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87年 日本のODAワイナリー

 赤坂のベルのバーに来ていた。アイリッシュバーは、赤坂、六本木、青山の3店舗になっていた。全て自社ビルの中のある。ママ、チーママはベッキーの店で研修が終わった後、ベルの店で研修に入る。ベルが認めた者がママとチーママになっていた。月に一回ベッキー、ベル、フィリピンからルルが来て情報交換会を兼ねた同窓会が行われる。その同窓会が赤坂のベルの店でやっていた。しかし、俺は同窓会に参加するためにここに来たのではない。


「雄治、悪いな遅れて、会議が長引いちまった」

 坂東建設社長になった哲さんがやってきた。口調は悪いがいたって真面目で善良な人だ。財閥の御曹司だから苦労知らずだ。周りからチヤホヤされて育ったから、悪意のある行為を受けたことがない、いわゆる坊ちゃんだ。だが社会正義が好きな理想主義者の面を持つ。相手の事を思うばかりに、周りから弱腰だと見られていた。

「まずは乾杯しましょう」

 俺たち男2人に、ベッキー、ベル、ルルの3人の女の子が付いた。3人との席を退く気はないようだ。

「哲さん社会貢献するのが好きですよね」

「なんでわかった」

「そりゃわかりますよ、時代劇で好きなのは、水戸黄門と大岡越前、好きな人は、ナイチンゲール、マザーテレサ、ガンジーですよね」

「日本で自然災害があると、炊き出しに行くのが趣味でしょう」

「まあな、俺は経営者に向いてないんだよ」

 哲さんが言った。

「そんな哲さんにお願いしたいことがあります。4〜5日付き合ってもらえませんか?」

「土日に3日足せばいいか、多摩川テラスの打ち合わせで織田と会議だと言えば誰も文句はないからな」

「では3日後、広尾の俺の会社に来て下さい。秘書を1人同行させていいですよ」

「わかった」

「では今日は飲み明かしましょう」


「哲さんは女の方は」

「無理に決まってるだろう。周りの監視の目があってできる訳がない」

「連れてくるいつもの女性の秘書との関係は?」

「ない」

「つまらなくないですか?」

「そりゃあ、つまらないさ」

「ここにいる3人以外なら、紹介しますよ」

「本当のいいのか、誰でもいいか」

 哲さんがネクタイを緩めてウィスキーを煽った。

「はい、誰でも」

「じゃあ、ここのチーママのジャスミンを頼む」

「わかりました」

「ルル悪いが席を外してくれ、八島も来ているんだろう」

「はい、フィリピンで弟子が10万人できて、リリー姐様が支部を新たに120作ってくれるんで指導員不足なんです。日本には後輩をスカウトしに来て、今渋谷で後輩たち20〜30人と飲んでます」

「あいつ自腹で奢ってるはずだ、少ないが八島に持っていってくれ」

 俺は用意していた400万円入った茶封筒をルルに渡した。

「社長は弟子思いなんですね」

「俺の本当の弟子は八島1人だ。師匠として弟子の面倒をみるのは当然だ」


「ベル、ジャスミンを呼んでくれ、哲さんのアフターをさせてくれ。哲さんはここによく来るのか?」

「はい、ジャスミンがお気に入りでよく来て下さいます」

「ジャスミンはどう思っている?」

「紳士的でお金持ちですから、ジャスミンも好きだと思いますよ。でも、同伴もアフターもしていませんから、おそらく手も握ったこともないと思います」


「哲さん、3日後の出張なんですけど、俺は瑠美子を連れて行きます。なんならジャスミンと一緒ではどうですか?車も俺が用意しますから、会社から解放されますよ」

「おおっ、いいんじゃないか、とっても、雄治、頼むな」

「それから、この後ジャスミンがお供するそうです。女の気持ちに恥をかかせない下さいね」

「ジャスミンの気持ちかあ、なんだかドキドキしてきたぞ」

「あんまり飲みすぎるといけませんから、今日はお開きにしましょう」

「ああそうだな」

「ジャスミンお供してね」

 ベルが言った。


 その夜はベッキーのマンションにベルも一緒に泊まった。ベッキーの部屋には俺とのプレーのためにベッキーが用意した道具があった。道具を見れば、ベッキーが俺にどうして欲しいかすぐにわかった。

 

