20, 商人の部類
「旅商式商人用の露店の敷地の申請も承認されたし、良かったね、ケイト。」
ミュシュラは隣を歩く小さな天s⋯⋯ではなく、ケイトに話しかけた。
「良かったの〜?」
「これでようやく商売ができるよ。」
(確か、使用許可の出た市場はこの辺だったな。)
手続きの時に説明を兼ねて受付嬢がくれた、街の大まかな地図を確認する。
街の中心に役場⋯⋯、その東側の大通りの中腹辺りに印がつけられていた。
「こっちだね。」
商人には、大きく分けて二つの種類がある。
1つ目は『商人協会』に所属している商人。
いろんな場所を転々とせず、特定の場所で店舗という固定資産を持って商いを行っている商人。本店と複数の支店を抱えている商人。店舗に業員が居る商人。まぁ、一般的なタイプだ。そんな彼らを近場の者同士で繋げ、交流の場を構え支援するのが商人協会。地区によっての特別な商人の活動規定などもあるので、どれだけ商人協会が嫌いでも、その場所に店を構えてしまったらもう、所属しないといけない。
『商人協会に入ってなかったんだけど、他の街じゃこのやり方で行けてたのに、何故かそれがここじゃアウトで今憲兵の詰所。』
とは、『商人日記』と呼ばれる長年発刊されて謎に一定層の支持を読者からもらっている本のシリーズの、商人協会創立直後に発売された巻の文章だ。この本は本当に商人が書いた日記らしく、得意先との喧嘩とか、嫁に逃げられたとか、そういうプライベートのところも書いてあったりもする。
ミュシュラも以前に読んだことがあるが正直、なぜそれが売れるのか全く分からなかった。
(じゃなくて⋯⋯。でも正直、場所によっては商人協会も腐ってることがあるからあまり俺は好きじゃないな。奴隷売買、危険な魔獣の密売その他いろいろを賄賂をもらって黙認してたり。)
まぁ、どこにも不穏分子は眠ってるということだ。
気を取り直して、2つ目が、『旅商式商人』と呼ばれる商人だ。
商人協会に所属していない商人、つまり、固定の店舗・従業員を持っていない商人は全員そう呼ばれる。
ちなみに、商隊も部類は旅商式商人に含まれるから、ミュシュラが長をしているハルバルも旅商式商人である。
「って、あれ、この建物は⋯⋯。」
「みゅーら、どーしたの?」
「いや、考え事をしてたからか、真反対の方向に来てしまったようだ⋯⋯⋯。」
しかし、何度地図を見ても地図が示す場所も、ミュシュラがいる場所も、正しいようだ。
(あの受付嬢、旅商式の商人に商人協会への地図を渡すなんて⋯⋯、間違えていたのかは知らないけれど、渡された商人によっては殴り込まれても仕方ないよ。)
商人協会の人間と旅商式の商人は、水面下では面白いくらいに対立している。
まず諸々の費用が浮くため、店舗を構える商人の方が稼ぎが出やすい。稼ぎが増えると仕入れの量も増え、品ぞろえが豊富になる。そうなると、珍しいものや高価なものも扱い始め、それを面白がった裕福層にコネができる。また商品が高値で売れて、また稼げる。そうして懐が温かくなった商人の中には、一定数、なぜか自分が偉くなったと勘違いを起こす輩がいる。その輩から、旅商式の商人はなぜかこう呼ばれている。
【上手いとこだけ持ってく羽虫】
稼ぎ時の街に出入りして、稼ぐだけ稼いで去っていく輩。
郷愁を知らない薄情者。
まぁ、お互いに敵意を抱くのも仕方ない。
一部の輩と理解していても、旅商式は協会自体に嫌悪感を抱く。
協会は、各地で祭りなどで稼ぐだけ稼いで出ていく旅商式が面白くない。
(正直、バカバカしいとしか言いようがないですがね。)
役場だって、そんな二つの勢力の争いを水面下にとどめるべく奔走してる商人ギルドからそれなりに話は来ているだろうに。
「まぁ、私自体はそんな因縁に興味ないけれど。」
「お前、そこで何を突っ立っている?」
(まさかこんな報告書通りの見た目をしているとは⋯⋯。)
・ぶくぶくと肥えて肉団子のようなシルエットの低身長の男。
・派手という言葉では表せないレベルの装飾品をゴテゴテと首やら腕やらに着けている。
・チョンと口の上に生えてる髭をずっと撫でてる。
・偉そうで腹立つ。
(あの調査報告書、最後の方に行く事に諜報員も書き方が投げやりになってるが、たしかにその通りだったようだね。流石、ギルドお抱えの諜報員。)
ミュシュラはケイトを抱き上げた。そして声の主に一礼する。
(ここで会えたのも何かの縁。今日は商売の拠点になる敷地の様子見のつもりだったが、予定変更だな。)
「どうも。私、商人のミュシュラと言うものです。以後、お見知り置きを、バッカス・デュハナード様。」
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