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処刑された悪役令嬢、二周目は「ぼっち」を卒業して最強チームを作ります!  作者: みかぼう。
後日談/最終章

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第1話 約束の味、明日への灯火

 王都から続く街道を、公爵家の紋章が入った馬車が揺られていく。窓の外には、晴れ渡った空のもと、荷物を満載にした荷馬車が通り、道端では老夫婦が日向ぼっこをしながら休憩している。


 その平和な景色を眺めながら、エリアナは静かに目を閉じた。


 ループ前の世界で、泥濘に沈み、悲鳴と絶望が支配していたあの道の記憶が、ふとした瞬間に蘇る。あの時は、歩くことさえ困難な泥の海だった。けれど今、馬車の車輪が刻むリズムはどこまでも軽やかで、かつての地獄が嘘のようだった。


「お嬢様、もうすぐ町が見えてまいります」


 隣に座るミレーヌの声に、エリアナは我に返った。

 膝に掛けられた毛布の柔らかさ。ミレーヌの温かな気配。


(……夢ではない。私たちは、生きているのね)


 エリアナは自分の首筋にそっと触れ、その温もりを確かめるように小さく頷いた。


◇◇◇


 町に入ると、新しい木材の香りが漂う露店が並び、活気に満ちた人々の声が石畳を揺らしていた。エリアナは馬車を降り、中央の広場へと歩みを進める。


 そこは、二周目の世界において、反乱軍となった人々が結集し、異様な殺気と怒りに染まっていた場所だった。けれど今は、広場のあちこちで人々の笑顔と市場の活気があふれていた。ふと見ると、広場の端から、懐かしい湯気が立ち上っていた。


「さあさあ、温まってお行き! 今日はいいカブが入ったから、最高の出来だよ!」


 聞き覚えのある、しわがれた、けれど張りのある声。エリアナは吸い寄せられるように、その煮込み屋へと歩み寄った。


 そこには、一周目では橋の崩落に巻き込まれ、冷たい川底へと消えていった老人が、元気に大きな木杓を振るっていた。その傍らには、かつて「請願団」でエリアナに命を預けると誓った、あの若者――老人の息子も立っている。


「なんだ、王都の女神様じゃないか!あんときゃ、息子が世話になったな!」


 老人は大きな木杓を止めて、クシャリと顔を綻ばせた。


◇◇◇


「……おじいさま。お元気そうで、本当によかった」


 エリアナの言葉は、少し震えていた。

 老人は不思議そうに首を傾げた。


「そりゃあ元気だよ。あの夜、堤防に『奇跡』が起きて、俺たちは一人も欠けずに済んだんだ。全部、あんたや王太子殿下が事前に手を打ってくれたおかげだって、町のみんなで話してたんだよ」


 奇跡。老人がそう呼ぶそれは、エリアナが仲間と共に勝ち取った「当然の平和」だ。


 出された木の皿には、黄金色のスープ。カブと、柔らかな肉と、香草の香りが鼻腔をくすぐる。


 エリアナは一口、それを口に運んだ。腹の奥からじわりと広がる温かさ。


 ループ前の世界で、あの時おじいさんは「次のときは、別のものも出すよ」と言ってくれた。それはもう存在しない、エリアナ一人の記憶の中にしかない思い出だけれども。


(……ようやっと、『次のとき』が訪れたのね)


「……おいしい。本当においしいです」


 誰にも知られることのない約束が、ようやく果たされた。喉の奥がツンと熱くなり、エリアナは俯いた。


「ははは、泣くほど美味いか。本当に美味そうに食べてくれて、ワシまでなんだか嬉しくなるよ」


 老人は満足げに笑い、エリアナの頭を優しく撫でるような視線を向けた。


◇◇◇


「私も、その輪に加わってもいいかな?」


 不意に背後から響いた、落ち着いた声。


 振り返ると、そこには護衛を遠ざけ、質素な外套を羽織ったアレクシスが立っていた。


「アレクシス殿下!? 王都でお仕事があるはずでは……」


「君が『大切な約束』を果たしに行くと聞いたからね。どうしても隣にいたくて、追いかけてきてしまったよ」


 アレクシスはエリアナの隣に座り、同じように煮込みを注文した。


 王宮の会議室で、ルーカスと連携して宰相と互角に渡り合い、エリアナの『盾』になってくれていた彼。今はその瞳に柔らかな光を湛え、エリアナの手をテーブルの下でそっと握りしめた。


「いい町だ、エリアナ。君が守りたかった人たちが、こうして笑っている」


 アレクシスの大きな掌から伝わる体温。ミレーヌが微笑みながらそれを見守り、ダニエルが遠くの屋根の上から周囲の安全を確認している。みんなが、生きている。


(これが、夢ではないのなら……)


「……殿下。私、この煮込みのレシピを王宮に持ち帰りたいですわ。いつか、私たちの子供にも食べさせてあげたいから」


 エリアナの少し背伸びした言葉に、アレクシスは驚いたように目を丸くし、それからこれ以上ないほど幸せそうに笑った。


「ああ。……そうしよう。必ず」


 青い空の下、煮込み屋の湯気はどこまでも高く昇っていく。

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