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夕闇怪異物語  作者: スイミー
イースターエッグの怪
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女子×好奇心×噂=悪意

 確か、雲雀がエッグを売ったサッカー部の小鳩先輩は、自分の彼女にそのエッグをプレゼントしたと言っていた。まずはその彼女が誰かを特定しなくてはいけない。

雲雀に電話で聞いてみようと思ったが、小鳩先輩に口止めされている以上、聞き出すことは困難だろう。


 クラスの友達は知っているだろうか。イツメンの1人である鳥海にCODEで聞いてみると、鳥海の友達にサッカー部のマネージャーがいるらしく、聞き出してみるとのことだった。女子ネットワーク恐るべし。


『新しい男に鞍替え?(笑)』


 私は女子に向いていないんだろうなとつくづく思う。周りと一緒に他人の悪口と彼氏の品評会に楽しみを感じることができたらなぁ。他人のパーソナルスペースに土足で踏み込む彼女らの両足は泥だらけで、悲しいことに本人達はそれを自覚していない。いや、今私も似たようなことをやっているのか……。


 とはいえ、なんて返せばいいだろう。

 小鳩先輩の彼女が持ってるエッグが欲しい?

 雲雀が私のエッグを転売した?

 正直ベースの返答は彼女らに餌をバラまいているようなものだ。明日のお昼の話題でスポットライトを浴びることは御免こうむりたい。


『私の友達が小鳩先輩のことを気になってるっぽくて。知ってたら教えてあげようってだけ!』


 こうして事態というのは見栄と嘘と建前でこんがらがり、段々とほつれた糸がほどけなくなっていくのだと、翌日思い知らされた。


----------


 翌日、クラスの友達はなぜかよそよそしく、移動教室の時、休み時間の時、周囲から素っ気ない雰囲気を感じた。お昼休み、イツメンの友達の輪に入った途端、気まずそうに押し黙る様子に我慢ができず、私は口火を切る。


「私、……何かした?いつもと様子変じゃない?」


 グループの輪の中で目配せが行われる。誰が反対派代表として意見を述べるか吟味しあい、アイコンタクトで決定された内の1人が不機嫌そうに口を開く。


「ペリカンさぁ、雲雀君と上手くいかなかったからって小鳩先輩にちょっかい出すのやめなよー。先輩には彼女がいるんだし、そういうことするの、性格悪いよ」


「そういうことって、何?」


「昨日、鳥海使って小鳩先輩の彼女を調べさせたでしょ」


 鳥海に視線を送ると、彼女はペロッと舌を出して、こっそり両手を合わせてゴメンのポーズをした。


 この眼鏡ロリが…………。


 黒縁眼鏡で幼児体型もとい、低身長である鳥海のあだ名だったが、本人は低身長なのがコンプレックスらしく、眼鏡ロリと呼ぶと本気で怒るので、普段呼ぶことはない。ただこの瞬間は本気で口に出そうになった。


 彼女の悪気のなさそうな謝罪ポーズを見るに、話題のつもりで面白おかしく周囲に話したところ、予想以上に悪い方向に話が転がっていき収拾がつかなくなったというところだろう。私の探るような行為事態が確かに怪しいとはいえ、ノリが軽くてコウモリのようにあちこち飛び回る彼女はたまに殴りたくなる時がある。というか、本気で今殴りたい。


 面倒くさい。本当に面倒くさい。私は女子につくづく向いてないなと思う。

 鳥海みたいにベラベラ喋る女子、それを鵜呑みにして一致団結する女子、それを解消するためになんとか弁解の余地がないかと考える私……全てが馬鹿馬鹿しくなってきた。


そもそも雲雀が私のプレゼントしたイースターエッグを先輩に転売しなければ。


その先輩が、そのエッグを自分が作ったことにして彼女にプレゼントしなければ。


こんなことにはならなかったのに。


いや、そもそも私が目白綾香のエッグを――――――――


 窓際に座る目白をチラッと見ると、彼女は関係なさそうな顔で読書に耽っていた。

 彼女を追及するのはそれこそお門違いだと内省し、私は複雑に絡まる糸を引きちぎるように――――


「いやさ、私が雲雀君にプレゼントしたエッグ、サッカー部の小鳩先輩に転売されたのよ。小鳩先輩はそのエッグを自分が作ったことにして彼女にプレゼントしちゃってさ。挙句の果てに、そのエッグが呪われてるとかって雲雀君に言われたから頭にきて。今から私のエッグを小鳩先輩の彼女さんから回収して、仕返しに雲雀君の目の前でそれを踏みつぶしてやろうと思って。それで小鳩先輩の彼女が誰か確認することにしたの!」


