16, アオの時間
作者史上最高(※今のところ)にグロいです。
そしてグロさを求めている人にとってはまだ足りないかもしれないです。
「へぇ~、じゃあその冒険者パーティーは、そのまま盗賊探しに行った、と?」
「そうだよ。この森のどこかにアジトがあるらしい。」
焚き火を囲み二人は情報を共有する。寝入ったケイトを抱いているアオは、考えるように上を向いた。
「襲われた奴らの特徴とか聞いたんすか?」
「金持ってそうな商人ばかりだったらしいよ。」
ミュシュラは昼に会った冒険者たちとの話を思い出した。
◈◈◈
『なんか、いかにもな商人だったぞ。』
『装飾品ジャラジャラ着けてた。』
『その人ずっと汗拭いてるのよ?』
『噂聞いてみたら、ぼったくり商人だの悪徳商人だの言われてて。』
『他にも前の街で騒ぎ起こして追放されたからここに来たんじゃないかぁとか。裏社会との繋がりがぁとか。』
『本当はこんな地雷スレスレの依頼なんて知ってたら受けたなかったのよ?でも、報酬がいいから受けてみたら、聞いてた話と違うし。』
『違う?』
『すまん、これ以上は話せない。』
『あ⋯ごめん、リーダー。』
『私も詳しく聞きすぎましたね。では、これで。』
『アイツラは日によって出る場所が違うから、拠点を度々変えてる可能性がある。気をつけろよ。』
『はい。』
『変に気になるとこで切った詫びに、この酒、晩酌にでも使ってくれ。』
『ありがとうございます。』
◈◈◈
「盗賊、ねぇ?」
「どうかした?」
「いいや、ボスはどう思う?」
「何かしてきたら対処するけど、何もしてこないならもう放置で良いかな。」
「とは言っても、普通の幌馬車1台に、それに繋げられる小型の幌馬車1台。かなり目立つぞ?」
「小型のをわざわざ買うのは珍しいからね。」
「あと、本当に拠点を移してんなら鉢合わせする可能性もある。」
「まぁ、すべて仮定の域を出ないよ。」
「⋯⋯。」
「アオ。来るまで待って。」
「わかってますよ。」
アオは、『先に寝るんでお願いします。』と言って後ろの木にもたれかかった。
(まぁ、望み通りすぐ来るさ。)
ミュシュラは念の為にと武器を取りに馬車へと入って行った。
◈◈◈
男たちは足音を消して幌馬車へ近付いた。視線で合図し合い、その馬車の持ち主たちが眠っているのを確認する。
(今回も楽に終われそうだ。)
男は笑みで口を歪ませた。嘲笑するは昔の自分。冒険者として真面目に依頼を受けて仕事をこなし、その日の金を稼ぐ。
(まさか、盗賊本人と会話していたなんて思わないよなぁ。酒もちゃんと飲んでくれたらしいし。)
この仕事を始めたのは半月ほど前。商人に雇われたのが始まりだ。
昼間は盗賊を捕らえんとする冒険者として動き、夜は昼に目をつけた森を通る奴らから金や食料、女、子供を巻き上げる。手に入れたものの何割かは報酬として自らの懐へ入れても怒られない。
(今回のガキは随分と警戒心が無ぇから、適当なこと言ってりゃあすぐ付いてきそうだ。あとは、青髪⋯か?とりあえずこいつが仲間って言ってた奴か。良い身体してるから奴隷商に売っても男娼にしても良いな。どちらにしろいい値がつくだろう。このモヤシみたいな緑髪の男だけは殺すか。)
「オカシラ。」
仲間の声のする馬車の前まで行けば、そこからわかるほど中は宝の山だった。武器に装備、ぬいぐるみ、本にその他色々。
「こいつ、土産好きなのか?」
「そこの奥に商業ギルドの許可証があった。」
「じゃあコイツ、商人なのか?」
「あっちの幌馬車には薬もあったし、今回はわたしたち、結構いいのに目を付けたわよ。」
仲間の女が端に置いてあるケースから宝石の付いたネックレスを取り出し、自らの胸のあたりまで持っていった。
「お、酒もあんじゃねぇか。」
「今日は拠点でパーッとやるか。」
「良いじゃない。私、たまには踊ろうかしら?」
「ガハハ。」
そこにいる仲間たちの興奮が上がると、同じようにだんだんと声の大きさも上がってくる。
「あ?なんだこの手帳。おい、灯りをくれ」
そんなとき、細い仲間が何かを持って外へ出てきた。
「手帳?にしては大きいわね。」
横の女も一緒にページをめくっていく。
「えっと、なになに?『アオ、いい子。待てが出きる。ただ、待てば待つほどその後が楽しいみたいだね。この前の仕事は彼が一番愉しんでたようだ。』これ、日記か?にしては⋯⋯。」
「他のページは?」
「なんだこれ、さっきと同じ書き方だと、人の名前になるが、異国の字か?『✽✽✽✽✽、この子は手先がとても器用だ。もう一人の人格も新緑のポルカに馴染んできたようで何より。』ん?新緑のポルカ?変な名前だな。」
(新緑のポルカ?何処かで聞いたことがあるような⋯⋯。)
「✽✽✽✽✽」
不思議な歌が響いた。聞いたことのない言語の歌。どの仲間とも違う低い男の声。ところどころに出てしまう掠れも、急に上擦る声も、全てが異質で全身を粟立たせる。
「なんだ?」
