表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/36

望月、ODA.HDの社員になる

 三友物産フィリピン支社長の小川が共産ゲリラに拉致され、日本人の空手家に救出されたドキュメンタリー番組が放送された。織田社長はフィリピンでは聖者と呼ばれていた。織田社長が瞑想している画面が映った。拉致された小川の居場所を探していた。本当に共産ゲリラのアジトを探し当てた。空手家の4人は織田さんの弟子だそうだ。何も持たないでゲリラの立てこもる建物へ4人が二手に分かれて潜入した。ゲリラを殲滅した映像が流れた。素手で武装集団を殲滅したのだ。驚いたのは銃に撃たれた弟子を織田さんが手をかざして直してしまったことだ。しっかりと映像に録画されていた。そして小川さんが救出された。織田さんは不思議な人だ、どんな人なのか、望月は知りたかった。

 望月は休暇を取ってフィリピンに行く事にした。目先の仕事よりももっと重要な、人生を変える予感がした。


「沢田さんですか?望月です。休暇が取れました。是非フィリピンに行きたいのです。お願いします」

「いつからフィリピンに行けますか?」

「1ヶ月後の10日です」

「わかりました。その日に広尾の当社に9時においで下さい。段取りをしておきます。パスポートを忘れずにお持ち下さい」

「また、直前にご連絡します。宜しくお願いします」

「かしこまりました」


「香織、あなたフィリピンに行ってちょうだい。住居は用意しておくから、引越し準備をしておいた方がいいわね」

「はい、わかりました」

 香織はとうとう来たと思った。香織は経理の仕事でベッキーの店を担当し、東京支社の社員で自分はTOFULの得点が1番高かった。


「副社長、東京の瑠美子さんから、お電話です」

「ナンシー元気〜、フィリピンの開発で大変なんでしょう?」

「そうなんです。リリー姉さんがシンガポール本社に行くんで、仕事を任されたんです」

「いいな〜、私も海外勤務したいな〜」

「私みたいな小娘で務まるのか、仕事をして下さる方に申し訳ないんです。毎日、胃薬を飲んで頑張ってます」

「大丈夫、ユージがついているし、ナンシーは頭がいいから」

「瑠美子さんもシンガポールに行きたいんですか?」

「そりゃそうよ。ユージのそばにいられるから」

「ところで、瑠美子さん、仕事の話ではないんですか」

「頼まれていた社員を来月赴任させる事になったの、ベッキーさんの店を担当していた香織よ」

「ありがとうございます。香織ちゃんなら100人力です」

「香織は初めての海外で不安だと思うから、頼むね」

「ああ〜、助かります。会社近くのコンドミニアムを用意します。財務を担当してもらうので、秘書、通訳、運転手兼ボディガード、メイド、日本食のシェフを雇っておきます」


 望月が織田雄治とその会社を調べていた。織田雄治は任天堂の大株主でだった。ODA.HDが坂東電鉄と三友不動産の大株主であり、軽井沢、多摩川園駅の再開発の施主であることがわかった。織田雄治が金持ちだとはわかるが、沢田さんが言っていたインペリアルバンク社を欲しいというのは馬鹿げているし、なぜフィリピンで聖者と呼ばれているのか、実際にフィリピンに行って確かめたかった。ODA.HDに転職する気はないが、今後の取引先として活用すればいいと思っていた。インペリアルバンク社は世界的な金融機関の覇者だ。転職など考えられない。


 広尾ガーデンヒルズの会社に着くと、支社長の瑠美子さんからこれからフィリピンに赴任する山本香織さんを紹介された。羽田空港ではプライベートジェットが待機していた。マニラ空港には4時間ほどで着いた。

 織田社長がシンガポール本社から到着するというので、山本香織さんと空港ラウンジで待っていた。係員が呼びに来た。

「間も無く織田様の飛行機が到着します。望月様はそこからヘリコプターでODA学園に飛びますので、いらしてください」

 キャデラックとリンカーンとベンツが停車していた。

「山本様はお住まいになるコンドミニアムにご案内します。山本様はベンツにお乗り下さい」

 停車しているベンツの横に運転手と女性が立って、香織にお辞儀をした。運転手が香織のスーツケースとバックを持ってトランクに入れた。

「山本様の通訳兼秘書のジュン・イトウです。日系2世です。こちらが運転手兼ボディガードのランスです」

「ヨロシク、デス」

「よろしくね」


 望月は荷物を持ってキャデラックに誘導された。

「フィリピンODAの副社長のナンシー様が同行されます」

 体格のいい運転手が、もの凄い分厚いドアを開けた。

「失礼します」

「どうぞ、お入りになって下さい」

 中はラグジュアリーな豪華な室内になっていた。金髪の凄い美人が長い脚を組んで座っていた。望月は緊張した。

「望月さんですね、兄様から話を聞いています。これからヘリコプターでODA学園に向かいます」

「アッ、兄様が到着しますね」

 どの飛行機だ、見当たらない。

「妹のルーシーが操縦してるんですよ。大丈夫かしら?」

「どの飛行機ですか?」

「今、着陸したジャンボジェットです」

 ジャンボジェットをプライベートジェットとして使用しているのは、米大統領だけだと思った。機体にODA.HDと書かれていた。キャデラックが着陸したジャンボジェットの横に停車した。

 トラップから織田社長が降りてきた。

 ナンシー副社長が織田社長に向かって走っていった。

「兄様〜」

「ナンシー!」

「えっ」

 ナンシーさんが織田社長に抱きついて、ディープキスをしている。恋人同士に見えた。アメリカに海外留学の経験のある望月にも、恋人同士のキスぐらいわかった。

 ベンツから山本香織さんが降りてきた。

「社長、お久しぶりです」

「おお〜、香織じゃないか、フィリピンでナンシーを助けてくれるんだってな。本当によく来てくれた。要望があったらなんでも言ってくれ」

 ナンシー副社長が香織に近づいた。

「香織ちゃん専属の秘書兼通訳と運転手よ、会社近くのコンドミニアムを住居として用意してるから、色々準備も必要でしょう?出社は香織ちゃんの判断でしてね。フィリピンODA.LTDの財務担当の責任者だから、全部任せるから頼むね」

