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87年、フィリピン開発計画、飯田の入社

 フィリピン本島の小学校の数は約4000校、農村の貧しい地区の小学校の数は約2500校だ。1年間55週間の内、フィリピンに滞在できる期間は多くても20週間だ。平日だと年間100日になる。小学校を訪問して1〜6年生の生徒の中からギフテッド(知能指数140以上の天才)の子供は、3000人✖️0.4%=12人になる。学校開設の85年と先年で1200人の子供達が学校に通っている。まだまだ1学年の募集定員1000人には不足している。募集を1〜6年生に拡大させた。新たに訪問する学校では500人✖️6年生✖️0.4%✖️100校=1200人となる。1日に2校では2400人、1日3校では3600人になる計算だ。ただし1学年1000人だから、学年ごとの不足人員に従って募集することになる。その管理は教師スタッフに任せる。

 

 リリーが動いていた。フィリピン本島農村部にある小学校2500校の近くに、宗教法人ODA真理協会を建設し、その敷地内に大型ヘリコプターの発着場と倉庫、メイドとシェフを揃えた立派な宿泊施設の建設を計画した。八島の要望で空手道場も作ることにした。

 それだけではない。スーパー、コンビニ、物流施設、運輸会社、食品会社、生活必需品を取り扱う商社をつくるそうだ。三友物産の小川支社長がリリーのブレインとして社外取締役に就任した。小川さんの指揮命令で三友物産フィリピン支社の各部門が全面バックアップで一斉に動き出した。リリーの会社からプロデュース手数料が支払われるので、支社の利益も激増した。三友物産の総合力は凄い。フィリピン在日の日本企業も全面的に協力してくれた。問題は人材だ。


※スーパー運営の損益分岐点は人口2万人、コンビニは2000人と日本の業界では言われています。フィリピンに競争相手がいないので、完成すればフィリピン国内でリリーの会社はスーパー、コンビニ業界を独占することになります。また関連する会社が軌道に乗れば、リリーの企業体はフィリピンに新しく誕生する財閥になる可能性があります。しかも急激に拡大する宗教法人を持ち、政府に太いパイプを持つ強力な財閥の誕生です。


 テレビ、新聞を通じてフィリピンODA.LTD、ODA真理教会、学校法人ODA学園のCMが流れ、人材募集がされた。三友物産フィリピン支社長の小川さん救出の報道とドキュメンタリーが放映されたばかりだから、国民の注目度は大きかった。外資導入で大規模な開発事業だ。フィリピン政府のゴメス参謀長が88年に国務大臣に就任することが内々に決まっており、政府の実質的な運営責任者になっていた。政府の全面支援で一気に多方面で開発が進んだ。人材確保が急ピッチで進んでいた。失業率が高かったから応募人数が多かった。その後の組織づくりの人材が必要だった、倒産した企業の人事担当者や総務担当者を採用していった。

 資金面はシンガポールのODA.HDが受け持った。土地はタダ同然だが、宿泊施設のある宗教施設、物流拠点も必要だった。建設費は日本の10%としても大きな資金が必要になる。俺は小川さんとリリーに「遠慮なく存分にやって下さい」とお願いした。

 建設が完了し、各企業が軌道に乗るには5〜8年が必要だった。


 俺は三友不動産の山根専務に電話をした。

 経営会議中の山根に秘書がメモを渡した。

「わかった。すぐ行く」

「大事な商談があるので失礼します」

「わかった。会議よりもお客様が大事だ、気にせず行ってこい」

 社長が言った。

「ありがとうございます」

 折り返し山根専務から国際電話があった。

「どうも、山根です。お元気ですか?」

「すみません、会議中にお電話しまして」

「いえ、会議の議題については事前に内容を知っていますから、私が抜けても問題ありませんよ。ワハハハ」

「ところで、どうしたんですか?」

「今、三友物産の小川さんにお願いして、フィリピンにスーパーとコンビニ店舗を計画してまして、それに付随して物流施設、運輸会社、食品会社、生活必需品を取り扱う商社を設立する計画です。その企業グループを統括する本社ビルの建設の段取りを山根さんにお願いしたいんです」

