リリー実家に帰る
時間は少し遡る。
リリー(27歳)にもフィリピンで運転免許を取るように言った。リリーには小遣いとして500万円を渡した。飛行機はビジネスクラスにすること、フィリピンの銀行のBODに口座を作ること、フィリピンの実家に中古でいいから自動車を買うこと、妹のナンシー(22歳)とルーシー(19歳)にも運転免許を取らせ、合わせてパスポートも作らせること、一流のホテルに宿泊すること、以上を終えて10月までに戻ってくることを指示した。500万円は米ドルで持っていくそうだ。
BOD銀行はフィリピンで最大手の銀行だ。支店数もATM数も1番多い。日本人スタッフもいる。新宿に支店があって、フィリピン人が本国に送金に使っている。
フィリピンに帰る前に新宿にあるBODの支店で、リリーはフィリピンの自分の口座に2万ドルを送金した。
※ 1米ドル/250円と想定
フィリピン航空は1941年創業したアジア初の航空会社だ。羽田でラウンジで一休みしてか搭乗した。リリーは雄治に渋谷のマンションを買って(名義は雄治)もらってから、クリスマスから正月にかけて毎年実家に戻っている。ユージからお小遣いをもらって、ビジネスクラスを利用しているので慣れたものだ。
マニラのホテルにチェックインして、タクシーで実家に戻った。
「リリー、まあビックリした。どうしたの?いつもクリスマスの時に帰ってくるのに」
母親のマリーが笑顔いっぱいに抱きついた。リリーを16歳の時に日本に出稼ぎに行かして、仕送りもしてくれた。マリー(44歳)にとって初めての子に、苦労をかけさせて負い目を感じていた。立派になって戻ってきたので、誇らしく嬉しかった。
マリーは、スペイン人が経営した広大な農場にある村の一つに生まれた。代々スペイン人が経営していたので、農場の人達は最終的にスペイン系のハーフになった。その結果、美男美女が多い。一際美人だったマリーは農場主の息子の一人にレイプされて生まれたのがリリーだ。息子達にレイプされた農場の娘達は多かった。農場主も昔から同じことをしていた。子供が産まれても認知されることはなく、少ない小遣いをもらって遠ざけられた。要は面倒なので捨てられたのだ。
マリーは幼いリリーを自分の両親に預けて、マニラにあるゴーゴーバーで働くようになった。学もないので、持ち前の美貌とスタイルを武器に働くしかなかった。たちまち店1番の売れっ子になった。マリーをお持ち帰りする料金は他の女の子の5倍もしたが、そもそもが日本でいう1000円くらいだから、マリーほどの美人なら5倍でも引っ張りだこだった。当時のフィリピン人の年収が日本円で7、8万円くらいだ。マリーを買った外国人のうちの一人がアメリカ人だった。フィリピン滞在中の現地妻としてマリーを囲ったのだ。そこで生まれたのが、妹のナンシーとルーシーだ。しかし、そのアメリカ人が本国に帰ることになった。米国本国には妻と子供がいて、マリーのことは内緒だった。マリーは手切れ金をもらって捨てられた。手切れ金で、自分の両親の家近くに少し大きな家を買った。両親と同居したが2人ともすぐに死んでしまった。1970年頃の平均寿命は、日本人が70歳、フィリピン人はアジア最低で55歳だった。男手が欲しい時に、同じ村の10歳上の今の夫のジョージが転がり込んできた。ジョージにも妻がいたが、マニラで働いていた時に金持ちの爺さんの妾になって家を出て行ってしまって、その時は独身だった。村1番のマリーのことが以前より好きだったジョージは、家の小さな自家栽培をしている畑や子供の面倒をよく見てくれていた。マリーはジョージと結婚した。男の子が生まれた。今、中学1年生のウィリアムだ。
夕食の時、末っ子のウィリアムがリリーの横に座った。ウィリアムにとってリリーは憧れだ。上のナンシーやルーシーは怖い姉貴達で、口答えするようなら小さい時からボコボコにやられていた。確かに2人は凄い美人でスタイルもいいって学校の友達が言うけど、お前ら知らないだけだ。美人だって思ったことは一度もないし、女だって思ったこともない。中学1年生にもなると自慰もするけど、スタイルのいい姉貴達でしようとすると、胸の奥から気持ち悪くなる。やっぱり1番上のリリー姉ちゃんだ。ウィリアムが思うに、リリー姉ちゃんより美人でスタイルのいい女の人を見たことがない。
ウィリアムはリリーの横に座ると、ついリリーの長い脚に目が入ってしまう。リリーも気がついているのか、何度か脚を組み替えていた.
