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私が魔力を封じる石の塔へ幽閉され、父が死後転じた4つの結晶は国の東西南北に配置され、国の豊穣を司る宝物となったそうだ。
もともとこの国には定期的に王家の者が龍となって討伐され、死後生まれる結晶を国内に配置し、豊穣の力を得ていたため、王家の管理する塔が存在している。
結晶たちは意思を持っているかのようにそれぞれあるべき場所へと塔の中に納まったが、古い文献を確認すると塔を管理する王家のものがいないと力は発揮されないと判明したそうだ。
そのため私は幽閉されつつも「聖女」として塔のお勤めが課されることとなった。
私の色は聖女でしかなかったからそう呼ぶことにしたのだろう。
ドゥグムはそんな私を東西南北の4つの塔に紫水晶の転移の魔法具で私を運び、お勤めを果たしていることを確認して塔へと連れ帰る、そんな役割だった。
ドゥグムには私が龍になる一族とは言っていなかったし、幽閉されたときも何も言わなかった。
ただ、咎めるような目で「アリーチェ様、どうして」と言われただけだった。
父はドゥグムにも優しかったはずだし、その父を殺した私は憎いだろうし、そもそも簡単に龍すらも屠れる私は化け物でしかない。
そもそも15の頃からあれだけひどいことを言って遠ざけようとした姫だ。
このお勤めに巻き込まれるドゥグムが哀れだったが、私に近づける人間がいない以上ドゥグムを縛り付けざるをえなかった。
貴族たちは夜の者を疎んでいたから何も心は痛まなかったでしょうけど。
私が生きている限りドゥグムを苦しめる。その事実が悲しかった。
幽閉される場所は変わったし求められるものの形は変わったけれども、安全なように隔離され魔力を吸い取られる生活という大枠は何も変わっていない。
ただ、1年に4回のお勤めの日以外は私は植物のように息をして過ごすだけ。
変わったことは普段ドゥグムはいないということだけ。
年に4回だけ会えるドゥグム。ドゥグムからしたら4回も会わなければならないともいうけれど。
それだけなのに空っぽになったかのようで、冷たい石の上にねころびまどろむ。
私の魔力を全て吸い取って普通の女の子にしてはくれないか。
この力がなければドゥグムの側に違う形でいられたかもしれないのに。
そして父が言っていたように、夜の者はこの世界に人間として私をつなぎとめるものって本当だったのかしら。
龍になっても構わない、全てを壊してこの国から去ればよい。
そんな気持ちがあるたびにドゥグムの姿がちらつき私はまた力なく石の床にうずくまる。
ドゥグムがいる世界をまだ壊したくない。
これだけの力があるのだから全て壊して逃げればよいのに。
父はこのために私とドゥグムを引き合わせ、ドゥグムはその任務を忠実に守ったんだろう。
私は母を知らない。もしかして母はドゥグムのような人だったのではないかとふと思った。龍をこの世界に繋ぎ止めるため存在。この国の犠牲となることを厭わないために準備された愛おしい存在。
貴族たちも私の処遇でどうやら揉めているのか9年が経っても私は淡々とお勤めだけをこなす存在だった。
豊穣をもたらす龍かもしれない存在。
でもあまりの力の強さに人間では制御できないかもしれない存在。
王家の生き残りが私だけである以上、権力を握りたい貴族たちには邪魔ではありつつも自身の正当性を主張するために私を取り込もうとしたものもいたが、婚約どころか私と会話どころか会っただけで怖気づく始末。
倒せない怪物は捕らえて封印する。おとぎ話で語りつくされたそれも私に当てはまるのかもしれない。
どうして私は父以上の力を持ってしまったのか。
分からない問ばかり頭に浮かんで私はまた考えることをやめてまどろむ。