2, 見つけた最愛
「ふぅ。今日も良い一日だった。」
ミュシュラは売れ残った商品を集める手を一旦止め、伸びをする。周囲を見回せば、丸みを帯びた石畳が夕陽を浴びて橙色に染まっている。
「あと1週間はこの街に滞在できそうだ。その間に品物を売りつつ、仕入れもして⋯。」
一番大切なのは観光だ。この街のことをよく見て、次もまた来るべきかを考えるための材料を集めなければ。
「いつかの新婚旅行のために!!」
辺りが静まり返っているためか、頭の痛いことをした気分になってくる。冗談なのだが。
(そもそも俺に結婚願望はないよ。)
1人、頭の中でそう付け加えながらくるりと向きを変えた時だった。
「!!」
「?」
太ももの辺りに何かの感触がした。下を見下ろせば、今ぶつかってしまったのか、尻もちをつく男の子がこちらを見上げている。周囲に何か雑草がばら撒かれているが、子供のいたずらだろうか?
「⋯。」
「ごめんね。君がこんなに近くにいるって気づかなかったんだ。怪我はないかい?」
「⋯。」
男の子はヒョイと立ち上がると、ニマァッと愛らしい笑みを浮かべた。
「君、言葉を話せないのかい?」
「⋯?」
「こーとーば。今、俺が言っていることはわかる?わかったら、首を縦に振ってみて。」
男の子はコクコクと首を横に振った。
「え?わからない?」
「⋯?!」
自分が振る方向を間違えたと悟ったのか、今度はちゃんと縦に首を振った。
(おいおい。何だこの子、可愛すぎるだろ。)
「ん"、ん"っ⋯。えっとー、君、お家はどこ?家族は?」
「⋯。」
彼は首を横に振った。
「孤児なの?」
「⋯。」
また首を横に振った。
「まさか家なし?」
もっと大きく首を横に振った。
「じゃあ、養子か何か?」
「⋯!」
今度は大きく縦に首を振る。
「そっか。家に帰らなくていいの?」
「⋯!」
彼は辺りに落ちていた雑草(よく見たら小さな花だった。)を俺に差し出した。
(え?なにこれ。)
「くれるの?」
「⋯。」
彼は俺に雑草を握らせると、何かを期待するように
手をこちらに差し出した。
「まさか、これ、売ってるつもり?」
「⋯!」
彼は首を縦に振る。
(親はこの子になんて育て方をしているんだろう。)
ミュシュラは苦笑しながらポケットから銀貨を3枚差し出した。
「良い?今日は特別にサービスして買ってあげる。でもね、君の歳では何かあったらいけないからね、同伴者もいないのにこんなことをしてはいけないよ?」
男の子はコテリと首を傾げた。
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