※当時の為替相場を1米ドル/250円と漠然と計算しやすい数字で本人達は考えています。
実際のドル/円
始値 高値 安値 終値
82年 219.80 278.50 217.70 235.30
83年 230.40 247.80 227.20 232.00
84年 233.60 251.70 220.00 251.58
85年 252.50 263.65 199.80 200.60
86年 202.95 203.30 152.55 160.10
87年 158.30 159.20 121.85 122.00
88年 120.45 136.80 120.45 125.90
89年 123.98 151.35 123.80 143.40
90年 145.55 160.35 124.05 135.40
91年 132.90 142.02 125.10 125.25
92年 124.03 134.95 118.60 124.65
93年 124.86 125.95 100.40 111.89
94年 112.78 113.60 96.35 99.83
リリー達の夕食が終わってからナンシーとルーシーが帰ってきた。
「ただいま。えっ、リリー姉ちゃん帰ってたの、わかってたら、もっと速く帰ってきたのに」
ナンシーとルーシーがそれぞれ言った。
ウィリアムが冷たい目で2人の姉を見た。せっかくリリー姉ちゃんの隣にいるのに、邪魔すんなよな、と思った。
「おっ、ウィル、リリー姉ちゃんの横で何すましてるんだよ」
ルーシーがウィルの髪の毛をぐしゃぐしゃにした。
「やめろよ、くそルーシー!」
ウィルがルーシーの手をほどいてルーシーを睨んだ。
「なんだとー、ウィルのくせに生意気だぞ」
ルーシーがウィルの頭を何度も殴った。
「もうやめて、許して、美人のルーシー姉」
ウィルがすぐに降参した。
「わかりゃー、いいんだよ」
「あんた達やめてちょうだい、リリーが帰ってきたんだから」
母親のマリーが注意した。父親のジョージはいつものことなので、何にも気にしない。それよりもリリーが帰ってきてニコニコしていた。
「ところで、何で戻ってきたんだい?」
母親のマリーが聞いた。
「うちのユージがね、運転免許を取ってこいって。車も買ってくれるって」
リリーの両手がテーブルの上で組まれていた。
ナンシーとルーシーの目が時計に釘付けになった。ロレックスのステンレスのデイデイトだ。
(この間来た時してなかったよね。ブランドはわからないけど高そう〜)
ナンシーとルーシーは思った。
(帰るたんびに高そうな服着てるし、いいなぁ)
「それでね、ナンシーとルーシーにも運転免許を取らせろって言うのよね」
「えっ、えっ、日本に行けるの?」
ナンシーが言った。
「あたし行きた〜い」
ルーシーが言った。
「そこまではわからないけど、考えてくれていると思う」
「お願い、リリー姉」
ナンシーが懇願した顔になった。
「もう、何でもするから、ユージ兄の愛人になってもいい」
ルーシーが言った。
「アタシもなりたい〜〜〜」
ナンシーが言った。
「あんた達、絶対に呼ばないから」
リリーが睨みつけた。
両親とウィルがさめた目をした。
(何なんだよ)
ウィルが思った。
・・・・
「とにかく、運転免許を取って来いって言うから、明日から教習所に行くからね、店は休むのよ」
「お金はどうすんの」
「ユージが出してくれるわよ」
フィリピンの自動車免許は実務18時間に学科だ。信号がひとつもない道路を運転して、上手ければ合格だ。費用も1人1万円もしない。3人とも1週間ちょっとで合格した。実務の最終日に終了スタンプの用紙を出す時にチップを挟んで渡した。
「優秀だから合格だよ」
言って終了スタンプを押してくれた。優秀の意味にはお金も含んでいる。
