ようこそ裏世界へ
学校でいじめを受けて辛い日々を送っているあなたへ。
家庭に居場所がなく家に帰りたくないあなたへ。
恋人を失って失意にくれるあなたへ。
仕事ができず職場で毎日上司に怒られているあなたへ。
劣等感に、孤独に、羞恥に、夜が明けてまたやってくる一日に恐怖するあなたへ。
周囲はあなたを助けてはくれません。
無責任な優しさを、侮蔑を、嘲笑を、あなたに浴びせるだけなのですから。
連綿と続く地獄の日々に苦しむあなたを、私は救うことができます。
幸福な世界へ導くことができます。
そこは幽世の一歩手前、現世と幽世の狭間、”裏世界”。
あなた自身が強く思い描く幸せのビジョンが、その閉じられた裏世界の輪郭となり、形を成す。
それはただの意識の残像で、幻想ではあるけれど、あなたが描く幸せの形。
己の魂が昇華するまで、その世界に身を委ねることで安寧を感じてください。
あなたが幸せを感じる瞬間はどんな時ですか。
あなたが大切に感じていた人は誰ですか。
あなたは何に対して安らぎを覚えますか。
まずはあなたが創造する裏世界は、どこで、誰がいて、何があるかを明確に鮮明に思い描いてください。
その次。
少しばかり勇気が必要ですが、この地獄の世界から一歩踏み出すための大事なステップです。
苦しみはなく、陶酔感に酔いしれたまま逝くことができるので安心してください。
まず腕を胸の前でクロスさせてください。
クロスさせたまま、両手を首に添えてください。
親指と人差し指で喉を掴む感じです。
そうそう、いい感じです。
そして、ゆっくりと両手に力を込めてください。
ゆっくり、ゆっくり。
脳への空気の通りが少しずつ悪くなっていきますが、同時にお酒を飲んだ時のような酩酊状態へと意識が変化していきます。
クラクラと酔いが回り始め、心地の良い快楽があなたを包みます。
フワフワと意識が浮上していくでしょう。
あと一歩です。
酩酊状態の中、あなたが先ほど思い描いた裏世界を強く、そして何度も頭の中を反芻させてください。
何度も、何度も。
やがて瞼が重たくなってきます。
ここで首を絞めている両手を離してしまえば、あなたは地獄の日常に逆戻りです。
でも、あなたを決して引き留めはしません。
地獄の現世に戻るか、幸福な幻想へ逝くか、選択するのはあなたです。
……
…………
……………………
…………………………………………
後者の世界を選択したあなた、お疲れ様です。
あなたの意識は現世から滑り落ち、魂は身体から抜けていきました。
それでは、あなた自身が創造した裏世界へ、いってらっしゃいませ。
(『令和怪異物語〜裏世界〜 作者:夕闇鴉』より引用)
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