8, 自己紹介
ミュシュラはふかふかなソファーに腰掛けて口を開いた。
「改めて、俺は、ミュシュラ。推定25歳。誕生日は保護された日の白息の月7日。チャームポイントは陽の光の加減で色合いが微妙に変わるこの癖っ毛緑髪。ハルバルという商隊のリーダーをしている。所属する国は無し。年がら年中世界を旅するから所有している店舗なども無し。女性との関係も無し。孤児だから親も無し。ナイナイ尽くしの商人さ。」
「子供になんて話をしてんだ。」
「事実だからね。隠しても仕方ない。」
ミュシュラから見て左側、壁に沿うように置かれたベットに胡座で座るアオから向けられる胡乱な視線には気付かなかったことにした。
「この子はアオ。俺が拾った2人目の子。26歳。誕生日は雪解けの月の30日。拾ったところは別の所だけど、アフィナの山側の生まれみたいだね。こっちも恋人は居ない。ハルバルの薬学担当で、薬の売買を主にしている。手先が器用で、体も柔らかいから、運動全般得意。使う武器は⋯言わなくてもいいね。」
「物騒なことを教えようとするな。あと、野菜が無理でラーメンが好き。肉も好き。」
「いつか肉が無理になった時のために野菜は食べれたほうがいいよ、偏食家なアオさん。」
「余計なお世話だ。」
ベットに腰掛け、ツンツンとアオを突付けばガシリと頭を掴まれてしまった。痛くはないが背筋がゾッとしたので煽るのはこのくらいにしておこう。
「で、この子はケイト。」
ミュシュラは部屋に入ってからソファーでずっとアオを見上げるケイトを手で示した。
「数日前まで劣悪な環境にいて話せなかった。身体中に暴力を受けた痕がある。俺は、君にこの子を助けてほしくて連れてきた。そしてついでに親を憲兵に渡してきた。」
「ボスはやることが相変わらずえげつねー。え?ソイツとは今回が初対面だろ?」
「そうだね。正真正銘初対面だ。」
「⋯⋯ケイトだっけ?」
「ひゃうっ。」
アオは立ち上がるとケイトの前まで歩いて来て、目線を調整するように屈んだ。
「取って食いやしねぇから安心しな。ボス⋯、ミュシュラが連れて帰ってきたんだ、それなりの見どころがあるってことだろ?」
「⋯。」
「それはつまり、同じように拾われた自分にもそれなりの見どころがあるんだぞって言いたいの?」
「ボス、ここで冷やかし入れるか普通?」
「ごめん、場を和ませようと思って⋯。」
アオはケイトの頭をポンポンと雑に撫でると、立ち上がって壁にかけていた鞄を手に扉へと向かった。
「俺の幌馬車から傷薬とか諸々を取ってくる。しばらく留守番頼んで良いですか?」
「あぁ。何時間でも⋯は、流石に無理だけど。1時間くらいなら。」
「あお、どこか行く?」
「呼び捨て⋯。オニーチャンとでも呼んでくれたら嬉しいですね。」
「にーたん!!」
「⋯⋯⋯⋯⋯。ボス。」
「ん?」
「ケイトの親権、俺に譲ってくんないスか?」
「駄目だよ。(そもそも俺も親権持ってないけど。)」
アオはため息をつくとその場に座り込んだ。
「どうした?」
「腰の力が抜けた。」
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