「はああ〜、やっぱりこうなるか。私の好きにやりますよ、あの〜、社長、いいですよね」

「ああ、存分にやってくれ。期待してるよ」

(香織は優秀だ。俺が初めての男だったな。時間を見て面倒を見てやろう。ナンシーなら少しぐらい大目に見てくれるだろう)

(あ〜、よかった。香織ちゃんは超優秀だし、シンガポールの麗子さんや東京の瑠美子さんの元部下だし、本当に助かるわ)

 リリー姉さんから会社を任されて不安だったナンシーは、相談できる強い味方ができて嬉しかった。


「山本様、これからコンドミニアムにご案内します」

 秘書がベンツのドアを開けた。

「社長、ナンシー副社長、それでは失礼します」

「おお」

「香織ちゃん、早く会社に来たね」

「わかったわよ」


「望月さん、よくきてくれました。時間が惜しいので、これから学園に向かいます。質問はヘリで受けます」

 大型ヘリコプターに乗り込んだ。ナンシーさんが織田社長にべったりついていた。どう見ても恋人同士だ。

 トラップから可愛い女の子が降りてきて織田社長に飛びついた。

「兄様、ジャンボ操縦できたよ」

「ルーシーは運動神経がいいな、ジャンボは初めてだろう」

「うん、すごく楽しかった。ヘリも操縦していいんでしょう?」

「もちろんだ、寄り道しないで向かってくれ」

「そんな事、わかってるもん」

 アメリカ大統領が乗るような大型ヘリコプターが2機停まっていた。織田社長とナンシー副社長とルーシーさんが搭乗した。ヘリコプターの入口にCAが待機しており、笑顔で立っていた。織田社長が近づくと、そのCAが片膝を立ててお辞儀をした。織田社長の後は立ち上がって笑顔で会釈していた。ナンシー副社長、ルーシーさんに続いて望月が入った。片膝をされたのは織田社長だけだ。

「バッ、バッ、バッ、バッ、バッ、バッ」

 ヘリコプターが飛び立った。

「望月さん、すぐに学園に到着するので、お聞きになりたいことはありませんか?」

「私は織田社長を投資家だと思っています。なぜ学園を創立されたのですか?」

「おっしゃる通り私は投資家です。投資家の目的はお金儲けですか」

「私はそう理解しています」

「そうでしょうね。お金が目的ですか、お金持ちになって、豪邸に住み、別荘に住み、プライベートジェットを持ち、クルーザーを持ち、道楽に金を使い、たくさんの愛人を持つ、要するに贅沢が目的ですね」

「望月さん、お金は所詮道具です。道具が目的ですか?もっと楽しい事に使いたいじゃないですか」

「フィリピンは貧富の格差が激しくて、富める上位20名の資産は残りの国民全体の資産と同じくらいだと言われています。能力ある者でも貧しい家庭に生まれれば一生ろくな職業にも就かず、貧しいまま生涯を終えます。一般的にIQが140以上の天才の出生率は全体の0.4%です。フィリピンではこのギフテッドが毎年7200人が生まれています。私は学園を創立して1学年1000人のギフテッドを集めて高度な教育を施し、卒業生を先進国に送り出そうと計画しています。将来がどうなるのか楽しみです」

「もう学園に着きますよ」


 上空から見ると、基礎工事をしている場所がたくさんあった。プレハブの建物が連結していた。古城の手前の空き地にヘリコプターが着陸した。

「兄様、ヘリコプターもちゃんと操縦できたよ」

「ルーシー、お前、天才だな」

 織田社長が頭を撫でていた。

「そうでしょう?だから、いっぱい可愛がってね」

「チュッ」

 ルーシーがキスをした。絶対に恋人同士だと望月は思った。


 学園の先生達が走ってきて織田社長の前で片膝をついてお辞儀をした。

「織田様、お待ちしておりました。会議の前に子供達に会って頂けませんか?」

「みんな、講堂で待っています」

 プレハブの建材で作った講堂の扉が開かれて、織田社長が入って行った。

「ワー、ODA様、キャー」

 子供達がはしゃいで、飛び跳ねて織田社長に群がっていた。

「みんな、元気そうで何よりだ」

「マリア、おいで、目を見てあげよう」

 輪の端でモジモジしていた女の子が呼ばれた。

「マリアは生まれつき目が見えませんでした。目の神経と血液の流れが圧迫されて、目の細胞が成長しなかったとODA様が教えてくれました。みんなが見ている前でマリアの目を造り上げたのです」

 望月のそばにいた学校長がマリアのことを説明した。

「異常はなさそうだ」

 マリアが織田社長の耳元で呟いた。

「マリア、特別だぞ、見せ物じゃないから」

 織田社長が両手を拡げた。大量の光が放出されていた。電灯の光ではない。太陽の光に似ているが、熱を持っていないように感じた。講堂にいる先生達と子供達が跪いて織田社長を見ていた。望月も自然と跪いていた。

「織田様、学園長室に皆様お集まりです」

 学校長が織田社長を促した。

 部屋に入ると、大きなテーブルの上に立体的な地図と建造物の模型が設置されていた。

「始めて下さい」

 織田社長が言った。

「それでは、大林さん、説明をお願いします」

「はい、テーブルの上をご覧下さい。小学校、前期・後期中学校、大学、大学院を設置してあります。各学校には大食堂、図書館、宿泊棟、プールがあり、雨に濡れることなく、有機的に接続してあります。外輪に学校と宿泊棟があり、中心部に大食堂、図書館、職員室、大講堂、体育館を設置してあります。1学年を1000名を想定して計画してあります。ここまではよろしいでしょうか?別添の資料にイラストの完成予想図がありますので、ご覧下さい」

