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暴力団

 常連になってくると、何も言わなくとも、ボトルが空きそうになると次のオールドパーをテーブルに用意される様になった。他の女の子にも飲ませていたので、ボーイと仲良くなっていった。

「私も食事に連れてって」

 よく女の子達にお願いされた。俺がリリーの恋人だということは女の子達は皆んな知っている。ウィスキーを飲ませている女の子達が俺の横にくると、お決まりのセリフのように誘ってきた。

 その日は、ルルというリリーを少し若くしたラテン系の女の子が聞いてきた。

「俺は浮気はしないよ」

「リリー姉さんも他のお客さんと同伴してるよ。だから私も連れてって、いっぱいサービスするからさ」

 俺の太腿に手を置いてやらしく触ってきた。もう少しで指先が届きそうだ。

「そうだろうね、でも俺はリリーに感謝しているんだ。義理堅いんだよ」

「つまんな〜い」

 ルルが口をとんがらせた。

 遠くにいるリリーを見ると、こちらを鬼の形相で睨んでいた。

 リリーもここで働いている女の子達は、みんな店に借金があるし本国の家族にも仕送りをしている娘達だ。既に結婚もしていて、本国に子供が待ってる女の子もいる。同伴する事も仕事のうちだ。わかってるよ。俺は自分が未成年である事に恨めしくおもった。嫉妬心も湧いてくるが、それでもリリーが俺を特別扱いしている事に感謝していた。


 ある土曜の夜、店でリリーが俺の横に座り、2人でオールドパーを飲んでいた。店の入口近くのソファーには、黒のスーツに黒のネクタイ、黒ずくめの男が座っていた。金のネックレス、金の腕時計、金の指輪、黒いエナメル靴、誰でもわかる暴力団の男だ。派手で下品な服を着た子分が、そいつのタバコに火をつけていた。男は幹部なんだろう。酒を飲みながら、幹部の男がずっと俺のことを睨んでいた。

 リリーは男を無視して、俺の肩に頭を乗せて、俺をじっと見つめながらオールドパーを飲んでいた。

「本日は誠に有難うございました。またのお越しを心よりお待ち申し上げております」

 閉店の音楽とアナウンスがあった。

「寿司屋で待っててね」

 リリーが言って席を立った。

 

 俺が勘定を済ませて店を出ると、暴力団の二人が待ち構えていた。

「ちょっと付き合えや、小僧」

 幹部の男が言って、先を歩いた。子分が俺の肩を後ろから掴み、俺を押して歩いた。建設現場の空き地に着いた。

「あんないい女に出会ったことがねえ。とびきりの女だ。リリーは俺の女だ。小僧が俺の女に手を出すんじゃねえ!」

 男が短刀を鞘から出して、刃がギラリと光った。子分が俺を羽交締めにした。男が俺の心臓めがけて短刀をグサっと刺して刃を抉った。・・・・・・

「兄貴ひでえじゃねえか・・・・」

「えっ、どうして?」

 俺と子分の位置が一瞬で入れ替わっていた。子分が最後の力を振り絞って男の顔面にパンチを打ち込んだ。子分は力尽きて崩れ落ちた。パンチを受けた幹部の男も気を失って倒れた。

 俺は幹部の男に歩み寄って、ポケットから財布を取り出して金を抜き取った。8万円が入っていた。そして金無垢の時計、喜平の腕輪とブレスレットを抜き取った。最後に黒のジャケットの襟に付いている金の代紋をむしりとった。俺は何事もなかったようにその場を離れた。