※ フィリピンは貧富の差が大きくて、貧しい家に生まれれば、その後の人生も貧しい。学歴があればちゃんとした企業に就職できるが、家が貧しければ大学に行くことができない。
治安も悪い、銃の所持が認められていて、殺人、強盗、恐喝、窃盗、外国人の人攫い。暴行は日常茶飯時だ。役人、警察官の詐欺、横領、汚職も多い。
日本人から見たら考えられないが、賄賂は普通に行われている。役人や警察官も手数料やチップの感覚かもしれない。物事を円滑に進めるには、役人へのチップも考えることだ。ただし、やってもいい場合と罪に問われるケースもあるので、フィリピンの慣習を知らなければならない、まあリリーに聞けばいいだけだ。
下町にはいくつものギャングがたくさんあって、毎日抗争がある。どこかのギャングに加入してないと生命の危険がある。ギャングへの加入は野蛮だ。男なら勇気と忠誠を示すために、麻袋を頭から被せられれ、周りから殴る蹴るの暴行を受けて半殺しにされる。女なら何十人の男からレイプされる。獣よりも外道だ。ボスの命令は絶対で、殺せと言われれば人を躊躇なく殺す。ボスの命令なく敵対組織の人を殺せば、仲間であろうと殺される。ギャングの一員になると、ギャングかボスの名前の入れ墨をする。しなければ仲間とみなされないし、日常の危険なことになっても誰も助けてくれない。
リリーがフィリピンに行ってから10日ほどしてから、夜、国際電話がかかってきた。コレクトコール(通話料を受信者が負担)だった。
「リリーだけど、3人とも運転免許取ったよ」
「それでね、車なんだけど何にしたらいい」
「そうだな、メモしてくれるか」
「はい、どうぞ」
「日本の日産のスカイラインかフェアレディZにしてくれ」
「判らなければ、BOD銀行に日本人スタッフがいるから相談してみれば?」
「スカイラインとZなら、新車でもいいぞ、金が足りなければリリーの口座に送金するから、金のことは心配しなくていいぞ」
「うん、わかった」
「それからね、パスポートの事を言ったら、ナンシーとルーシーが日本に来たいって」
「今、リリーの店を探してるから、それが済んでからだな」
「お店、持たしてくれるの?」
「新宿の店でお前が横にいて、2人でウィスキーを飲んでいたのを忘れられないんだ」
「あたしも同じだよ。・・・・」
「ま、とにかくそう言うことだ。車が決まったら、この時間に電話してくれ」
「じゃあな」
「カチャ」
「ツー、ツー、ツー、ツー、ツー」
「カチャ」
・・・・・・
「ユージ、会いたいよ〜」
翌日、リリーはナンシーとルーシーを誘って車を探すことにした。ハイヤーをチャーターした。
「スカイラインとZですか、車を運転している奴なら皆んな知ってますよ」
ハイヤーの運転手も一緒になって探してくれた。
当日の夜、コレクトコールがあった。
「もしもし、ユージ?」
「俺だけど、どうだった」
「うん、スカイラインもZもあったんだけど、走行距離が10万キロを超えてボロいのよ」
「一緒に探してくれた運転手さんが、新車にした方がいいんじゃないかて言うのね」
「それとね、スカイラインの中古で1万5000ドルもするのがあったのよ、新車が1万ドルなのにおかしいでしょう?」
「そしたらね、運転手のおじさんが、こりゃ掘り出し物だって」
「そのスカイライン、何か違ったところでもあったか?」
「おじさんがエンブレムを見てGTRだって」
「そのエンブレム、勝手につけたんじゃないか」
「おじさんもそう言って、店の人にボンネットを開けてもらったのよ」
「エンジンにNISSAN て表示されてただけだよ」
「でもおじさんが車の下に潜り込んで、事故車じゃないって」
「おじさんはなんて言ってた?」
「俺が買いて〜って言ってた」
「わかった、おじさんに賭けよう」