「織田社長、いかがでしょうか?」

「プールはプライバシーの問題があるので、外から見えないようにして下さい」

「宿泊棟は男女別々のなってますか?」

「外輪の建物を大きく4つに分けて、男子の宿泊棟と女子の宿泊棟を外輪の向かい側にしており、学校を通らなければ行けないようにしています」

「結構です」

「このコンセプトで進めて下さい」

「ありがとうございます」

「何か質問はありますか」

 織田社長が言った。

「学校と宗教施設担当の三友物産の小林です。フィリピン本社ビルを鹿島さん、小学校を大林さんにお願いしました。その他の施設の建設工事を他の建設会社にお願いできないでしょうか、在フィリピン商工会議所が全面的に協力したいと申し出ています」

「小川さんのやりたい様にして下さい。そうお伝え下さい」

「ありがとうございます。小川も喜びます」

 学園都市のスケールが規格外に大きすぎる。建設費に幾らかかるのか想像できないと望月は思った。

「土地の取得はどうなっていますか。三友不動産さん」

「お手元の地図をご覧下さい。1枚目が学園を取り巻く土地を取得した地図です。地図中央が学園です」

 規格外に大きい学園が地図では小さく表示されていた。一体どれほど広い土地を何の目的で買い進めているんだと望月は思った。

「2枚目が、フィリピン本島に造る商業施設と宗教施設の地図になります。現在30ヶ所の土地取得が終わっています。フィリピンの各産業への投資計画にも発展する計画ですので、小川が三友物産でご説明するそうです」

「わかりました。今日の会議は終了します」

「ナンシーとルーカスさん(学校長)、望月さんは残って下さい」


「まず、教育省にお願いして、小学校入学時に知能検査を全国で実施するよう依頼して下さい。費用は会社で出して下さい。私が多忙で1000人の子供達の募集は無理です。検査後に集合してもらって私がチェックします」

「次に、先生の質を上げる必要があります。おそらく子供達が前期中学生になると大学生レベルの学力になると思います。後期中学生、大学、並の教師では子供達に太刀打ちできないでしょう。ギフテッドの先生が必要です。半年に一回応募者を講堂に集めて下さい。それと今いる先生でギフテッドでない方は先生をやめてもらいます。どうしても働きたいのならば、ODA真理教会に転籍して下さい」

「ODA様、質問をお許し下さい。私は残れますでしょうか?」

 学校長のルーカスが質問した

「正直に言います。ルーカスさんはODA真理教会の責任者の方が適任だと私は思っています」

「どこでもいいので、ODA様にお仕えさせて下さい」

「大丈夫ですよ」

「明日は小学校を2校周ります。そのあとマニラに戻ります。2日後に事業の進捗を三友物産で確認したいと思います。ナンシー、小川さんに連絡しておいてくれ」

「わかりました」

「じゃあ食事にしましょうか」


 ODA真理教会本部のレストランで食事をした。イタリアンだった。

「ODA様、お願いがございます」

 ルーカスが言った。

「何ですか?」

「どうか私をルーカスとお呼び下さい、私に敬語をお使いにならないで下さい」

「わかりました。年上なので敬意を払っていました。これから気をつけるよ」

「ありがとうございます」

 ルーカスがにっこりと笑った。

「織田社長、失礼とは存じますが、質問させて下さい。明治維新の時に政財界の要人が学校を創立しました。しかし学費を取りました。織田学園は授業料、宿泊費も全て無料です。計画は破綻しませんか?」

 望月が質問した。

「そうですね、ビジネスマンとして当然の疑問ですね。その答えは2日後の小川さんとの会議後に答えさせて下さい」

「わかりました。大変失礼なことを言って申し訳ありません」


 ODA真理教会本部には、教祖の住居区画がある。その寝室の一つにきた。

「おっっそーい、待ちくたびれた」

 ルーシーが言った。

「暇だからお風呂に入ったから、2人で入ってきて、早くしてね」

 俺の知っているフィリピーナは性欲が強い。ナンシーとルーシーを満足させてから、ウィスキーを飲んで1人で別の部屋で寝た。

 早朝、霊体離脱して上空5000メートルくらいに移動した。大森林を見つけた。そこに瞬間移動した。両手を拡げて太陽と大森林から光の粒子を全身で取り込んだ。実に清々しくて気持ちがいい。2〜3分で満タンになった。肉体を意識して一瞬で戻った。

 朝起きて2人を見に行った。素晴らしい女が2人いた。

「おい、起きろ」

「ペシッツ、ペシッツ」

 2人の尻を叩いた。

「兄様、おはよう」

「おはようナンシー、ルーシー」


 食事をした後、2機のヘリコプターでルーカスとスタッフを伴って1校目の小学校に向かった。ルーシーが操縦して、本来の操縦士がナビをした。小学校に着陸すると小学生が整列していた。後ろに怪我人や病人らしき人達が布を敷いて座っていた。

 教壇の上に立って見渡した。1年生〜4年生で7人のギフテッドがいた。学園の先生達が生徒を連れてきた。親御さん達も前に来て説明を聞いていた。俺は若くて困っている人を波動で探した。「いた」、3〜4歳の男の子を連れているまだ若い女の人だ。ナンシーとルーシーを呼んで、教壇まで連れてきた。

 若い母親を椅子に座らせた。右手に手袋をして、顔に布を巻いていた。マイクが俺に近づいてきた。

「お母さん、あなたは強盗に襲われましたね。まだ息子さんは小さかった。強盗は誘拐しようと男の子に手を伸ばした。貴方は強盗の手を払おうとしましたが、男がナイフを振り回した。お母さんは、振り回す男のナイフで指を2本切断してしまった。それでもお母さんは頑張った。男は今度はお母さんの顔目掛けてナイフを振り下ろした。お母さんは顔に傷を負ってしまった。驚いた男は家にあった金を持ち出して逃げていった」