「どのくらいの規模のビルをお考えですか」

「どうせ建てるなら、立派なのがいいので、希望は高さ350m、最低でも250m以上の高層ビルをお願いします」

「予算はいかほどと、お考えですか?」

「逆にお聞きしますが、いくらくらいかかりますか?」

「多分、フィリピンの建設費は日本のざっと10%ですから、300〜400億円くらいかと思います」

「結構安く済みますね。一流ホテル並みのビルをお願いします」

「どなたと具体的に話を詰めればいいでしょうか?」

「もちろん、三友物産の小川さんと、うちの高山さんですよ。今、高山さんに電話を代わりますね」

「専務お久しぶりです。色々ご面倒をおかけして申し訳ありませんでした」

「お前、元気そうじゃないか。えらい美人と結婚したそうだな」

「はい、社長のおかげです。専務、一度シンガポールにいらっしゃいませんか?」

「シンガポールをご案内しますよ。それと今当社はシンガポールの開発を予定していまして、計画をお話しします。社長も開発の時は山根さんにお願いするとおっしゃっています」

「本当か?軽井沢と多摩川園の開発をしているのに、シンガポールでもやるのか」

「ええ、本命はシンガポールだそうです」

「わかった、時間が取れたら必ず遊びに行くから」

「あの〜、話は代わるんですが、飯田は元気でやってますか」

「ああ、お前の後任の取締役になってな、元気にやってるよ、お前に会いたがってたぞ、電話をしてやれよ、喜ぶぞ」

「わかりました。今社長に代わります」

「具体的な話なんですが、担当を飯田さんにお願いします。こちらからは高山さんを出します。計画は小川さんがやってるので、具体的な打ち合わせは小川さんの会社がいいと思います」

「小川かあ、懐かしいな。わかりました。飯田を責任者にします」

「よろしくお願いします」


「やっぱり本命はシンガポールだな。確か香港のことも言ってたな。面白くなってきたぞ。国内の開発案件は広尾ガーデンヒルズと大川端の開発が終わると小さいのばかりだからな」


「支社長、三友不動産の山根専務からお電話です」

「おお、山根、久しぶりだな」

「お前誘拐されて大変だったな、日本でも報道番組が連日放送されて、誘拐された時は本当に心配したぞ」

「ああ、フィリピンだからな色々あるさ、でもいい経験になったよ、織田さんに助けられたから感謝しきれないよ」

「さっき織田さんから電話をもらって、フィリピンの本社ビルを建ててくれって言われて、あとは小川と会社の高山と話を詰めて欲しいと言われたんだ。会社をいくつも作って凄いことになってるな」

「もう忙しくて死にそうだ。支社総出で取組んでいるよ」

「俺もフィリピンに一度行こうかな」

「おお、来てくれ、話したい事もあるから」

「ああ、わかった」


 三友物産フィリピン支社の会議室で小川支社長とリリー、ナンシー、開発担当者が会議をしていた。マーケティングの担当者から計画を説明していた。農村部にある2500の小学校の位置が示された地図、それを取り巻く人口分布を地区ごとに濃い色が人口密度が多く、薄い色は人口が少なかった。スーパーは小学校近くに新たに建設される宗教施設に隣接する形で造られる。農村部だから都市部と違って人口密度も高くない。日本にあるスーパーの規模では経営を維持できないので、日本のスーパーとコンビニの中間の規模の店舗(日本のまいばすけっとの規模)

を中核店と位置付けて物流拠点も設置される場所に青のピンが立てられた。次にその隙間に位置する小学校に黄色のピンが立てられた。人口密度が低い地域の小学校には2〜3校の中心地点のコンビニを設置する赤のピンが立てられた。フィリピンの人口密度と道路状況から導き出された最適な店舗計画が示された。店舗の規模によって規格化された完成予想図が示されていた。3種類の規模別の店舗の設計だった。その内3店舗はやや大きかった。