「明日行って買ってきてくれ、買えたら日産のディーラーに行ってメンテナンスを頼んでもらってくれ」
「うん、わかった」
「じゃあ、頼んだぞ」
「カチャ」
・・・
「新車の方がいいと思うけどなあ〜」
「カチャ」
翌日、リリーが買付に行った。後日納車ということで、3人姉妹で取りに行った。日産のディーラーに持ち込むと、GTRですか、しっかりメンテナンス致しますのでお任せください、と嬉しそうに答えた。3人でホテルでランチを食べていた、
「フィリピン人の年収が300ドルだよ、一体ユージってどれだけ金持ちなの?」
「あたしもよく知らないけど、今、東京でビルを買いまくってるから、年収1000万ドル(25億円)くらいかな」
リリーが適当に答えた。
「それって、フィリピンの財閥より凄くない?」
「東京では金持ちがたくさんいるから、そうでもないと思うよ」
「お姉ちゃん、どうやって知り合ったのよ」
ナンシーが聞いた。
「あたしも聞きたい」
ルーシーも身を乗り出した。
「あたしにもわかんないのよね」
夜、リリーから電話があった。
「ユージ、リリーだけど」
「どうだった?」
「本物のGTRだって」
「盗まれるといけないから、防犯対策しましょう、と言って色々つけてくれたよ」
「そうかあ、ナンシーとルーシーに車をぶつけるなよ、と言っといてな」
「ところで、こっちにいつ戻って来るんだ?」
「3人で車でフィリピンを旅行しようと思ってるの。それからだから、帰る時また電話するね」
「車を盗まれないように注意してな」
「大丈夫よ、車より私のこと心配してよね!」
「あっ、ごめん」
「も〜〜」
「じゃあ、また電話するね」
「カチャ」
「やばい、やばい、気をつけないとな」
雄治は、口は災いの元、と反省した。
リリーがフィリピンから戻ってきた。
「どうだった。フィリピンは?」
「楽しかったよ。ナンシーとルーシーの3人でフィリピンのいろんな所を旅行できて、楽しかったなあ」
車を買って手持ち資金が足りないと困るだろうから、追加で5万米ドル(1000万円)を送金しておいた。将来に円が大幅に上昇するので、ドルを最低限しか送金していなかった。
「ちゃんとしたホテルに泊まったろうな? 下手なホテルに泊まったらGTRが盗まれるからな」
「またGTRの心配なの?」
「GTRは男のロマンなんだよ」
「リゾートホテルだよ、フィリピンのリゾートホテル巡りをしたのよ」
「いっぱいナンパされちゃって、大変だったのよ」
(そりゃあ、GTRにリリーが乗ってりゃあ、くそハエどもが寄ってくるよな)
「お前は大丈夫なんだろうな!」
「アタシはユージ、オンリーワンなの知ってるでしょ」
「どうせ、ブレスレットで見てるんでしょう?」
(そうだった)
リリー3姉妹はGTRを買って、リゾートホテルに初めて行った。ビーチ沿いの舗装された道路をラジオの音楽を聴きながら走っていた。
「この車、すごくない?」
ルーシーが言った。
「あたしもタクシーに乗ったことあるけど、すごい加速でスポーツカーみたいよね」
ナンシーが言った。
「あんた達、運転、気をつけてね!」
「ユージが絶対ぶつけるなって、あんまりそういう事、言う人じゃないのよ」
「大丈夫、大丈夫」
2人が自信ありげに答えた。
ホテルに着いた。
「ちょっとあんた達、服を買いに行くわよ」
「リリー姉、買ってくれるの?」
「その格好じゃあね〜」
いかにも安いTシャツに短パン、一応踵のあるサンダルをしていた。これでも彼女達はおめかしして来ていた。リリーが可哀想で悲しくてなった。
リゾートホテルにあるブティックに入った。
「好きなの選んでいいわよ、買ってあげるから」
「本当〜、リリー姉、大好き」
2人が手をハイタッチして喜んだ。