「ウウウウウアアアアア、その通りです」

「お母さん、手袋を外してくれませんか」

「はい」

 右手の人差し指と中指の第二関節から先がなかった。録画するカメラがズームした。望月は教壇の近くに行って見た。

 俺は母親の右手を取った。指がなくても一生懸命家事をしていたのだろう、小指の筋肉が発達していた。健気に頑張る母親に俺は泣きそうだった。

「望月さんとナンシー、来てお母さんを支えてくれ」

 母親を気絶させた。切断された指の切断面の皮膚を取った。光の粒子を可視化させて、指の骨と細胞を再生していく。切断されても元の形を保ったオーラの指がある。その指に沿って再生した。カメラがズームで録画していた。望月が間近で凝視していた。元通りに蘇った。織田社長が母親を起こした。

「指を再生しました」

「えっ、本当に私の指が、ああ、ありがとうございます」

 母親が泣き崩れた。

「お母さん、顔の布を取ってくれませんか」

「はい」

 酷かった。髪の毛から鼻を断ち切り、唇まで切られていた。ナンシーが顔を背けた。俺は母親を再度気絶させた。切られた箇所を慎重に再度切った。傷が残らないように傷の上にあった皮膚を除去して、切断面を癒着させて治癒した。切断された鼻が歪に癒着して、片方に伸びてしまっていた。顔の皮膚がそれにつられて歪になっていた。鼻の切断を元に戻した。唇も元に戻した。これからが本番だ。母親の顔を両手で覆い、皮膚の歪みをなくしていく。目も左右が違ってるので直していく。

「ユージ兄様、あんまりやりすぎるとリリー姉さんになっちゃうよ」

 ルーシーが近づいて小声で言った。

 やばい、作業に熱中するところだった。両手をどけるとすごい美人になってしまった。でも途中でやめてよかった。

「お母さん、終わりましたよ」

「本当ですか?ありがとうございました」

「お母さん、男の子なんですが、私の学園で教育して見ませんか?」

「本当ですか、よろしくお願いします」

「俺はやだよ、ママと離れたくない」

「わがまま言うんじゃないよ、あなたのためなのよ、わかった」

 先生達が親子を連れて行った。

「ええええ〜、これがアタシの顔なの、すごいです〜」

 ナンシーが母親に手鏡を渡して、顔を見せていた。

 2校目も無事に終わった。俺達は学園には戻らずマニラ空港に直行した。水晶のブレスレットでリリーに連絡しておいたから、キャデラックとリンカーンが迎えに来ていた。キャデラックからリリーが降りてきた。俺に駆け寄ってキスをした。俺もリリーを抱きしめた。またすごい美人だと望月は思った。リムジンのキャデラックにリリー、ナンシー、ルーシーが乗って、リンカーンに俺と望月さんが乗った。

「これが宿泊先のホテルの鍵です。明日9時過ぎにこのリンカーンをホテルによこします。10時から三友物産の小川さんところで会議です」

「わかりました。織田社長は本当に聖者だったんですね。でも女好きの聖者ですよね」

「はははは、やっぱりバレますよね、私も男ですから、会社の社員はみんな知っていますが、他には内緒にして下さい」

「わかりました」

「それじゃあ、また明日お会いしましょう」

「ありがとうございました」

「本当の聖者かあ、いるんだな、織田さんは人間じゃなくて、宇宙人かも?」


「リリー姉さん、まだやったことないでしょう?」

「何のこと?」

「ナンシー姉さん、凄かったでしょう?」

「もう何回も死んで天国に行ったわよ。今思い出しても身体が疼いてくるの」

「アタシもなの、ユージ兄様と離れたくないなぁ」

「何なの、あんた達」

「まさか麻薬じゃないわよね」

「違うわよ、麻薬よりも凄いと思う。あれ以上はないと断言できるわ、ユージ兄様しかできないのよ」

「だから、何なのよ」

「これよ、これより小さい水晶球を敏感なところにテープでつけて、ユージ兄様の念を入れてもらうの」

「このブレスレットは付けても、そんな感じはしないわよ」

「一度試してみればわかるわよ、リリー姉さんのご主人様なんだから」

「アタシ、ユージ兄様と2人きりの時、ご主人様って呼んでるんだ」

「えええ、ルーシーもそうなの?」

「だってユージ兄様、そう呼ばれたいんだって」

「リリー姉さんはなんて呼んでるの?」

「ユージよ、今更呼び方を変えられるないわよ」

「ふ〜ん、いいよ、私達だけでもご主人様って呼んであげるから」

「麗子はなんて呼んでるのかしら」

「レイちゃんは、旦那様って呼んでるよ」


 俺はリリーと湯船に浸かっていた。

「ユージ、ナンシーとルーシーに聞いたんだけど、水晶球を使うと凄く気持ちがいいって、何で私に使わないの?」

「リリーとはいずれ結婚して子供もできるだろうと思っていた。母体に影響が出るかも知れないと思って使わなかったよ。でもあの2人を見てると大丈夫だと、今は思ってるよ」

「じゃあ、私に使ってみて」

・・・・・・・

「リリー、愛してるよ」

・・・・・・・

 翌朝

「おはよう、凄く気持ちよかった。もう一回して」

「やばい、もう8時だ」

「起きろ、リリー、支度しろ、時間がないぞ」

「えええ、もうこんな時間なの」

 ナンシーに念話した。

「こちらは今起きたところだ、そっちはどうだ」

「もう、とっくに準備できているわよ」

「20分後に来てくれ、朝食も運んでくれ」

「わかりました。ご主人様」

 20分後、ナンシーとルーシーがやってきた。シェフがトレイの台車で4人分のモーニングを運んで、テーブルに置いた。

「悪いけど、私達でやるから下がって下さい」

「はい、奥様」


「リリー姉さん、どうだった?」

 ナンシーが身を乗り出して聞いてきた。

「あんた達の言った通りだった。一度経験したら、もう離れられなくなっちゃう」

「そうでしょう」

「あたし、子供を産むのをもう少し後にするわ」

「姉さん、産むんじゃないの〜、産んでよ」

 ルーシーが言った。

「イヤよ、妊娠したらできないじゃない」

(俺を抜きに話が進んで行く)