「リリー奥様いかがでしょうか?」

 小川が聞いた。

「これはスーパーの経営を優先させた計画ですよね」

「はい、その通りです」

「初めにお話ししておきます。この計画の優先順位は、夫の織田がいかに効率的に短期間に農村部にある小学校を訪問するための事業ですよ。移動にはヘリコプターと自動車を使用します。1日に2〜3校の小学校を訪問するために宿泊施設が必要になるし、宿泊施設にはシュフやメイドも必要です。そのための食材も必要でする。1日に2〜3校、滞在期間1週間、年間では20週のフィリピン訪問を予定しています。どれだけ効率的に小学校を訪問できるか、会長の訪問計画を立てて、そのサポートをするための計画にして頂かないといけませんね」

「中継地点が決まればODAの関連企業を誘致して、新しく町や村を作る、道路がなければ道路を敷設する。中継地点と道路の周辺の土地を将来を見据えて買い占める。マニラとODA学園を結ぶ幹線道路周辺の土地の取得、鉄道の開通を見据えて駅、車庫の用地も予め取得する。ODAがフィリピンを再生させる気概を持って仕事に取り組んで下さい。どうせ土地はタダ同然です。買い占めて下さい」

「申し訳ありませんでした。織田会長の訪問計画を優先して、ヘリコプターの発着場所の拠点を決めてから、そこから計画を作り変えます。もう少しお時間を頂きます」

(フィリピンのリリーの会社では、織田雄治が会長ということになっている)


 小川とリリーが支社長室で話していた。

「すみませんでした。考えが至りませんでした」

「しょうがないですよ、小川さんは商売人ですから」

「ユージはフィリピンで天才の子供達を発掘して埋もれたまま放置された者に光を当てようとしています」

「やってみないとわからないと言っていますが、その先のことも話してくれます。毎年1000人の天才、10年で1万人の高度に教育された天才を世界中に派遣して、その国の政治経済の要人にするのが夢だそうです。彼らは小さい時からユージの作った宗教法人の信者で、寝食を共にした仲間意識が強い者達になるでしょう。ユージを崇拝する者達が世界中の政治、経済の要人になったら、どうなるんでしょう。壮大な計画だと思いませんか?その夢の実現に小川さんのお力を貸して下さい」

「私は織田さんに命を助けられました。この御恩に報いるため尽力します」

「そう言って頂けると、実は思っていました。まだ会ってもいないのに、小川さんの話を電話でした時、小川さんのことを大事にしろよ、て厳命されていました」

 リリーが水晶のブレスレットを見せた。

「ユージの念が込められています。身内以外でこれと同じ水晶球を持っているのは小川さんだけです」

「失礼ですが、小川さんは定年はいくつですか?」

「60歳で、2年先に定年になります」

「定年後も今の事業に携わって頂けませんか。私の会社に移って下さい。副社長のポストを用意します。社長は法律でフィリピン人と決められているので私が社長です。これからできる企業グループの実質的な経営をお任せします」

「わかりました」

 小川はビジネスマンだ。会社を創立して発展させる、その行程を思うと青年の時のようにワクワクしてきた。

「奥様、私も織田さんの夢のお手伝いをさせて頂きます」

「ウフフ、まあ小川さん、お口がお上手ですね、さすが一流の商売人です」

「いえ、本心です」

「私からお願いがあります。スーパーとコンビニを都市部にも造らせて下さい。経営の観点から都市部での展開が必要です。輸入品も必要になるので港に倉庫も必要になります」

「わかりました。計画ができたら、また話し合いましょう」

「よろしくお願いします」


 小川の意識が変わった。三友物産フィリピン支社を、フィリピンのODAグループの本社経営企画部として考えるようになった。三友物産の持つ総合力を利用することにした。リリーの会社は政府に強いパイプを持っている。政府が発電所の開発計画は地元企業を優先していたが、そのフォローを小川のフィリピン支社に任された。ODAグループの仕事もあって、営業成績が急上昇しているので本社も支援した。フィリピン支社の人員が増強された。小川はトップの営業成績で毎月の経営会議で発表するようになった。