 幹部の男が気がついて立ち上がった。たまたま通りかかった車のライトに、血塗れの短刀を持つ男が明るく照らされた。

「きゃ〜〜あ〜ッ」

ラブホテルに行く途中のカップルの女性が悲鳴をあげた。・・・


「悪い、待ったか?」

 俺は寿司屋についてカウンターにいるリリーの横に座った。

「ううん、大丈夫」

「それよりヤクザがユージに変なことしなかった?アタシ、心配で死にそうだった」

「何、大したことないよ、幹部と子分が内輪揉めしちゃって、俺は早々に帰してもらったよ」

「ほんと、それならいいんだけど、あのね・・・前にあの男と」

 俺はリリーの口を塞いだ。

「何も言うな、何も無かったんだ、わかったな」

「うん・・・ごめんね・・・」

 リリーが目に涙をいっぱい溜めて、俺の胸に顔を埋めた。

「それより寿司を食おうぜ、デートの邪魔をした奴らにバチが当たるといいな」

 俺はにっこり微笑んだ。外でパトカーのサイレンの音が鳴っていた。


 リリーと知り合って1年以上が過ぎた。毎週店にくると、リリーにひっきりなしに指名が入っているのを、毎回目にすることになった。ほとんどがボトルを入れている常連客だ。リリーにしきりにウィスキーを飲ませて、酔わせてアフターに連れ出す魂胆が見え透いていた。マンションを借りてやりたいが、俺は17歳の未成年で単独で法律行為が行えない。俺ができる事は洋服を買って上げる事ぐらいだった。


※民法上 未成年者は無能力者とされ、親権者の同意なくして行った法律行為は、いつでも本人または親権者が取消する事ができる。不動産の賃貸借契約や売買契約も親権者の同意が必要だ。本来、株式等の有価証券投資も親権者の同意が必要だが、当時の証券会社は規制が緩かったのである。


「コン、コン」

 殺風景な事務所の奥にある不釣り合いに豪華なドアの扉がノックされた。

「失礼します、島崎です」

「どうした」

 重役室にあるような机に、革張りの椅子に持たれかかった男がこたえた。男はパンチパーマに色付きのメガネをかけて、ふんぞり返って島崎を睨んだ。


「親分、近藤組の斉藤が自分の子分を殺したってことで指名手配されてます」

「斉藤のシマを奪る絶好のチャンスだと思うんですが」

 若頭(筆頭幹部)の島崎が大きな身体を小さくして言ってきた。

「まあ座れ」

 親分の山田がゆっくりと島崎の前のソファーに腰をおろした」

「それで?」

「はい、自分のスケ(女)に手を出したっていうんで、怒った斉藤が子分を殺したっていうんです」

「警察が近藤組の事務所にガサ(家宅捜査)が入ってますぜ」

「本当か?」

「近藤のところはフィリピンやタイの売春組織に繋がりを持っていて、ヤク(麻薬)もそこから仕入れてるんだったな」

「斉藤は日本の窓口じゃねえか」

「はい」

「フィリピンパブだけじゃありません。ホテトル、連れ出しスナック、立ちんぼ、地方の売春婦の斡旋までやっています」

「よし島崎、斉藤のシマをぶんどれ」


 俺は西急百貨店本店で2万円の国産天然水晶のブレスレットを買った。時間をかけて俺の念を注ぎ込んだ。いわば小さな俺の分身みたいなものだ。俺の念をたっぷりと注いだ水晶のブレスレットをリリーに渡しておこうと思った。リリーの店が終わってから、今日はステーキハウスにやってきた。