2人が選んだ服はダサかった。Tシャツ、短パン、パーカー、帽子、サンダルを選ぶだけなのに、ケバければカッコいいと思っているのだ。リリーが2人に選ばせないで、勝手に買ってあげた。
「リリー姉って地味だよね」
「本当だよね」
リリーが選んでいる後ろで、2人が小さい声で言った。
リリーが選んだ服とサンダルに着替えて、着てきた服とサンダルを店の人に頼んで捨ててもらった。もちろんチップを多めに渡した。
「化粧もねえ」
リリーが言った。
「次、行くわよ」
2人が原色のブルーのシャドウに真っ赤な口紅をつけていた。
「やっぱり、どう見ても売春婦なのよね」
リリーが思った。実際に売春婦だからしょうがないけど。
リリーが外国のモデルがしてそうな化粧品を選んだ。
「やっぱり、リリー姉って地味よねえ」
ナンシーが言った。
「美人なのに残念よね」
ルーシーが言った。
ホテルのステーキハウスで食事をしてからバーに入った。
「好きなの飲んでいいわよ」
「オールドパーをロックでちょうだい」
リリーがボーイを呼んで注文した。
「それって美味しいの?」
「ユージといつもこれ飲んでるのよ」
リリーが嬉しそうに答えた。
「あたしもそれにする」
ルーシーがすぐに言った。
「あたしもそれ、ユージ兄が好きならやっぱり飲まないとね」
ナンシーが意味深に言った。
「これ美味しいね、リリー姉はいつも飲んでるの?」
「いつもじゃないのよ、ユージは忙しそうだから」
リリーが悲しそうな顔で言った。
「ふ〜ん、リリー姉って、東京でいくら稼いでるの?」
ナンシーが聞いた。
「そんな事言えないわよ」
本当の事言える訳ないでしょう、とリリーは思った。
「あんた達はどうなの?」
「えー、1日5ドルだから、月に120ドルくらいよ」
ルーシーがどう?すごいでしょう、と言う感じで答えた。
※売春1回2000円(10ドル)、売春婦の取り分50% と想定。
「ママに聞いたら。パパは月に25ドルだって言ってた」
「あたし達、高級取りなんだからね」
ルーシーが偉そうに言った。
「あっ、そう」
リリーが残念そうに言った。
離れたところの席に日本のビジネスマンが酒を飲んでいた。
「おい、あそこの3人、すごい美人だぞ。東京じゃあ、あんないい女、見たことないぞ」
「俺もそう思うよ、フィリピンでもいないよな」
「声、かけてみようか」
「そうだ、行くぞ」
日本人のビジネスマンが勇気を出してリリーの席にやってきた。
「あの〜、よろしかったら奢らせて頂けませんか」
英語で聞いてきた。
「いいわよ」
ナンシーが答えた。
ナンシーとルーシーが席を立って、日本人が飲んでいる席に一緒に移動した。
リリーはそのまま1人で飲んでいた。
ナンシーとルーシーがリリーのところに戻ってきた。
「2人に夜、誘われたちゃった」
「そうね〜」
リリーがそう言うと、紙にメモを渡した。
「いい、相手の耳元でこの言葉をにっこり微笑んで言ってごらん、それから身体を密着して相手の胸か肩を触って言うんだよ」
「いくら、て聞かれたら、これを読むのよ」
2人が日本人のところに戻ってきた。
「それでどう?」
日本人のビジネスマンがナンシーとルーシーに聞いた。
2人が耳元に口を寄せて、相手の胸元に手を置いた。日本語で話した。
「いいわよ、私を好きにして」
「エッ、本当か」
日本人が興奮して答えた。
「いくら払えばいいんだ」
2人が日本語で答えた。
「朝まで何度でも、でもとってもビンボーなの、100ドルでいいわ」
「おおおお〜、いいとも」
「こんないい女、もうめぐり会えないぞ」
日本人のビジネスマンが興奮して日本語で言った。
「本当だよな、記念に写真撮りたいよな」
もう1人も言った。
「俺、カメラを持ってきてるから、明日の朝、記念写真を撮ろう」
「いい思い出ができるぞ〜」
