようにして問いかけた。


「あ、はい。……何か?」


「いや。……最近の君は、時々どこか遠くを見ているね。まるで、ここではないどこかの景色を思い出しているような……そんな気がするんだ」


 アレクシスの言葉に、エリアナの鼓動がわずかに跳ねた。


 彼はそれ以上、深く問いかけることはしなかった。ただ、冷えた彼女の手をそっと自分の大きな掌で包み込み、温めるように握りしめる。


「……気のせいですわ、殿下。ただ、今の幸せが、あまりにも眩しくて。いつか、消えてしまうのではないかと……」


 エリアナは微笑み、アレクシスの胸元にそっと寄り添った。


 その微笑みの奥にある秘密に、彼が触れるのはまだ先のこと。


 今はただ、重なる体温だけが、この平穏な夜が現実であることを告げていた。

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