「お待たせ〜」

 リリーが俺のテーブルにやってきた。一気に華やいだ雰囲気になった。

「リリー、ステーキは好きだよな?」

「大好きよ、今日はいっぱい食べるからよろしくね」

「おー、任せとけ」

「ステーキはサーロインでいいか?」

「うん、サーロイン大好き」

「何グラムにする?」

「500グラムにする」

「500グラムというと、大体1ポンドくらいか」

「食べれるのか?」

「うん、食べれるよ」

「わかった」

「ソースはどうする?」

「ユージは何にするの」

「俺は、なんと言っても“ガーリック醤油”だ」

「食べたことないけど、あたしもそれにする」

 俺は手を挙げてボーイを呼んだ。

「サーロインステーキの500グラムを2人前、ミディアムレアで、ソースはガーリック醤油、それと大盛りサラダ1つ、ビールの大のジョッキを2つ、お願いします」

 ボーイが復唱した。

「今日はリリーに渡したい物があるんだ」

「なに、なに、なに?指輪?」

「ごめん、指輪じゃないんだ」

 リリーが残念そうな顔をした。

「水晶のブレスレットなんだけど、つけてくれるか」

「うん、いいよ」

 リリーが右手につけた。

「なんだか、このブレスレット光ってるよ、なんで?」

「俺の念を注ぎこんでるからな、お守りだと思ってくれ」

「テーブルの下の暗いところに持っていってくれるか」

「淡く光ってるよ、不思議、こんなの初めて見た」

「そうだろう」

「ありがとう、大事にするね」

「ところで、なんでリリーは指輪がほしいんだ」

「欲しいよ、恋人がいる子は皆んな持ってるもの」

「そうか〜、気が付かなかったなあ」

「どんな指輪が欲しいんだ?」

「う〜、ダイヤモンド!」

「それ、婚約指輪じゃないか」

「そうじゃないよ、でもダイヤが好き」

(ダイヤは高すぎるだろう)

「ダイヤじゃなくてもいいよ、プラチナもいいな」

(それって、結婚指輪じゃないか)

「バレた?」

(おい、やばい内容だから言葉に出してないけど、会話になってるじゃないか)

「えっ、さっきから普通におしゃべりしてるよ、なんで?」

「ちょっとタンマ、ブレスレット貸してくれる?」

 リリーからブレスレットを受け取った。俺の思ったことが筒抜けじゃないか。やばいじゃないか。霊体意識で時間を100倍に延ばした。暗示のスイッチを作ろう。“ユージOFF”で俺の心が聞こえないようにして、“ユージON”で俺の声を聞こえるようにしよう。1分くらいかかって調整が終わった。

「フ〜、終わった」

「じゃあ、つけてみて」

(ユージOFF、今日のリリーのパンティは何色だ?)

・・・・・

よし、反応なしだな。


 ビールがきた。

「乾杯」

 ジョッキをカチンと合わせた。

「ゴクゴクゴク、うま〜い」

 ジョッキの半分くらいのんだ。前を見るとリリーがまだ飲んでる。

「ハ〜、オイシイ〜」

 ジョッキをドンとテーブルに置いた。

「お見事です」

「ボーイさん、ビールの大ジョッキもう1つ追加」

 ステーキがきた。ビールで腹が膨れたから、ステーキがなかなか入らない。

「他の女の子にも恋人がいるのか?」

「恋人というより愛人、だっておじさんだよ」

 リリーが答えた。

「じゃあ、さっきの恋人がいる子は皆んなっていうのは、愛人ってこと?」

「ユージ、細かいこと言わないの!」

「悪かった、ごめん」


 その後、赤ワインをボトルで頼んで、リリーが1人でほとんど飲んだ。

 新宿プリンスで2人で風呂に入って、お腹いっぱいなので、ベッドに入ったら俺はすぐに寝てしまった。


 翌朝、リリーが情熱的なキスをしてきた。俺もリリーを抱きしめた。“愛してる”と心の中で思った。リリーからも“愛してる”と返ってきた気がした。言葉も水晶のブレスレットもなくてもはっきりとわかった。濃密な時間が過ぎていった。


