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夕闇怪異物語  作者: スイミー
首なし少女の死体探し
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心霊スポットとストーカー

 廃工場は駅から10kmほど離れた郊外で、山の麓近くということもあってか森林に囲まれている。迷い込むほどの広い森林ではなかったが、夜になると30m先も見えない薄気味悪い様相を漂わせている。死体を処理するには絶好の場所だと、酔いが一気に醒めたのを覚えている。


 車通勤の店長の送迎で向かった廃工場では特に何も起きず何も見つからず。夜の廃墟から放つただならぬ雰囲気は、霊感のない野郎4人を軽く竦ませるくらいわけないぜなんて言いそうなほどだったが、ビクついていたのは最初の10分くらい。


 何かが現れたわけでも、何かが見つかったわけでもなく。30分もたたないうちに飽きてきて、すぐにお開きとなった。城先輩はあの何が楽しかったというのだろうか。店長に車でリトルボーイまで送られ、解散となったその後。問題はここからだった。


 後ろから誰かが後をつける足跡が聞こえてきたのだ。


 振り返ってもそこには誰もいない。

 オヤシロ様だったらと思うと恐怖がせりあがってきたが、ここは村でもないし奇妙なウイルスが蔓延しているわけでもない、ただの市街地。気のせいだと思っていたのだが、その足跡は俺のアパートまでついてきて、ちゃっかりと中に入って居座り始めて今に至る。


 お前は誰だという問いかけに応じることはなく、メモを通した筆談にも応じないときた。引きこもりなら自分の家で勝手にしてほしい。人様の家に勝手に上がり込んで引きこもりをするなど聞いたことがない。


 しかし、行政や警察が対応してくれるのは生きた人間だけである。幽霊に対して動いてくれるほど社会は優しくないのだ。それなら、家賃を折半にしてほしいと思ったが、働いてお金を稼ぐことができるのもまた生きた人間。


 もしや幽霊って勝ち組では?と失礼ながら考えてしまった。せめて同居人が誰かだけは知りたいと思って対話も試みるも応じず、筆談も応じる様子は今のところない。


 幽霊が口を聞けないというのは理解できる。

 ホラー映画で出てくる幽霊達も、あーとかうーとか言葉にならない濁音を放つものだからだ。だが筆談には応じてほしいものだ。コミュニケーションというと、壁やテーブルを叩いて抗議の主張をしてくるくらい。いや、たまに優しい時もあるが、怒り9割優しさ1割。猛り狂ってるなぁ。


 せめて性別だけでも把握したいと、男ならノック1回、女ならノック2回で応答せよと聞いてみると、太鼓の達人をするがごとくテーブルを叩きまくったので聴取は断念した。


 事件は実際にあったようなので、あの後、事件の詳細や被害者の氏名、顔写真が掲載されていないか、図書館に赴いて、地方新聞を読み漁ってみた。


 被害者は10名以上。ナイフによる刺殺や絞殺など殺人方法はさまざまだったが、証拠隠滅のために毎回死体をバラバラにしていたようで、それ故に猟奇殺人鬼と当時地方を賑わせたのだった。残念ながら、被害者の数が多かったため、氏名顔写真は掲載されていなかった。未だに死体の一部が見つかっていない者もおり、捜索は引き続き続行しますとのことで記事は締めくくられていた。


 せめて女の子だったらいいのになぁという期待を幽霊に対して向けてしまうあたり、俺の欲求不満は相当のものかもしれないが、若い男子なんてみんな猿みたいなものだししょうがない。


 さっきから一定の間隔で座椅子から伝わる振動。殴りつけてくる暴力性を鑑みるに、認めたくはないがおそらく男なのでは?という疑いが首をもたげてくる。


 テレビのチャンネルを切り替え、ニュース番組からグルメ番組に映像が変わる。かき氷の名店が特集されており、見ているだけで僅かばかり涼めた気分になった。そして座椅子への暴力は止んだ。幽霊でも食に対する欲求が残っているのかと皮肉交じりに笑みを浮かべるが、また座椅子を殴られそうなので口には出さなかった。


 扇風機の風が隣にいるであろう同居人の身体を突き抜けて俺の半身を撫でる。ベランダに吊り下げた風鈴も風に揺られて夏の音を奏でる。


 暇だなぁ。

 

 かき氷の名店から都内の夏祭りへと特集が移り、着物を着た若いカップルや家族連れが浅草雷門でひしめいていた。風鈴の音色が唐突にパンクロックを刻み始め、同居人のテンションが上がったことを知らせてきた。夏祭りが好きなんだろうか。


「彼女さえいればなぁ。ある日急に家に女の子が来襲してきたりしないかなぁ。小早川さんとか。あ、図書館で会った紅目の女子もいいなぁ」


 はぁあ~……と大きな溜め息を漏らしてテレビに視線を戻した。ぼーっと眺めていると、テーブルに置いてあるペンがひとりでにメモ用紙の上でダンスし始める。10秒ほど踊った後にパタリと倒れる。


 呆気に取られつつ、ステージとなったメモ用紙を覗き込むと、


『その女、誰?』


 初めての筆談に驚いたが、以前同居人に対する疑問を筆談で試みた時は全スルーだったので、若干の不服感は否めない。それに、コイツが男だった場合、俺の数少ない女の子の知り合いに色目を使うつもりではないかと疑ってしまう。


 コイツやっぱり男かもしれないと確信に近づく。核心ではない。返答に困っていると、救いの手を差し伸べるようにスマホの着信音が鳴った。


 メッセージアプリのCODEを確認してすぐにげんなりした。


『おひさし~。明日暇?そっち遊びに行くね~。アパートの住所教えて』


 妹のつぐみだった。暇を持て余しているのは、高校生のあいつも同じか。

 それにしても。この一文で自分が遊びに行くことに対して有無を言わせぬ内容であるあたり、家庭内ヒエラルキーを感じてしまう。女の子との青春を求めていたが、自宅凸してくるのが妹か……。


 同居人のコイツに心霊現象起こされて大騒ぎされてもなぁ……と隣をちらっと見たが、当然何も視えず、様子は伺えない。


「明日妹が遊びに来るから、おとなしくしていてくれよ。色目も使うなよ」


 しーんと静まり返る室内。


「分かったら、ノックを1回、異議を唱える場合は2回叩いて返事くれ」


 独り言にも似た問いかけに対して、トンとテーブルを叩く音が1回。

 あら素直な子。

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