※当時デジカメやスマホはないから、写真の現像はカメラ屋に持っていくしかなかった。
ハメ撮りなんてありえない、エロい写真もだめだ。本当の意味で記念写真だ。
2人がリリーのところに戻ってきた。
「なんだかわからないけど、すごく喜んでた」
「朝、あの人達とモーニング食べてから戻って来ていいよ、多分優しくしてくれると思うわよ」
「リリー姉、ごめんね」
リリーが、ホテルの部屋に戻ってシャワーを浴びてベッドに横になった。
「ユージ寂しいよ〜」
本人も知らないうちに、リリーのブレスレットのスイッチが入った。リリーのエンドレスの自慰が始まった。
「おいおい、スイッチが入ってるじゃないか、これじゃあ眠れないぞ」
俺は睡眠不足になった。
翌朝
「リリー姉、すごいんだよ、100ドルももらっちゃった」
「東京に行くかもしれないって言ったら、名刺をくれて、電話番号が書いてあったよ」
「すごいよね」
「リリー姉、メモになんて書いてくれたの?」
「知らなくていいのよ」
リリーが澄ました顔で言った。
※当時日本のホテトル 泊まりを5万円と想定
為替相場 1米ドル/200円と想定
100ドル泊まりのモデル級美人(ナンシー、ルーシー) 2万円
当時のフィリピン人の平均年収 8万円と想定 400ドル
パパのジョージは田舎の小作人なので年収6万円
リゾートホテルのバーで3姉妹が飲んでいた。リリーがトイレに行っている間、ナンシーとルーシーがリリーに買って貰った名刺入れを出して、トランプのように電話番号が記入された名刺を扇形に開いて見ていた。
「すごい儲かったね」
「今までなんだったんだろうね」
「毎日、下品で嫌な男に抱かれて5ドルで喜んでたなんて」
「ここじゃ、1日100ドルだもんね」
「あああ〜、損しちゃったな〜」
「ルーシー、店を辞めてこれからこうしようよ、GTRもあるし、ホテル代もかからないしね」
「そうだよ、あたし達、すごいお金持ちになれるね」
「でも、ルーシー、リリー姉ちゃんには内緒にしようね」
ナンシーが小声で言った。
「シー、リリーねえが帰ってきたよ」
ルーシーも小声で言った。
「リリーねえ、東京でどのくらい稼いでるの?」
ナンシーが聞いた。
「あんまり言いたくないんだけど、(月に100万円だから)月に5000ドルくらいかな」
「ええええ〜〜、じゃあ、1年だと6万ドル〜〜〜」
・・・・・・
「うちのパパ、ママに言ってたけど、1年で300ドル(6万円)だよ」
「どうやったら、そんなに稼げるの?」
ナンシーが聞いた。
「あたしも聞きたーい」
ルーシーが言った。
「ううう〜ん」
「やっぱりやめとこう」
「教えて、教えて」
「教えて、教えて」
2人が合唱した。
「ううう〜ん、ユージのこと絶対誘惑しないって誓える?」
「誓います」
「同じく」
「ユージからもらってるんだ」
「何してるの?」
ナンシーが質問した。
「なに、なに、どうやって?」
ルーシーも聞いた。
「お小遣い・・・」
「えっつ、嘘でしょう?」
「でも、店を持たせるから、ちゃんと働けよって言われてる」
「店を持ったら人手が足りないよねー?」
ナンシーが期待して聞いた。
「たぶん」
「あたし達、お姉ちゃんの妹だよね」
ルーシーがここぞとばかり言った。
「たぶん」
「ユージ兄ってフィリピンに来るよね、GTRもあるし」
「わかんない」
リリーが妹達を合わせるとまずい、と直感した。
「よし、頑張るぞー」
2人が両手を握って気合いを入れていた。
「ちょっと何気合いを入れてるのよ」
「さっき、誓ったわよねー」
「誓った」
「誓った」
「ユージ兄、早く来ないかなあ〜」
「リリーねえ、早く連れてきてね」
「お願いしま〜す」
「一生来ないと思う」
(ユージ、来なくていいから)
リリーは自分のバカさ加減に後悔した。
「口は災いの元よね」と思った。