 翌週の月曜日、自宅のマンションに戻ってからシャワーを浴びて、深夜いつものように1時間ほど勉強をした。寝たのは深夜2時頃だ。

 熟睡して物凄く眠いのに起こされた。

「ユージ、ユージ〜、寂しいよう〜」

「ユージ、ユージ〜、寂しいよう〜」

 リリーの声でほとんど寝られず、そのまま学校に行った。パチンコに支障が出るので、休み時間、昼休み時間を利用して昼寝をした。

火曜日の深夜・・・・

水曜日の深夜・・・・

木曜日の深夜・・・・

金曜日の深夜・・・・

 毎日寝不足になった。

 やっと土曜日になった。リリーの店が終わって寿司屋で待っていた。

「お待たせ〜」

「リリー、水晶をちょっと見せてくれる?」

 いつもはリリーの声がしないようにして、必要な時に連絡できるようにしないとな。

 霊体意識で時間を100倍に伸ばした。

「フ〜、終わった」

「じゃあブレスレットをつけて」

「うん」

「心の中で何か言ってみてくれるか」

「ユージと早く結婚したい」

「おおお、そうか・・・」

「じゃあ、ユージOFFって言ってみてくれる」

「ユージOFF」

「もう一度心の中で何か言ってみてくれるか」

・・・・・

「よし、成功だ」

「今まで、リリーが思ったことがずう〜と俺の心に聞こえてたんだ」

「夜、寝れなくなってたんだ。今はOFFになってるけど、俺の助けが必要な時に“ユージON”と思えば俺に繋がるから」

「夜眠れないって、ふうう〜ん、聞こえてたんだ」

「ユージのエッチ、ドすけべ、もお〜やだ〜〜」

 リリーがバン、バン俺の肩を叩いた」

「ごめんよ、でも、もう大丈夫だから安心してくれ」

「責任とって、今日は帰らないで」

「わかった、明日は学校があるから、リリーが店に出勤するまで一緒にいるよ」

「しょうがないか〜、それで許してあげる」



 金曜日夜10時頃、歌舞伎町でパチンコをしていると、“ユージON”になった。

「ユージ助けて!」

 パチンコ台のチューリップへの念動力の導線を解除して、パチンコ玉を精算した。トイレに入って黒のレインスーツの上下を着て、換金所に向かった。途中、リリーにアクセスした。

 俺はリリーの勤めているフィリピンパブを仕切る暴力団といつか揉めると思っていた。リリーほどの極上の女を放っておくはずがない。俺は一般人でしかも高校生だ。身元がバレる事は避けなければならない。黒のレインスーツ、キャップとマスクはその時に備えて準備していた。


 リリーの右隣にヤクザの幹部らしき男が座っていた。ウィスキーを右手で飲んで、左手をリリーのミニスカートの奥に入れて、いやらしく弄っていた。リリーが嫌がって逃げようとしているが、隣の子分にガッチリと押さえつけられていた。

「今日はこの女にするからな、部屋を用意しとけ」

「へい、わかりました」

 子分が嬉しそうに返事をした。おこぼれに頂戴できるかもしれないと思っているのだ。

 俺は島崎のオーラに干渉して状況を把握した。リリーに薬を使ってレイプするつもりらしい。俺の心の中で、こいつらの運命が決まった。戦国時代に盗賊を皆殺しにした記憶が蘇った。

 