「おい、お前か?急に歌うなよ。ビビるだろ?」
日記を手に持っていた男が横でしゃがむ男の肩を叩いた。
「おい、そいつは誰だ?」
「え?」
その直後、しゃがむ男の肩に置いていた手が、血飛沫とともに持ち主だった男から離れた。
「あ、あぁ、ァァァァァァ!?俺の、俺の手がぁぁぁぁあ!!」
「「!?」」
手を失った男はパニックになり尻もちをつく。一部始終をみていた仲間は一斉にしゃがむ男へ武器を向けた。
「✽✽✽」
月明かりが強くなり、男の姿がより鮮明になる。盗賊の男は戦慄した。何故ならその男は、己が先ほど売り飛ばそうとした男だったからだ。
「おい、こいつ、酒の毒が効いてねぇぞ!!」
「はぁ!?そんなわけないじゃない。だってあの毒は」
「「睡黙花の鱗粉」だろ?」
「!?」
青髪の男が立ち上がった。男は侮蔑し嘲笑うような表情をこちらへと向ける。
「そんな弱ァい毒使っちゃダメだろ?睡黙花の毒なんて、そこらの薬草を使わなくても治るし。そもそも酒に混ぜるなんて、花の匂いが目立つから悪手も悪手だ。」
男は平然と歩いて小さな幌馬車へと入り、そしてまた出てきた。何かを手に持って。
「ハハハ、アハッ、アハハハハ。ボスの言った通りだぁ。待っていれば自分から来る。俺と同じ世の中のゴミが。」
「アオ、君は世の中のゴミじゃないよ。ましてやそんな奴らと同列なわけないでしょう?君は誰のモノなの?俺のモノを低く見積もるなんて、ひどいなぁ。」
「ボス♡」
馬車の上から静かな声が聞こえた。そこに居たのは子供を抱える男。
「アオ、血飛沫を幌馬車に付けないようにね。あと、すべて終わったら川で身体を洗いなさい。」
「はァい♡」
少ない動作で地面に飛び降りた男は子供を抱いていない方の手で青髪の男の顔を撫でた。彼が青髪の男へ向ける笑みはまるで慈愛に満ちた母のようで、盗賊たちはつい見惚れてしまう。そんなことを知ってか知らずか、男は続けた。
「フフッ、君は自分は狂ってないと言うけれどやっぱり狂ってるよ。」
「そォ?」
「その酔ったような顔、俺は好きだよ。愉しんでおいで。」
「ボスはぁ?」
「俺は宝探しに。」
「りょうかァ〜い。」
緑髪の男が森へ消えていくのを盗賊は我に返り慌てて止める。
「おい、宝ってまさ」
「何してんの?」
いつの間にか目の前に来ていた男に勢いよく蹴飛ばされ、男は吹き飛ばされた。
「ガハァッ!?」
「ちょ、頭領!?」
「誰が何の権利をもって、誰のボスを足止めしようとしてんのかって聞ィてんだろ?」
木の根元まで蹴って運ばれ、そこでさらにガシガシと蹴られる。気怠げに、適当に放たれるその蹴りは、一つ一つが信じられないほど重い。
(なんだコイツ。人間なのか?)
男の足の間から、仲間の女が木の陰にゆっくりと近づいて逃亡を図ろうとするのが見えた。
「あ?そこ逃げんなよ。」
「イャァァァァァァ!?痛い、痛ぃぃ!?」
だがそれは失敗に終わり、木を触っていた女の手に、男が投げた何か鋭いものが刺さる。
「抜こうとするなよ?それ、特殊な毒針だから。」
「ヒッ!?」
「貴様ァ、何してくれんだよ!!」
「ア"?何でお前らがやって良いのに俺はダメなの?オレ、意味分かんなァい。」
青髪の男は女の方へ駆けてく男を見ながら足元に転がる男へ強く足を落とす。骨が砕けるような変な音が辺りに響いた。
「ァァァァァァァァァ!?」
「はぁいはぁい。少し動くなよ?準備を終えるまで。」
くるりと踵を返し女に近づくと、その血の垂れる腕から勢いよく針を抜いた。
「痛ぁぁぁぁい!!」
「ぅるっせぇなぁ。そのキンキン声どうにかなんねぇの?あ~あ、アイツがいたら女はやったのに。アイツ、世の中の女全員恨んでんもんなぁ。アイツがやったら不思議とキレイに叫ばせられんだから、スゲェよなァ。」
その場に座り込んだ女の髪を掴んで、ついでに近くにいた男も引っ張ってまた自分へと近付いてくる。
その辺に2人を捨てたらまた仲間を捕まえに行く。また近づいて来て⋯⋯、それを何度か繰り返し、骨を砕かれた男の周りには既にボロボロになった仲間が転がっていた。青髪の男はそれを嬉しそうに見下ろし、ほぅっと深呼吸した。
「日が変わる前に来てくれたことには礼を言うな。おかげでたっぷり遊べるから。あ、安心しろ。傷は迷宮のポーションでいくらでも治してやるから。」
(あぁ、襲うヤツを間違えた。⋯⋯いいや、こんなこと、始めるんじゃなかった。新緑のポルカ、それは、いや、コイツラは⋯⋯⋯。)
◈◈◈
翌朝、近くの村の門の前に縛り上げられた盗賊と、村に滞在していた商人が居たらしい。彼らの泊まっていた宿の部屋には、今まで彼らが襲った人々の荷物が置かれていたのだとか。彼らはひたすらに身体を震わせ懺悔の言葉を繰り返し、捕まって牢に入れらたあとも懺悔の言葉は止まることなく紡がれ続けたのだとか。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




