7, 仲間
「うわぁ~!!」
ケイトは目を輝かせた。途切れることのない人の往来。建物と建物の間を巡っているのは、そこにはない店へと人々を誘うための案内布。
「みゅーら、しゅごいね!!」
「こんなところで驚いていたらこのあと驚き疲れちゃうよ、ケイト。」
ミュシュラは己の腕の中で辺りを見回す小さな存在の頭を撫でた。
「次はどこ行くの?」
「仲間に会いに行くよ。そういえば、あの子はどこの宿に泊まるって言っていたかな。げ、げ?」
「『月下の灯』でしょ?」
突然、耳元で声がした。ケイトは驚いてこちらを見あげるが、心配しなくても声の持ち主は自分たちを害することはない。ミュシュラはなんだか可笑しくて笑ってしまった。
「やぁ、お出迎えありがとう、アオ。」
「いいえ?ボスのためなら何処へでも。ってか、その子供何?」
振り返ってみれば、そこには青髪の青年が居た。見定めるように細められた同色の瞳、不貞腐れたようにへの字に曲がる唇。
「また変なの拾ったでしょ。」
「うん。俺の子供。」
「はぁ?」
「みゅーら、誰?」
「おっと、ごめんねケイト。紹介しようか。」
「その前に、一旦どこかに入ったほうが良いんじゃないの?」
彼は周りを見回した。
「確かに、人にぶつかってもいけないしね。」
「?」
「アオ、宿に案内して。」
「了解。」
彼はクルリと回って後ろを向き歩き始める。華麗に人と人の間を通り抜ける足捌きに感心しながらも、遅れてはぐれてしまわないようにミュシュラも歩いた。
(今日は少しアオの足が速いな。拗ねてるのかな。)
彼はいつも己に歩くスピードを合わせてくれるのに、と物珍しく思いながらしばらく歩けば、彼は唐突に歩くのを止める。
「おっと。」
「宿はここですよ、ボス。」
「ありがとう。」
彼が指さした建物を見上げる。外装は黒色がベースの上品な感じ。2階構造で、屋根付近には可愛らしい鳥の彫り込みがある。
「昨日確認したときはまだ空きはあったから予約しといた。ボスの部屋は2階の手前の部屋ね。俺、2階の1番奥の角部屋だから、鍵もらったら来て。俺は先に上がっとく。」
「了解、ありがとう。」
急に『帰る』とだけ手紙を送っただけなのによく気が利くものだ。と、ミュシュラは建物の中へと入っていく背中を見ながら思った。
「みゅーら、あの人、怖い?」
「いいや、すごく可愛いよ。今は少し怒っているだけ。きっとケイトも彼を好きになれる。」
「ほんと?」
「本当。」
ミュシュラは満足気に微笑むと、『さぁ、俺たちも行こうか』と言って扉に向かって歩き始めた。
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