1時間前

「兄貴、今夜ですね」8人ほど引き連れた子分の1人が島崎に聞いた。

「おう、今頃一斉に斉藤ところの店にカチ込んでる頃だぜ、全部丸ごとシマを取るぞ」

「俺らはのんびりとフィリピンパブで酒でも飲もうじゃないか、なあおい!」

「へい、お供させて頂きやす!」

 8人の子分が一斉に頭を下げた。

 店の扉が開いた。島崎が先頭を切って中に入って行った。

「いらっしゃいませ」

 ボーイが島崎を見るや、すぐに横にどいた。

 島崎が店の奥にある広いソファーの前で立ち止まった。

「おい、どけや」

 子分の1人が凄んだ。

 歓談中の客達が荷物をまとめてどいた。女の子達は店の奥の事務所に逃げ込んだ。

「おい、店長を呼べ」

 島崎がそういうと子分の1人が事務所に向かった。

 子分が店長の襟首を掴んで島崎の前に連れてきた。だが、その子分が殴られた。

「馬鹿野郎、兄貴の前だぞ、土下座させろや」

「へい、申し訳ありません」

 店長が土下座の格好になった。

「おい、どういうことだ。これが客に対する接客態度か?」

「注文は聞かねえし、女どもはどこに行った!」

「俺に勝手に酒、飲めってか?」

 島崎が凄んだ。店長と子分が震えていた。

「兄貴、申し訳ありやせん、ただいま用意いたします」

「おい、女と酒だ。全員連れてこい!」

「はい、かしこまりました」

 店長がぎこちなく立ち上がった。

 女の子達が全員、島崎の前に並ばされた。

「おい、お前だ、こっちに来い」

 リリーが島崎に呼ばれた。

 子分の序列順に女の子達が呼ばれて席についた。

「おい店長!」

「はい」

 店長が片膝で島崎の前に呼ばれた。

「今日から山田組がこの店の面倒を見てやる、わかったな」

「は、はい」

 店長はびびってそう答えるのが精一杯だった。

 男達が派手に飲んで、女の子の胸や股に手を突っ込んだり、キスをしていた。


 俺の今日の稼ぎは10万円になった。その足で山田組の事務所前に着いた。ゴム手袋をはめて、キャップを被り、マスクもした。山田組の事務所は2階と3階が組員、4階が幹部、5階が親分の部屋と会議室だった。こじんまりしたビルだった。

 俺は階段で2階に上がった。組員総出で出張っていた。2階には人の気配がなかった。3階にあがった。電話番の下っ端の組員が3人いた。鍵のかかってないドアを開けた。

「なんだ〜?てめえは!」

 音が消えて周りがスローモーションになった。俺は左手で男の顔面を殴った、鼻が陥没して後ろに吹っ飛んだ。後ろの奴が立ちあがろうとしていた。右側の奴に前蹴りを入れた。内臓が破裂して吹っ飛ぶ。左の奴に左手の手刀を首に打ち込んだ。首が左に直角に曲がった。

 4階に上がった。4階の幹部の部屋に日本刀が立てかけてあった。俺は日本刀を手に取った。留守番の幹部達と用心棒は、騒ぎを聞きつけて親分の部屋に駆け込んだようだ。島崎のデスクを探した。

「あそこか?」

 俺は鍵のかかっている引き出しを念動力で開けた。島崎が親分からもらった名前入りのダンヒルの金のライターが大事にしまってあった。デイバッグにケースごと入れて、鍵も元通り戻した。

 5階の親分の部屋の前に着いた。横にどいて、念動力でドアノブをゆっくり回した。

「ドゥ、ドキュー、バン、バン”」

 10発の弾丸が撃ち込まれた。

「ガシャ」

  俺は近くにあった椅子をドアの前に投げた。

「やったか?」

「おい、見てこい」

 2人の子分が拳銃を構えてドアの前に立って、ドアノブを回そうとした。

「ドッバギィッ」

 ドアが砕けて吹き飛んだ。ドアもろとも子分の2人が後方の壁に激突した。

 部屋の中には、まだ親分と拳銃を持った2人と日本刀を持った子分がいた。右端の男が俺に銃を向けて引き金を引こうとしていた。

 俺は一瞬で右に動き左から刀で右端の男の首を刎ね、返す刀でその隣の男の首を刎ねた。日本刀を持った男が上段から渾身の力で振りおろしてきたので、俺は左に避けて、振りおろして無防備になった男の首を刎ねた。山田が俺に銃を向けようと銃口が上がる前に、喉を突き刺した。1秒で終わった。そして壁に激突した2人の男に止めを刺した。

 俺は山田の左手に近藤組の斉藤の金バッチを硬く握らせた。


 親分の山田の部屋には普通の金庫と隠し金庫があった。俺は山田のオーラからその情報を霊体意識にコピーしていた。大型金庫を開けた。手を触れずに自動的にダイヤルを回して鍵を解除した。中にあった札束を背負ってきたデイバッグに入れた。金庫を元の状態に戻して、書棚の奥にある隠し金庫を開けた。中には5kgの金塊が5本入っていた。山田の革の鞄に金塊は入れた。金庫を元に戻してビルの屋上に出た。屋上で隣のビルに飛んで、また隣のビルに飛び移った。

 公園に面したビルの非常階段で降りて、公園のトイレに入った。持ってきたスーパーのビニール袋に、レインスーツ、帽子、マスクを入れてしっかり口を縛った。ビニール袋を小さく丸めてデイバッグに入れた。


 島崎と子分達が女の子達を連れて店を出ると、組員が走り込んできた。

「大変です、事務所が近藤組に襲撃されました」

「なんだと!」

「全員が出張ってるところを狙いやがったか、ちくしょー」

「すぐ、戻るぞ」

「へい」

 