「食べたら出かけるぞ」

「小川さんとの会議には、ナンシーとルーシーで行ってきて」

 リリーが言った。

「それからルーシーはそのままフィリピンに残るのよ、私がシンガポールに行くから」

「えええ〜、もうヤダ〜」

「リリーは俺の妻だ。妻がシンガポール本社にいないとおかしいだろう」

「私も妻になりたい」

 ナンシーが言った。

「妻は1人なの!ねえ〜ご主人様〜」

 リリーが俺に抱きついた。

(ご主人様、ああ、何といい言葉の響きだ。やっぱりリリーが1番だ)思わず笑みが溢れた。

「もおお〜、朝から嫌になっちゃう」

 ルーシーが心底嫌そうに言った。


 三友物産のフィリピン支社の会議室

 フィリピン農村部の小学校を訪問するための拠点のスーパーと宗教施設30箇所、ここを核として全小学校を訪問するスケジュール計画を立てました。経営の観点から都市部にもスーパーとコンビニを展開します。それに付随して物流施設、運輸会社、食品会社、生活必需品を取り扱う商社を設立する計画です。その企業グループを統括する本社ビルの建設の段取りを今日出席している三友不動産の飯田取締役にお願いしています。スーパーとコンビニの中期計画がグラフになっていた。

 ここまでが前段階です。次の資料をご覧下さい。フィリピンは極めて未成熟な経済で、リゾートホテル、風俗産業、カジノ産業以外は、ほとんどの産業が手付かずの状態です。

 次のグラフは、フィリピンの人口構成比の将来予想、年収別人口の将来予測です。政府が外資参入を規制しているので急激な発展は見込めません。市場として数十年貧しい経済が続くと予想しています。従って会社として、日本の商社的な役割の会社が司令塔となって、不動産、スーパー、メディアのテレビ局から展開を始めるのが懸命かと思います。

「ここにいる三友物産経営企画部メンバーがそれぞれが担当する会社を設立します。それらの会社を統合する商社的な会社を設立して、彼らはそこの中核社員を兼務します。商社的な会社はフィリピンODA.LTDの子会社とします」

「三友物産経営企画部は、そのままフィリピンODA.LTDの商社部門の経営企画部の役割を担い、計画に従い必要な会社を設立し、そこの社長も兼務するのですね」

「その通りです。織田社長」

「フィリピンODA.LTD本社ビルの建設計画は飯田さんが担当ですね」

「はい、社長」

飯田が返事をした。

「お手元の資料をご覧下さい。完成予想図です」

「これはリリーの要望を取り入れたものですね」

「はい、その通りです」

「せっかく作って頂いたのに申し訳ありません。変更させて下さい」

「何なりと、仰って下さい」

「飯田さん、私の趣味が不動産ということをご存知ですね」

「はい、承知しております」

「では、世の中の人間の度肝を抜いて下さい」

「これは、3棟建てですね、この点はいいでしょう」

「この写真を見て下さい」

「和風の会席旅館ですか?」

 飯田が質問をした。

「これはシンガポールの私の住まいです。ビルの屋上に作りました」

「この350メートルの高層ビルの最上階に、和風庭園を作って下さい。ビルの中に滝と小川を作って懐石料亭を作って、私の住居と来客用の住居を作るのです。ビルの中に家を作って下さい。エレベーターで最上階に上がった来賓客の度肝を抜くのです」

「その下に幹部用のレストラン、バー、プールもあってもいいですね。幹部用の住居も用意して下さい」

「どのビルでもいいですが、スポーツジムが必要です。トラック、プール、アスレチックジム、サウナ、マッサージルーム、お風呂、サウナ、テニスコート、ゴルフ練習場、空手などの武道の道場、思いつくままの施設を作って下さい。私の記憶ではインペリアルバンク社には役員専用のプール、スポーツジム、サウナ等の施設がビルの上層階にあったと記憶しています。それ以上の物を作るのです」

「高層は当社グループ企業、中層はホテル、低層はショッピング、レストランエリアでしたね。どのビルでもいいですが、中層に屋上庭園のテラスを作ってコンサートができる数百人が入れるパーティ会場を作って下さい」

「社長、お時間をいただけませんか」

 飯田が途方に暮れた表情で言った。

「では、今日の会議は終了です。小川さん、飯田さん、経営企画の責任者のヘンリーさんは残って下さい。望月さんは別室で待機して下さい」

 

 ホワイトボードに本社ビルの場所がある地図をはった。

「本社ビルの視界を妨げる土地を買収して下さい」

 ラインマーカーで範囲を囲った。

「本社ビルへの交通アクセスは車とバスになっていますが、地下鉄を引けませんか、マニラ空港からそのまま本社ビルに行けるようにしたいのです」

 大通りをマーカーで線を引いた。

「地下鉄が通る地下一階をショッピングエリアにします。大阪の梅田から難波までは地下にショッピング街が広がっています。地上はビジネスビルで地下の方が賑わっています。フィリピンは熱いですから、地下の方がいいのではないでしょうか?従って大通りの両側の土地と建物も買い占めて下さい」