 興奮して捲し立てるように話した私を周囲はポカンと口を半開きにして見ていた。


「……それ、マジのマジで……?」


 イツメンの皆はしばらく騒然としていたが、鳥海は恐る恐るといった様子で尋ねた。


「マジだよ!」


 顔を真っ赤にしながら前のめりに話す私を見て、彼女たちは我慢できなくなったのだろうか、急に吹き出した。今度は私の方が呆気に取られる。


「ごめんねペリカン。私たち、鳥海の話を聞いてあんたが手当たり次第男に手を出すような女だったのかって早とちりしちゃってたわ。本当にごめん。ほら、あんたも謝りな」


 軽く肩を小突かれた鳥海は、両手を地蔵のように合わせてごめんね、と一言言ってウインクする。


 本当に反省しているのか、こいつは……。


 性格はお世辞にもいいとは言えないが、周囲をあまり気にしなさそうな無神経さというか、ちゃっかりしてる彼女の性格は存外憎めないところもある。無性に殴りたくなる時はあるけど。鳥海に限らず、他の子達も意外とさっぱりとした側面があることに驚いた。


「ペリカンって、色んな男子に手を出したり上手く立ち回るほど器用な子じゃないもんね。面倒な事が嫌いで、スパッとはっきり言うタイプ?まぁ裏表なくて分かりやすいてことは改めて今の言動で再確認したわー」


 女子らしい女子も、女子であるということに疲れている所があるんだろう。

 女子らしくない私を認めてくれていたこと。

 勝手に自分の頭の中だけで複雑に考えすぎていることが、驚くほど簡単な話だったこと。

 感情に身を任せることで相手に伝わることがたくさんあること。


 10分にも満たない彼女たちとの会話だったが、どこか軽く見ていたイツメンの子達に対する理解が深まった気がした。そして自分を理解してもらえた気がした。


 怒りの熱が冷めてきて冷静さを取り戻したと同時に、気恥ずかしさが急速にこみ上げてきて、頭からプスプスと煙が立ち昇るように再び熱を持ち始める。


 不意に着信音が鳴り、落ち着かない視線をスマホに向ける。

 目の前にいる鳥海からのメッセージだった。


『MENGO!悪気があったわけじゃないのよ。思ったより悪い方向に反響しちまいまして……。あと、小鳩先輩の彼女のCODEのIDゲットしたよ!』


『全然気にしてないよ眼鏡ロリ!』


 鳥海がチンピラのように眉間に皺を寄せてメンチ切ってきたが、あんたのしでかした行為に比べればこれぐらいは許容範囲内だろうが。


「ダメンズどころか、クズだね。雲雀君も小鳩先輩も。現実問題、小鳩先輩の彼女からエッグを返してもらうって難しくない?私たちに話したように正直に話したら多分彼女さん逆上するし信じてもらえないかもだし」


 その通りで、実は私のイースターエッグだったという事実は、彼女にとって不都合な真実であり、真実というのは当人にとって不都合であればあるほど受け入れられない。


 小鳩先輩の彼女にどのような交渉を持ち込むことでエッグを回収できるだろうか。

 小鳩先輩や彼女の沽券を傷つけず、なおかつ彼女がエッグを差し出すに値する条件……。


 お金で購入?……難しいなぁ。

 正直に言う?……絶対無理。

 物々交換?……だったら金の方がまだ可能性が……。

 その他は…………


『盗んじゃう?』


 鳥海からのCODEのメッセージだった。

彼女は悪戯っ子のようにウインクしてくる。彼女の悪乗りメッセージに半ば呆れのため息が出るが、多少強引な手段に出るしかないかもと逡巡する。


 エッグは彼女の自宅で保管しているだろうし、仮にそこからエッグを持ち出させて、それから盗むというのも、難しい上にすぐバレる。盗んだ後も、本人に気づかれない方法があれば――――。


『盗まない!話は変わるけど、放課後暇だったら、ワック寄ってかない?バーガーとポテト奢るよ』


『1919!!』


 ちゃっかりしてるというか軽い奴だなと思う。だが善悪や常識的判断よりも、目先の好奇心や欲に忠実な気質である分、扱いやすくもある。性格がそこまで良くない分だけ、彼女を使うことに対する罪悪感も多少薄まる。


 私もけっこう悪い女子なのかもしれないなと、苦笑しつつスマホをポケットにしまった。


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