 事務所に戻ると、ひどい有様だった。

「親分は?」

 急いで階段を駆け上って親分の部屋についた。

「どうやったら、こんなふうになるんだ」

 山田親分がデスクに突っ伏して死んでいた。

 島崎が山田親分の左手に何かがしっかりと握られているのを見た。少し光った。硬く握られた指を外すと金バッチが握られていた。近藤組のものだった。裏を見ると“斉藤”と彫ってあった。

「斉藤ーー!貴様は血の果てまで行っても殺してやるぞ!」

「親分の敵討ちだ。殺られて黙ってるわけにはいかねえぞ!」

「おい、全員集めろ、今から近藤組にカチ込むぞ」

「今何人いる、10人ほど戻ってきたんで、全員で20人ほどです」

「あいつらも今が手薄だ、時間との勝負だ、よし行くぞ」


 女の子達が店に戻ってきた。俺が店に入ると

「ユージ」

 リリーの目から涙が溢れてきた。

「心配するな、俺に任せておけ、リリーに手を出そうとした奴らには報いは受けさせる、俺を信じろ」

「新宿プリンスに部屋をとってある、これがキーだ、先に行って待っててくれ」

「その前に、嫌な思いをしただろうから、お前から女の子達に何か食わせてやってくれ」

 俺は銀行の封筒に30万円くらい入れてリリーに渡した。


 俺は金塊が入ったデイバックに札束を入れてコインロッカーに預けた。

 数分後、俺は近藤組の事務所のビルの屋上にいた。俺は血が付かないように慎重にレインスーツを着た。キャップを被り、マスクをして、ゴム手袋をはめて待った。


 近藤組の事務所には、組員が山田組と揉めて戻った者も含めて25人ほど集まっていた。幹部が親分の近藤と話し合っていた。

「あいつら、斉藤の兄貴がいないからって、ウチらのシマに一斉にカチ込みやがって!」

「舐められたら終わりです。こちらから事務所にカチ込みましょう」

 幹部の1人が言った。

「よし、用意しろ」

「チャカも忘れるなよ」

「へい」

「このまま黙ってるわけにはいかねえぞ、山田組にこれからカチ込みするから急いで準備しろ」

 下の階に集まっている子分達に幹部の1人が言い放った。下から子分の1人が駆け上がってきた。

「大変です、山田組が事務所の前に集まってます」

「なんだとう!」


 近藤組のビルの玄関と裏口から同時に島崎達が攻め込んだ。

「近藤を死んでも殺せ」

 島崎が子分達に命令している。双方とも作戦なんてありゃしない、ただ突っ込むだけの馬鹿どもだ、戦国武将の時の意識が蘇った。

(早く済ませないと、警察が駆けつけてくるぞ)

 俺は焦った。


 島崎が山田組から持ってきた手榴弾を2階の階段に投げ込んだ。

「ドッガガーン」

 2階の階段付近にいる5人が吹き飛んだ。

「今だ、行け!」

 島崎達が階段を駆け上がった。2階には近藤組が5人いた。島崎は手下の5人を残して上を目指した。

 3階の階段から近藤組が撃ってきた。島崎がまた手榴弾を投げた。

「ドッガガーン」

 近藤組の4人がやられた。3階にも近藤組が5人いた。島崎はここでも5人残して、上の階を目指した。

 島崎達が死体を担いで上がってきた。死体を盾にするつもりだ。そのまま強引に4階まで上がってきた。近藤組はデスクを倒してそこから撃ってきた。島崎達もデスクを倒した。手榴弾を島崎が投げ込んだ。

「ドッガガーン」

 デスクの影に隠れていた近藤組の6人が負傷した。一気に島崎達が突撃した。まだ生きている奴らを撃ち殺していた。近藤の部屋から幹部の5人が出てきた。近藤組の5人は島崎だけを狙って撃っていた。島崎が手榴弾に投げようと右手を挙げたところで、上腕を銃弾で撃ち抜かれた。手榴弾が島崎達の後ろに落ちて爆発してしまった。密集していたために島崎の手下の5人が負傷した。