 翌朝、ベッキーもベルも起きれなかった。特にベルは腰が抜けてしまっていた。俺は治癒で回復させ

 ニューオータニでランチを取った。

「ベッキー、あのオモチャどこで買ったのよ」

「通信販売よ、流石に恥ずかしくて買いに行けないわよ」

「いろんな物にベッキーの匂いがしたわよ、ちゃんと洗っといてね」

「アッ、ごめんねベル、アルコールで拭いておくから」


 渋谷の居酒屋で八島と弟子の3人が後輩たちを引き連れて宴会をしていた。

「皆さん、こんばんわ〜。飲んでますか〜」

 ルルが居酒屋に入ってきた。ルルから連絡が入って、広尾の会社の社員が居酒屋を貸し切っていた。弟子の3人が「ルルさん、こちらへどうぞ」と言って八島の隣りの席を空けた。

「ケンちゃん、これ師匠から、自腹で奢ってるだろうから渡してくれって」

 茶封筒を渡した。(ルルに、八島拳太だから、ケンちゃんと呼ばれていた)

「いろんな道場があるけど、普通は本部にロイヤリティをを払ってるんでしょう?」

「師匠は給料はくれるし、道場は用意してくれるし、お小遣いもくれて。自分は何にも取らないからね」

「小川さんの救出の時だって、師匠なら1人で武装集団を壊滅できるのに、俺達にやらせて宣伝してくれた。あのおかげで軍隊と警察の顧問になれたから、師匠のお陰だ」

 八島が言った。

「伝言なんだけど、フィリピンに新たな弟子を連れて行く前に、ボーイと運転手をさせてからにしろって、言われたわよ」

「ベッキー姐さんのところか、俺も扱かれたなあ、今でもベッキー姐さんには頭が上がらないよ」

「ルルだけだよ、優しかったのは」

・・・・・



 俺と鉄さんは都内の知的障害者福祉施設に来ていた。

「ここは就労継続支援B型事業所と言って、一般企業と雇用契約を結べない比較的重度の知的障害者が働く作業所です。この人達の平均月給は1万6000円です」

 身体をゆらしたり、奇声を発していたり、独り言を言っている人達が割箸を箸袋に入れていた。職員さんに聞くと、休むことなく真面目に働いています、と説明してくれた。


※一般的に知能指数IQ35以下が重度、35〜50が中度、51〜70が軽度と言われています。統計的には、日本の人口の約2%がIQ70以下で250万人が知的障害者になります。1970年以降、中度の知的障害者の比率が増加しています。研究によると、母年齢の上昇と出生児の体重減少と言われています。


 栃木県足利市にある、こころみ学園にやって来た。子供達の学校、宿泊施設、山の急斜面の葡萄畑、センスのいいワイナリー、山の洞窟の中のワイン貯蔵蔵があった。ここは全国から知的障害者を持つ保護者の訪問がある。時間制で職員が施設を案内して説明していた。養護学校の先生をした創立者が、中学を卒業しても行き場のない子供達のために退職金を注ぎ込んで、買い手のない急斜面の山を購入された。初めは畑で無農薬野菜を育てる事を考えた。生徒達が急斜面に登って雑草を手で取った。ところが、生徒達に雑草と野菜の区別がつかないので、雑草と一緒に生えたばかりの野菜も抜いてしまった。そこで木と草ならば区別がつくだろうと、葡萄の木を植えたのだ。収穫まで年数がかかったが、南側の山の急斜面の育つ葡萄の品質は高く、オーストリアの有名なワイナリーから指導員を呼んで、本格的なワインを作ることになった。それがココ・ファーム・ワイナリーだ。ワインの品質は高く、JAL,ANAの国際線に使われ、有名百貨店でも販売されている。(沖縄サミット、洞爺湖サミットでも採用された)


「哲さん、俺は追分にある浅間サンラインの北側の土地を購入したんです。ちょうど大浅間ゴルフクラブの西側の土地です。浅間サンラインから浅間山に向かって、太陽の陽射しをたくさん浴びる広大な南斜面の土地です。あそこで、私的障害者の養護学校とワイナリーを造りたいんです。哲さん、学校の理事長とワイナリーの社長になってくれませんか?」

「やりたいけど、俺にも建設会社の社長の仕事があるぞ」

「哲さんに経営をお願いしたいんです。1人でいくつも会社を経営する人はたくさんいるでしょう。お願いします」

「俺はワインも作れないぞ」


 取得した土地が面している浅間サンラインにやって来た。

「ここから上の方の見渡す限りの土地です。土地の種別が農地になっているので、農業委員会にワイン農場建設として認可を受けています」


※農地法

第三条 農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。

第四条 農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(農地又は採草放牧地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に関する施策の実施状況を考慮して農林水産大臣が指定する市町村(以下「指定市町村」という。)の区域内にあつては、指定市町村の長。 以下「都道府県知事等」という。)の許可を受けなければならない。