「次にマニラとODA学園をつなぐ鉄道があればいいと思っています」

「全ては無理ですから、できるところから着手して下さい」

「社長、自信がありません」

 飯田が思わず吐露してしまった。

「京都の南禅寺界隈に財界人の別荘、あるいは八方園のような料亭をビルの中の作って下さい」

「スポーツジム、プール、バー、レストランは幹部社員と一般社員と分けて下さい」

「流石にゴルフ練習場とテニスコートは一般の人が対象です」

「わかりました、やってみます」

 小川が思いついた。

「ビルについて私(小川)からご提案させて頂きます。フィリピンには本当の意味でのVIP専用の社交クラブがありません。オペラコンサート、チャリティーコンサートが行えるパーティ会場を作ってはいかがでしょうか。中層のビルの屋上が250メートルの高さですから、ここにも観賞用プールと庭園を作ってはいかがでしょう。ビル完成披露パーティをここで行なってはいかがでしょう。社長とリリー奥様との結婚式も行っておいた方がいいと思います」

「小川さん、私も気が付かないことが多いいので、よろしくお願いします。

「飯田、世界中のホテル、会員制クラブ、リゾート施設の情報を集めなさい。君はまだ三友不動産の重役だ、三友不動産に働きかけなさい」

 小川さんが飯田さんに指示した。

「ちょうど、軽井沢の総合リゾート施設を計画しているので、纏まりましたらご報告します」


「織田さん、ところで望月はどうしますか?」

「彼の才能はM&Aと会社買収です。彼の人生の目的は金儲けです。金儲けのためなら際どいこともするでしょう。ここで知り得た情報を利用して自分で会社を設立するかもしれないし、もっと年収が高い会社があるなら躊躇なく転職するでしょう」

「逆にいうとわかりやすいですよ、金さえ与えておけば一見実現不可能な事もやり遂げる能力があります。例えば、地下鉄を政府は公営にしたいはずです。鉄道の創設、TV局の買収も政府や他の財閥から妨害が入るでしょう。こう言った困難な事業を任せてもいいんじゃないですか。彼の年収の基準は世界の金融の覇者であるインペリアル社です。今の彼の年収は1600万円ですが。インペリアルバンクの取締役の年収の3億円が一応の目標で、CEOの30億円が最終目標でしょう」

「織田さん、そんなに出すんですか」

「仕事の成果次第です。評価は小川さんが決めて下さい」

「うちの幹部社員の年収はインペリアル社を越えないといけませんね。望月の労働意欲を高めないといけません。小川さんの年収は50億円だと考えています。高山さん達、部下の年収は小川さんが決めて下さい。でもインペリアル社よりも多くして下さい」

「織田さん、失礼なことをお聞きします。会社の資金は大丈夫ですか?」

「小川さんの趣味はフィリピンの渋沢栄一になることですよね。私の趣味の一つはODA学園です。趣味に使うお金は余裕資金ですよ、資金のことは全く心配要りません。他言無用ですが、私個人で行った先物取引の利益は昨年の1年間で13兆5000億円です。だから小川さんは思いっきり好きに使って下さって結構です」

「もう一つ、よろしいですか?ODA学園の土地を拡張している目的は何ですか?」

「昨年の86年に日米半導体協定が締結されました。日本の半導体の売上は世界シェアは70%です。半導体は、飛行機、船舶、自動車、家電、軍事産業、電子部品を取り扱う商品の核になるものです。戦略的物質なのです。アメリカの命令で、作れない、売れない、研究できない、日本の半導体産業はいずれ潰されます」

「数年後、縮小された半導体の研究者達を招聘して、研究所を作ります。研究成果によって設計か製造装置、何になるかわかりませんが、次世代高性能半導体製造工場を造ることが目標です。それができれば、世界の最先端の市場を占有できます」

「それも趣味の一つですか?」

「そうです」


 織田と望月が望月の宿泊しているバーで話していた。

「望月さんの質問は、利益を生み出さない学園に巨額投資をして、会社は破綻しませんか?というものでしたね」

「今日の三友物産での会議の開発計画を聞いて、失礼ですが破綻すると確信しました」

 望月は断言した。

「私は話の中で、趣味でフィリピンに投資をしていると話しました。一般に趣味に使うお金はお小遣いの一部です。年間の投資額は日本円で1000億円、毎年の赤字額は100億円くらいになると思っています。この金額は私にとって些細なものです、という答えではいけませんか?」

「しかし、日本の一部上場企業でもそのような巨額の金額を出せる企業はありません」

「望月さん、私の会社を広尾の小さい事務所の会社だと侮っていませんか。3年後にはフィリピンに350メートルのビル、シンガポールでは280メートルの本社ビルが完成します。完成すればあなたの考えも変わるかもしれません」

「今度はこちらから質問します。望月さんの目標は金儲けだとお聞きしました。外資の社員は年収の高い会社に簡単に転職します。ならば望月さん本人もお金で買えるのではないですか?」

「そうとも言えます」

「ならばあなたを買いましょう」

「今の年収は1500万円でしたね。初年度は3000万円にします」

「私(望月)から要望があります。例えば1000億円のM&Aを成功させた場合、会社の手数料は3%の30億円、その10%の3億円を臨時ボーナスとして頂けませんか」

 望月が取引条件を提示した。

「いいでしょう。ただし、入社にあたって誓約書を書いて頂きます」

「当社で知り得た情報を利用して自分の利益になる行動もしくは他人に漏らした場合に、慰謝料として100億円を払うものとする。これが誓約書です。これにサインして下さい」

「わかりました」

「これで望月、お前は当社の社員だ。直接の上司は小川さんになるから、以後は小川さんの指示に従え」

「はい、社長」


 ODA.HDに誓約書を提出して1ヶ月後、望月は上司の小川の下に出社した。

「望月です。よろしくお願いします」

「うむ、君のことは織田社長から話を聞いている。フィリピンで仕事を行うにあたってのアドバイスをしておく。君はテレビゲームをしたことがあるかね、聞くところによるとゲームクリア後は興味がなくなってしまう。ゲームはクリアする過程が楽しいのだそうだ。ゲームは伝説の武器や防具を手に入れて大きな敵に立ち向かう。フィリピンでは金があれば大抵のことはできる。政治家や役人への賄賂も自由だ。彼らは一種の手数料だと思っている。君は最大の武器である金を使って、君の大好きな企業買収やM&Aの仕事を思う存分楽しめる環境がある。君の成果に期待しているよ」