「兄貴、もうダメです、今日は諦めましょう」島崎も負傷していた。手榴弾を装着したベストが千切れていた。

(重たいベストを置いて早く逃げないと、俺が島崎を意識誘導した)

 島崎はベストを脱いで足を引き摺りながら撤退していった。子分達は近藤の5人の銃弾から島崎を庇って2人が死に、島崎達は3人になって階段を降りていった。階下では銃撃戦が続いていた。

「おい、引き上げるぞ」

 島崎が言った。階下の子分達10人が指示に従った。

 銃撃戦をしていた近藤組の10人が上に上がってきた。

「ドッガガーン」

 階段で手榴弾が爆発した。6人が死亡して4人が負傷した。

 負傷した4人が死亡した6人を乗り越えてきた。

「ドッガガーン」

 近藤組の残りの4人も死亡した。


 近藤組の幹部5人が親分の部屋に戻った。

「なんとか終わったようだな」

「何人残った」

「この5人だけです」


「ゴン、ゴトッ」

 部屋に鉄の塊が2つ放り込まれた。

「ドッッガンーーー」

 大爆発が起こった。部屋の全員が即死した。


 俺は近藤組の金庫と隠し金庫を開けた。ここも新宿に組を持つだけあって札束がごっそりあった。隠し金庫にも5kgの金の延べ棒がここにも8本あった。近藤のキャビネにあった革のバックに金の延べ棒と札束を入れた。近藤にオーラチェックをしたが、監視カメラはないようだった。

 島崎が負傷した付近に島崎の名前入りのライターを置いて、屋上に上がった。

「ウ〜〜、ウ〜〜」

 サイレンを鳴らしたパトカーがビルの前に集まってきた。

 素早く隣のビルに飛び移った。ビルを次々飛び移って100メートルほど遠くに行った。レインスーツとゴム手袋、キャップ、マスクをスーパーの袋に入れてきつく縛って、革のバックにしまった。ビルの非常階段から降りた。


 近藤を殺したことになっている島崎は、負傷して入院した病院で殺された。痛み止めの睡眠薬を投与している時、点滴のチューブに空気を入れられ、さらに点滴薬が農薬に換えられていたのだ。病院に入り込んだ手口からプロの仕業だと警察は判断した。

 派手な銃撃戦と多数の死傷者が出たことから、新宿での警察の取り調べが厳重になった。近藤組と山田組の上部組織も静観することになった。 

 俺は高校3年生で18歳になった。これで堂々とパチンコができるようになった。高校の勉強が終わっているので、TOEICの勉強と、税理士の所得税法、法人税法、会社法を勉強することにした。


 社会に出て役に立つ知識は会計と法律だ。自分にとって必要なのは、資格で言えば、弁護士、公認会計士だが、最も有用なのは弁護士だ。だが司法試験合格後は、司法修習生として2年間自由が拘束されてしまう。また公認会計士も2時試験合格後に会計士補として2年間の実務が必要だ。任天堂の株価が低迷している期間には限りがあるので、大事な時期に2年間の拘束は論外だ。税理士には合格後の研修期間がない。


※税理士になると税制改正の内容が法案可決前に税理士会を通じて入る。8月に自民党税制調査会がまとめた内容が12月に税制大綱として発表され、閣議決定後、3月下旬に法案が可決し4月1日に施行される。内容は8月の自民党税制調査会の内容が法案化されるので、前年の半年前に事前に分かるのである。 


高校生の差引収支

高校1年生 3800万円  累計 7800万円

高校2年生 3900万円  累計1億1700万円

高校3年生 3900万円  累計1億5600万円


臨時収入        現金5000万円

金の延べ棒 5kg✖️13本

1g=1200円とすると(1976年当時)

5✖️1000✖️1200✖️13= 時価7800万円


金価格の推移 g\円  (田中貴金属のデータより)

    最高  最低  平均

1976 1435 1015 1257

1977 1450 1260 1341

1978 1480 1235 1343

1979 3985 1418 2218

1980 6495 3645 4499

1981 3895 2830 3311

 

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