第五条 農地を農地以外のものにするため又は採草放牧地を採草放牧地以外のもの(農地を除く。次項及び第四項において同じ。)にするため、これらの土地について第三条第一項本文に掲げる権利を設定し、又は移転する場合には、当事者が都道府県知事等の許可を受けなければならない。


「あそこにいらっしゃる人達を紹介します」

「山梨大学のワイン学科の学生さんとワイン科学研究センターの先生方です」

「織田さん、南側斜面の雄大な土地ですね、いいワインができそうです」

「こちらの方々は山梨大学教育学部の附属学校の先生方です。近隣の知的障害の子供を対象に通学の小学部,中学部,高等部を運営されたいます」

「織田さんは、こころみ学園を参考に入所施設も考えていらしゃるんですね」

「そうです」

「私どもの大学の卒業生、学生もお手伝いします」

「皆さん、こちらがこれから創立する知的障害者の中学校、高校の理事長、そしてワイナリーの社長をしていただける坂東哲さんです。坂東電鉄、坂東百貨店、坂東ホテルなどを束ねる坂東グループの取締役で、坂東建設の社長をされています」

「哲さん、一言お願いします」

「えー、坂東哲と申します。皆さんと一緒に理想の学園とワイナリーを作りましょう」

・・・・

「雄治、ハメやがったな」

「すみません、哲さんしか頼める人がいないんです。哲さんなら、建設も、ワインの販売も得意でしょう?」

「まあな、金はお前が出すんだろう?」

「好きなだけ使って下さい。ワイナリーの会社を作りますので、銀行口座に100億円振り込んでおきます」

「土地も会社も100%お前の所有か?、俺にも出資させろ」

「いいですけれども、お金出せます?」

「親父に話すと面倒だから、10億出す」

「じゃあ、おまけして30%の出資にしてあげます」

「お前に使われるの嫌なんだけどな」

「哲さんが理事長と社長なんだから、いいじゃないですか、経営者と株主だと思って下さい」

「まあ、いいや」

「土地は100万坪あります。将来発生する地震や、台風の自然災害の被害者を支援するODA財団を作ったので、西側の土地は使います。災害支援も大規模に行おうと思っています」

「いいじゃないか、楽しみだな」

「はい」

「仕事の段取りは瑠美子がしているので、東京に帰ってからにしましょう」

「今日は軽井沢ロイヤルホテルの別荘を2棟借りているので、そこが宿泊場所です」

「酒やつまみはホテルに言えば届けてくれます」

「何から何まで、参ったな」

「それからジャスミンはうちの社員ですから、5日分の割増同伴料はちゃんと払って下さい」

「自由恋愛じゃないのか?」

「ジャスミンは稼ぎ頭で店を空けてるんですから、払って頂かないとダメです」

「お前100億円をポンと寄付みたいに出すんだろ。少しぐらいいいじゃないか」

「仕事と慈善活動を一緒にできませんよ」

「わかったよ、ケチ」

「ジャスミンに男はいませんから、頑張ってください。店の引け後のアフターは自由恋愛なので彼女次第です」

「雄治、なんだか楽しくなって来たな」

「はい」


 軽井沢ロイヤルホテルのバーで4人で飲んでいた。ジャスミンが哲さんの横に座って、可愛らしく談笑して、ウィスキーを注いで、何気ない仕草が男心をくすぐっている。側から見れば恋人同士に見えた。

(流石だ、ベッキーとナンシーに鍛えられているホープだけのことはある)

 瑠美子は真面目だから、ジャスミンのように振舞えなかった。

(リリー姐さんやナンシーとルーシーも、こういうふうにユージに接しているんだわ。リリー姐さんは超美人でスタイルもいいから負けてもしょうがないけど、ナンシーとルーシーには負けたくないわね、今日はいっぱい甘えてみよう)と瑠美子は思った。

「学校法人とワイナリーの経理事務は瑠美子のところから人を派遣するつもりです。哲さんはスタッフの採用をどうしますか」

「山梨大学の学生を募集するつもりだ」


 その夜のホテルのスィートルーム。瑠美子が黒い透け透けの下着でソファーに座る俺の横に、しなだれかかって座った。黒い下着をつけているから、元々肌が雪のように白いから、その白さが際立っていた。

 エロくて美しかった。日本人として俺の理想の女だと思った。俺は日本人のママのバーを出すつもりだった。何人も面接して、銀座のクラブや赤坂、六本木のバーに通って、ママにしてもいい女性を探したが、どこにも自分が任せたいと思う女性に巡り会えなかった。俺は無意識にバーのママになる女を探す時に、瑠美子を想像していたんだ。瑠美子を超える日本人の女がいなかっただけだ。


(瑠美子、俺の完敗だ。お前の事を愛している)

 俺は愛情を込めて瑠美子にキスをした。


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