"辯論"
「異議有りだ」
よりにもよって、施錠されている筈の我が家に押し入ってきた少年二人は、僕を巻き込んでベランダで裁判を始めてしまった
歳の所は僕と同じくらい
有り得ないくらい腕っぷしが強くて、二人も居て、おまけにそれぞれ僕の左右の手首をがっちりと掴んで離さない
役割としては黒い髪の貫頭衣の少年が検察の様な感じで、白い髪と貫頭衣の少年は僕の弁護人の役割の様だった
二人共それぞれの服と同じ色をした翼を一対、背に備えて居る
『そういう存在なのだろうか』、僕は戦々恐々と様子を伺い続けて居た
「この子供は確かに幾つかの罪を犯したが、多くは実行を強要されての犯行だ」
白い服の少年がまくし立てる
黒い方の少年が口を挟もうとしたのすら遮って絶え間なく続ける辺り、良くも悪くもこうした場に強そうな雰囲気だった
「その過失を彼に問うのは正義に反するし、そもそも年齢的に責を問われるべきでは無いだろう」
「無罪だ」
これは議論なのだろうか
結論すら彼は一人で出そうとする
黒い服の少年が、うんざりとした様に口を開いた
「『幾つか』でまとめて個別の罪状の審議を誤魔化すな、強要されても罪は罪だ、人間の法と違い我々の議論では年齢による酌量は考慮されるべきでは無い」
苛々した早口だ
白衣の少年が、肩をすくめて僕に向き直る
「彼は一刻も早く君の魂が食べたくて、あんな事を言ってるんだ」
「悪魔め」
「聞こえてるぞ」
黒い方の少年が憎々しげに言った
「それだけでなく訂正もさせて貰うが、俺の与える終わりには慈悲と尊厳が有る」
まだ状況は解っていなかったが、この二人が天使と悪魔である事はなんとなく解り始めてきた
加えて言うならば、『悪魔は僕を罪人にして殺そうとしている』って事も
不安げに白衣の少年の瞳を視る
彼は優しく微笑むと、「大丈夫」と僕に言った
悪魔はその時、舌打ちをして居た
たった三人の法廷のせいか、審議はすらすらと進行した
僕の罪状は万引きとか学校で行ったいじめとか、妹の顔を殴って怪我させた事とか、同級生を階段から落として遊んだ事とか、そんな他愛も無い内容についてだった
天使の弁舌は雄弁で、たびたび悪魔が口を挟んだものの、大体は最後に言い負かされて居た
段々解ってきた事だけど、どうやら最終的に判決を下すのは僕であるらしい
「楽勝じゃん」僕が誰にも憚らずそう言った
天使はそれを聞き、眼を細めて微笑みながら頷いて居た
判決の時が来た
「あとはもう、決めるのはお前だ」と、諦めたような声色で悪魔が言った
「お前は自分が有罪だと思うか?それとも、無罪だと思うか?」
何故悪魔が進行役などをしているのだろう、穢らわしい
僕は悪魔を嘲るような視線で視ながら、たっぷりの自信を持って「そりゃ無罪だろ」と答えた
悪魔が、心底落胆した様な表情で嘆息する
「俺は、ちゃんと聞いたからな?」
「お前自身に判断させたぞ、いいな?」
哀しげな眼で悪魔が僕を視る
そして、握って居た僕の手首をゆっくりと離した
天使が「君も職責を果たしたんだから、僕たちWin-Winじゃない?」と悪魔に嗤う
「美味しそうだなぁ、こんなに可愛い子供が生きたまま食べれるなんて僕は幸せだ」
天使が僕の両肩を掴む
指が食い込んで痛い
天使は僕の方を真っ直ぐに視ながら、大きく口を開けて居た
白い歯、
紅く濡れた舌、
ピンク色の口内、
糸を引く唾液と、その奥には仄暗い喉が視える
僕だけがこの状況をよく解って居なかった




