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07「第七騎士団」

 政務庁舎裏手の区画。守備騎士団詰所の会議室には、第七騎士団予備戦力の十二名が集まっていた。他の十二名は庁舎各門に詰めたり、壁の内側を巡回したりしている。

「これっていったい何なんだ!?」

「こんな時期に配置換えなんて、おかしいだろ!」

「だいいち第十一騎士団っなんなんだよ? 聞いたことねえよっ!」

 突然の移動通達。騎士たちは若さに任せてイキリたつが、第七騎士団の団長バシュラール・ヴィクトルは難しい顔で瞑目していた。

「噂じゃ、西の騎士たちで新編成するらしいぜ」

「なにぃ~。それって……」

「俺たちが小馬鹿にされてんだよ。偉いさんの考えさ」

「「「……」」」

 皆黙りこくってしまった。このような配置替えは、戦時でもない限りほとんどが政治の事情で決まる。下っ端騎士がいくらイキったところで、恥ずかしいだけなのである。

「仕方ないか。俺が政務庁の騎士だって母親があっちこっちに自慢しちゃってさあ」

「俺もだよ。婚約者ががっかりしちまう。騎士の仕事がよく分かってねえのさ」

「どこも事情は似たり寄ったりか……」

 政務庁舎の守備はエリート騎士の証でもあったのだ。あきらめの雰囲気の中、愚痴とも不満とも思える言葉が続いた。

 ヴィクトルが静かに口を開く。

「皆、申し訳なかったな。いつかはここから移動にはなるが、よりによって最外周の偵察任務とは……」

 特に持場のない騎士団は遊軍扱いとなる。ありていに言えば便利屋として使われる存在だ。第十一団が新編成されたので、第七騎士団があまってしまったのだ。

「いやいや、団長。森の魔獣は活性化しているようだし、いよいよ精鋭の俺たちの出番ってわけですよ。戦ってこその騎士です」

 バシュレ・フェルナンは若手の中でもリーダー的な存在だ。立ち上がり皆の覚悟を試すように全員を眺める。

 いつもはひょうひょうとして、つかみどころのない男であるが誰よりも頼りになるとヴィクトルは知っていた。

「そうですよ! 俺たち政務庁務めで体がなまってたんですよっ!」

「やっと戦えるぜ。毎朝、令嬢様たちを眺められないのは残念ですけど……」

「お前はそっちかよ!」

「ははは。これかは毎日魔獣とお見合いさ」

 ただ愚痴を言ってみたかっただけの若者たちであった。血気盛んなのだ。

「お前たち……」

 この移動はあきらかな左遷であった。気が付かないフリをする部下たちをヴィクトルは誇らしく思うのだ。

「フェルナン。魔獣が活性化していると言ったな。根拠はあるか?」

「はい。小物に連鎖して倍々で出現率が上がっていますね。ここで止まるか、あるいは続きがあるのか。西の連中はムカつきますが精鋭ぞろいですから戦力にはなりますよ」

「いざとなったら働いてもらうさ」

 ヴィクトルは満足そうに頷き、そして立ち上がる。

「と、言うわけだ。皆、気を引き締めていけ。その時になったらこの街を守るのは俺たちだと見せつけてやるんだ!」

「「「オオッ!」」」

 皆も立ち上がり雄叫びを上げた。


  ◆


 政務庁舎の最上階にある守備隊用の物見塔で、ヴィクトルは一人遠くの森を眺めていた。

「団長……」

「ん? どうした? 今回の移動は悪かったな」

 ラファラン・マルゲリットが、やはり一人でやって来た。人に聞かれたくない話だと、ヴィクトルはピンとくる。

「いえ。私は戦うために騎士になったのですから本望です」

「そうだったな」

 と苦笑する。この女流騎士は少々気を張りすぎるのが欠点なのだ。今は回りに仲間がいるのでそれで良いと、この団長は思っていた。

「お話しがあります」

「なんだ? 言ってみろ。移動願いは聞きたくないな」

「実は妹さんに関係した話なのですが……」

 ヴィクトルはギクリとした。婚約破棄の件がついに外に漏れたのだと思った。そしてマルゲリットは騎士団の配置換えの話と結びつけたのだと。

「妹がどうかしたかな?」

「母親が社交界の夜会に出ろとうるさくて……」

「ん?」

「……私も昔は友人たちと行きましたけど、今の年齢の会は行ったことがなくて……」

「ふむ。俺も最近はないな」

 どうやら婚約破棄の件ではないと分かり、ヴィクトルはホッとする。

「ドレスにしても何も分からなくて、それで妹さんにご相談できればと」

「なんだ、そんな事か。お安い御用だ。妹はそんな話が大好きなんだよ」

「助かります」

「誰と行くんだ?」

「一人に決まっていますよ。それとも昔の友人を探して同行するか……」

 ヴィクトルは良い案を思いついた。

「なら、俺が同行するか。ちょっと夜会とやらに用事があるんだ」

「それはかまいませんが……。いえ、歓迎ですわ」

 マルゲリットは笑顔を見せてから真顔に戻り首をかしげた。騎士団長が夜会に用など想像がつかない。

「いったい、どうしたんですか?」

「うん……」

 ここで話してしまおうとヴィクトルは決断した。影響は騎士団にまで及んでいる。それに、どうせいつかはバレるのだと。マルゲリットは信用できる仲間だ。

「実はな――」

 妹の婚約破棄の話を聞いたマルゲリットは憤怒の表情になる。

「わけが知りたい。その夜会で噂話でも聞ければいいんだが……」

「分かりました。ご協力いたします」

「いや。お前の夜会に協力するのは俺だ。情報の収集はオマケだよ。それから移動の件。フェルナンに、それとなく酒場ではあまり愚痴るなよと言っておいてくれ。俺が言うと張り切りすぎるからな」

「はい」

 騎士団長としては、余計なトラブルはなるべく避けたいのだ。そして魔獣が活性化を始めた森にもう一度目をやる。


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