「副社長、私は何をすればよろしいでしょうか」

「マスメディアを支配したい。TV局、新聞、雑誌の全てだ。最大手の一社はODA.LTD100%子会社、その他はODA.LTDの孫会社にする。やり方は君に任せる。ただしODAの名前を汚すな、不正に金を自分の懐に入れるな、麻薬に手を出すな、以上をしなければ、何をやってもいい」

「1週間に一度、土曜日の午前中にレポートを出すこと、レポートは完結に1ページにしてくれ」


 半年後

「買収が完了しました」

「よくやった。ではODA真理の信者以外のオーナーと専務以上の経営者を全て首にしろ」

「番組の編成はどうなっている」

「アメリカのCNNの報道、ドラマ、日本のアニメ、最後にフィリピンのニュースです」

「アメリカと日本から若手のプロデューサーかディレクターの招聘を計画しています」

(望月は思いついた内容を言った)

「ちょっと待て、経営企画部のヘンリーを呼べ」

「副社長、お呼びでしょうか」

「望月がマスメディアの買収が終了した。これがリストだ。TV局が3社だ。これらの企業の運営をお前に任せる。企画会社を作って準備をしろ、後で望月に行かせる」

「わかりました」

「人事部長を呼べ」

「人材の募集状況はどうなっている」

「テレビ、新聞、雑誌に募集をかけて行っています。人数は集まるのですが、各社から要求が出ている幹部社員の採用と選別にミスマッチが起きています」

「織田社長が定期的にフィリピンに来られる時に時間を取って頂く、大学の講堂に人数を集めて、社長に選別して頂くから、段取りをしてくれ」

「かしこまりました」


「望月、マスメディアの買収は短期間によくやった。だが、テレビ局の幹部社員を殺そうとしたな。男にも家族がいるのだ、善良な人間を安易に殺そうとするな!」

「所轄の警察署長からの報告が八島に入った。八島が私に指示を仰いだのだ。八島がODAで調査するからと警察に手を引かせている。お前が依頼した口利き屋、殺し屋だけじゃない、犯罪組織ごと八島が殲滅した。誰も生きて残っていない、八島はODAの名を汚す者を許さない、お前を処分していいか私に確認したのだ」

「申し訳ありませんでした」


 移動中のキャデラックで防音シールドで運転席と遮断した。

「望月、なぜ殺そうとした」

 俺は質問した。

「1番大きなテレビ局のディレクターで最後まで買収に反対していました。ラジオ局の時代から前期中学校卒業で入社した生え抜きの社員です。番組編成を手がけていて社内での発言力が大きく、買収に障害になると思い排除しようと思いました」

「それで?」

「ODAがオーナーから会社を買収しても、社員を引き連れて独立すると思いました。彼1人ならば問題はないのですが、社員を引き抜かれては経営に支障が出ると思いました」

「彼が買収に反対した理由はなぜだと思う?」

「ODAが買収したとしても会社は存続し仕事の内容に変化はありません。むしろ経営が安定します。私の推測ですが、オーナーに成り代わって自分が会社を乗っ取ろうと考えていたが、相手がODAでは勝目がないので買収をやめさせようとしていた、と思います」

「なるほど、望月とタイプが似ているな」

「恐れ入ります」

「しかし、ODAにとって邪魔な人間が強盗に都合よく殺されては、ゴシップのネタの可能性や、殺し屋やその上部の犯罪組織が情報を下にODAを脅迫する可能性、キリスト教会へ情報を売るかもしれない、そう言ったリスクの方がテレビ局のディレクター1人の排除よりも大きいのだ。お前の行動は極めて拙速な行動だ。思慮が足りないぞ、望月」

「申し訳ありませんでした」

「それでどうする?」

 俺の心の中では結論は出ているが、あえて望月に答えさせた。

「優秀な彼を失いたくないので、聖者であるODA社長に怪我の治癒をお願いしたいと思います。一旦、彼を引き入れて、それでも会社にとって障害になるならば、金の力で排除します」

「よろしい」

「彼、ダニーは銃弾で脊椎の神経を損傷して車椅子の生活です。テレビ局で働いている奥さんに、事前に今日の訪問する事を言ってあります。まず、私が彼らに事情を説明しますので、社長はお車の中でお待ち下さい」

 ダニーのアパートメントは3階建の2階だった。

「ピンポーン」

「望月さん、ようこそいらっしゃいました」

「つまらないものですが」

 望月がお見舞いの果物と見舞い金の封筒を奥さんに渡した。

「あなた、望月さんがいらしたわよ」

「わざわざお越し下さり、ありがとうございます」

「お身体の具合はいかがですか?」

「脊椎の神経を損傷してしまい、一生車椅子の生活です」

 奥さんが分厚い封筒のお見舞い金の中身を確認した。米ドルで7万ドル(日本円で10万円)、フィリピン人の年間収入の金額があった。

「ダニー、望月さんからお見舞い金をこんなにたくさん頂きました」

奥さんが動かないダニーの手の平に乗せた。ダニーが自分の手を見つめた。

「こんなにたくさん・・・・」

「ダニー、私は君に確認したかった事がある。何故君はODAの買収に反対したんだ」

「私はテレビ局の仕事を天職だと思っています。自分の力で何でもできると思っていました。だから会社も自分の物にしたかった。でもスポンサーはODAの関連企業がほとんどで、自惚れていました」

