6, タハドへ向かって。
「キャハハ」
「楽しそうでよかった。」
ケイトの楽しそうな笑い声が辺りにこだまする。ミュシュラは、
(なんだこの可愛すぎる生き物は⋯。)
と思いながら、優しくケイトの頭を撫でた。
今いるのは右も左も何もない平原。の、間にポツンと作られた街道。街道と言っても、草が刈られているだけなので、幌馬車で通るには少しデコボコし過ぎているが。
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「昨日、傷を治してくれる人に会いに行こうって言ったの覚えてる?」
「うん。」
「その人はね、タハドって国に居るんだ。」
「たーど?」
「そう。タハド。大陸の西側で一番の商業の国。国の規模は小さいものの、山脈の向こう側とこちら側をつなぐ大切な国。」
「?」
「難しいね。つまり、人と物がいっぱい集まるんだよ。」
大陸の西側には、2つの大きな山脈がある。その向こう側に、大国ムーヴァをはじめとした聖公国があり、
タハドは、平原では唯一そことこちらを繋げる国だ。
(密入国したい人とかは、死ぬの覚悟で山脈を越えようとするけど。)
「そこに今から向かうつもりだ。この国に心残りはない?出てしまったら、しばらく戻ってこれないよ?」
「ない!」
ケイトはキッパリと答えた。
(ケイトは、もしかして本来はおしゃべりが好きなのかな?にしても、急に話せるようになったな。良かった、良かった。)
「なら、明日この国を出よう。今日は、食料とか、旅に必要な物資を揃えに行こうか。」
「うん!」
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「みゅーら、これは?」
「それは夏に花を咲かせる植物だよ。」
「お空に居るのは?」
「あれは⋯、何の鳥だろう。太陽のせいで影しか見えない。」
ケイトが街から出たのはこれが初めてなのだろう。すべてのものに驚いて、楽しげにミュシュラを見上げては、『あれは何』、『これは何』と、問いかけてくるのだ。
(タハドに着いたら字を教えるために絵本を買ってあげよう。あと、植物図鑑と動物図鑑。)
植物図鑑と動物図鑑は学者などが仕事で使う専門書しか無いが、きっと持ってて損はないだろう。多分ケイトは喜んで読む。
「はぁ、子どもがいるって、こんなに幸せなんだ⋯。」
「みゅーら、しあーせ?」
「幸せだよ。ケイトがいるからね。可愛いね、ケイト。大好きだよー。」
ミュシュラは手綱を握っていない手でケイトを抱きしめた。
(仲間がこんな姿を見たら、キャラ崩壊を起こしてるとか言うんだろうな。)
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