美水灰利の自殺
美水灰利が自殺した。
山登りサークルの同期であり、この前の雪山遭難より共に生還した子でもあり、馴染み深く、無口でコミュ障、個性の強い子だった。雪山遭難事件で亡くなった宇和木先輩、鎌田先輩に続き、サークル内で出た3人目の死者。つまり、今参列している美水灰利の葬儀より以前、つい最近2回もお葬式に出ている。しかし、何度出席しても慣れるものではなかった。
どんよりした重苦しい空気の中、喪服姿で参列する人達の顔色は一様にして暗い。ただ一人、棺桶に身を横たえた美水だけは、心穏やかな表情で安らかに眠っていた。
自室内での窒息死。それは、ロープを使わず自らの両手で首を絞めたことによるものだったらしく、その死因の不可解さ故、サークル内でもどよめきと困惑の空気が広がっていた。そもそも、なぜ彼女は自殺をしてしまったのか。
サークル学部の友人知人は口を揃えてそう言いながら涙を流していた。俺にも、彼女が自殺に至る理由は分からないし想像もできない。彼女が抱えていた心の闇など知る由もなく、知る機会が訪れることも恐らく一生来ない。何が何だか分からないままいきなり消えてしまい、残された者達はワケも分からず途方に暮れる。
悲しいよりも、胸にぽっかりと穴が開いた感じだ。当人の死に顔が穏やかだったことが救いでもあり、またとても寂しくもあった。葬儀を終えるとサークルの友人達から昼飯を誘われたが、あまり気分が乗らなかったので断った。
早々に帰宅する者、久しぶりの知人との再会に談笑する者、その場で黄昏ている者、喪服を着た人達が行き交う黒い海の中で、1人、発光するように目立つ真っ白い肌の少女が美水の入る棺桶の前で立っていた。
少女の特徴的な容姿を見て俺はすぐに思い出した。それは夕闇鴉さんだった。果たして彼女は美水とどういう繋がりがあったのだろうか。年齢も違うし、確か通っていた高校も違う。夕闇さんは浦和にある県立高校で、美水は川口にある私立高校だったような……。
考えるよりも話をした方が早いと彼女の方に足を向けようとした俺の目の前を、月乃が通せんぼするように立ち塞がる。
「夕闇さん、もう、――る。だから――」
「え?」
幽霊である月乃の声は遠くて聞こえづらいので俺は耳をそばだてて聞き返した。月乃の言葉を聞いて、俺はまた耳を疑った。
「夕闇さん、もう死んで幽霊になってる。だから、危険。彼女には近づかないで」