「君はまだテレビの仕事がしたいかい?」

「もちろんです。死ぬ気でやります。私に仕事を下さい」

「ダニー、君はメシア教徒だね、ODAは信者しかマスメディアの社員にしないよ、フィリピンはスペインの植民地だったが、ローマ教皇の指示で、異民族、異教徒に対して略奪、殺人、奴隷にしてもいいと許可を出していた。植民地を統治し易くするために宣教師を送り込んだ。メシアが聖書を書いた訳ではなく後の信者が文書にしたのが聖書だが、歴史上行ってきた残虐な行為を正当化できるかね?ODA真理はメシア教を否定はしないが、正しくその歴史を理解することが必要だと思う。ODA真理が教える神の存在は今までの宗教とは全く違う」

「望月さん、私も主人も頂いた教本を熟読しています。今はODA信者です。信じて下さい」

「ダニー、本当か」

「はい、こんな身体になってから信者になって、なんのお役にも立ちませんが、信じて下さい」

「わかった。君を失いたくなくて、私の上司の小川副社長にお願いして、ODA社長にお時間を頂いた、今、外でお待ちだから、少し待ってくれ」


 車を降りると数百人の群衆がいて、警察官が俺を警護した。群衆の熱気で温度が数度高い。望月が俺を先導して歩く。群衆の“気”に反応して無意識に俺の身体が発光していた。テレビ局、新聞、雑誌のカメラがところ狭しと俺を取り囲んでいた。全部ODAの関連企業だから、少し可笑しくなって笑みが溢れた。

「ピンポーン」

 玄関のドアを開けると奥さんが片膝を立てて首を垂れていた。

「ようこそ、おいで下さいました」

 奥さんが立ち上がりダニーのところに案内した。

「ODA様、お見苦しい姿で申し訳ありません」

 首も自由に動かせないようだ。

「ダニーをベッドに横にして下さい」

 望月と奥さんがダニーを運んだ。テレビカメラ1台と一眼レフカメラ1台のカメラマンが音を立てない様に入室した。

「上半身を裸にして下さい」

オーラと気でダニーを全身を検査した。

「ODA様、・・・・」

 ダニーが呟いた。

「脊椎の神経が首から下の部分が切断しています。銃弾の破片が心臓の手前の血管に刺さり、脳にも小さい破片があります。いつ死んでもおかしくありません」

「水の入った洗面器とタオルを持ってきて下さい」

「まず銃弾の破片を取り除きます」

 

 ダニーを仮死状態にした。ダニーを仰向けにした。銃弾の破片の周りを気でコーティングして、動かして脳細胞を傷つかない様にした。散らばる破片を動かして喉から出す。

「スプーンと皿を持ってきて下さい」

 ダニーの口の中にスプーンを入れて取り出すと、スプーンの上に小さな鉛の破片があった。

 ダニーの心臓を包む様に両手を胸の上に置いた。心臓の鼓動を停止させた。銃弾の破片の周りをコーティングし血管から破片を取り出しすぐに修復、心臓の細胞から破片だけを表面に移動させて修復した。ダニーの胸の皮膚から破片が突き破って出てきた。傷口から真っ赤な血液が宙に浮かんで出てきた。出血した血を傷口から排出させた。破片を皿に移動させ、宙に球体になっている血液を洗面器に移した。胸の傷口を治癒して、心臓を再鼓動させてダニーの意識を覚醒させた。


「君の脳と心臓に散らばっていた銃弾の破片だ。これで生命の危険は無くなった」

「次に脊柱の切断された神経を再生して繋ぐ。苦痛はないと思うが、強い電気ショックの様な感覚があるかもしれないから、異常があったら言ってくれ」

 ダニーの首の下に手を置いて、光の粒子を注いで細胞を再生する。顕微鏡に様に神経細胞を繋いで行った。可視化した光の粒子を集中して注入する。光の粒子は痛みを緩和させ一種の快感に近い多幸感を与えるから苦痛はないはずだ。

「今切断された神経を再生して繋いだ。これから私のエネルギーを神経と血液を通して全身に流して、異常がないか試す」

「アアアアー」

ダニーが恍惚の表情になった。ダニーの身体が全身に拡がる快感で痙攣していた。

・・・・・・

「もう大丈夫だ」

 俺は念の注入を停止させた。

 一部始終を録画と写真が記録された。

「ダニー、起きろ」

 俺はダニーの頬を叩いて起こした。

「ダニー、どうなの」

 奥さんが聞いた。

「これほどの幸福感を経験したことがないよ、もうこのまま死んでもいいと思ったよ」

 ダニーが言った。

「ダニー、立ち上がれ、できるはずだ」

俺はダニーに命令した。

「はい」

ダニーがベッドから身を起こした。そして立ち上がった。

「ODA様、歩けます、歩けます」

「おおおおお〜、神様〜」

 ダニーが俺の足元に縋りついた。奥さんも一緒に俺の足元に縋りついて泣いていた。

・・・・・・・・

「ダニー、良かったな、これでお前の好きなテレビの仕事が続けられる」

「ODA様、ありがとうございます。私は一生をかけて貴方様にお仕えします。そして貴方様の御業を広く世の中に知らしめます」


「望月、今日は疲れた。ナンシー達のところに戻る。明日は小川さんところの会議だ。人材募集と増加するグループ社員の住宅についてだったな。お前は小川さんと打ち合わせをしておけ」

「会議にはナンシーとルーシーも同席させる、車2台で行くから明日朝9時に迎えに来てくれ」

「かしこまりました。


 ODA様が帰られた。

「ノラ〜」

「ダニー〜」

 ダニーがノラに歩み寄った。

「ウッツ、ダニーそれ以上近づかないで!」

「ダニー、貴方肥溜めみたいに酷い臭いよ!」

「早くシャワーを浴びて!着ている物は捨てるからゴミ袋に入れてちょうだい!」

「感動の場面だったのに・・・・」

 ダニーが小さな声で呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