 小川が社長室に呼ばれた。

「小川君、君は優秀だ。汚職で腐敗しているフィリピン支社をよく立て直した。見直したよ。来年の人事異動で本社に戻ってきてくれ。東アジア地区担当の取締役のポストを用意するよ」

 出世を諦めていた小川だった。以前の小川ならば喜んで飛びついていただろう。

「今、開発計画に着手したばかりなんです。最後までやらせて下さい。こういう仕事がしたかったんです」

「君、そんなこと言ってたら定年になってしまうぞ」

「2年間やる。それまでに形にして本社に戻ってこい」

「わかりました」

 小川に戻るつもりはなかった。フィリピンに留まり、三友物産の総合力を利用してリリーの会社の企業グループを完成させる固い決心をしていた。


 三友不動産の山根専務の指示で飯田取締役がフィリピンを訪問した。三友物産フィリピン支社で小川支社長と高山さんも一緒だった。このメンバーは全員織田雄治に恩義がある者達だった。

「初めまして、飯田と申します。上司の山根から、小川さんに従ってフィリピンで1番のビルを建設しろと仰せつかって参りました」

「織田さんからは350mの高層ビルを建てるように言われています」

 小川が言った。

「日本では鹿島建設さんが最も技術的に優れています。1973年に着工したサンシャイン60が高さ239mで現在東洋一です」

「現在世界ではシカゴのウィリス・タワーが527mで世界一になっています。アジアではマレーシアのクアラルンプールにペトロナスツインタワー(2棟)452mが1998年完成予定で計画されています。このツインタワーの1つは日本のハザマ建設が施工する予定です」

 飯田が世界の高層ビルの建築状況を説明した。

「350mでビビっていられないぞ。計画はリリー奥様に説明してからにしよう。奥様からの要望はビルの屋上にヘリコプターの発着場、プール付きのペントハウスの希望が出ている。だからビルは連結した3棟が望ましい。高さを競う高層棟、ペントハウスの棟、ヘリコプターの発着場の棟、になる。敷地面積は10万m2を考えています」

「建てるのはいいが、賃貸で埋めるのが大変です。ビジネスオフィス、ホテル、ショッピング街、レストラン街になる予定ですが、オフィスには政府機関も入らないと空室が発生すると予想されます」

 小川がリリー奥様の要望の概略を説明した。

「私の想像ですが、ビルの高さは350mで決定だと思います。フィリピンで1番ならばそれでいいと社長は考えていると思います」

 高山が説明した。

「土地の取得は古いビルや商店街の土地を買収する予定です。難航するならば、政府に土地の払い下げをお願いします。新しいビルに有利に入って頂く事を条件にするつもりです」

 小川がフィリピン全土の地図を拡げた。色分けして、拠点の印が幾つも示されていた。

「問題は農村部の小学校に隣接した宗教施設とスーパーの建設予定地の確保です。ヘリコプターの発着場も必要です。ヘリコプターのある中型拠点施設は、小学校の分布と照合して100km間隔(1万m2に1つの中型拠点)で用地取得を進めています。フィリピンの土地面積は30万m2ですからおよそ30拠点を考えています。中型施設間に3つの小型施設を建設するので小型施設は90になります。施設間の距離はおよそ50kmですから自動車での移動時間は80分と考えています。当初小学校の数だけと言われましたが、現実的ではありません。リリー奥様から年間20週の訪問予定だと言われているので、ヘリコプターと自動車で1日3校の小学校の訪問スケジュールは、年間では、1日3校✖️5日✖️20週=300校 にまります。6年間で1800校になります。1つの小学校に6年に一度訪問することになります。まず1年間に訪問する300校を特定してヘリコプターの発着場のある宗教施設、宿泊施設、スーパー、空手道場を優先して建設します。拠点は1年間で20〜25ヵ所の建設を計画しています。織田さんの訪問スケジュールの影響がないように先回りして建設しなければなりません」

 小川が説明した。

「計画の完成はどのくらいかかりそうですか?」

 高山が質問した。

「全ての農村部の拠点の完成が3〜5年、都市部にもスーパーとコンビニを開設する予定ですので、形になるには7〜10年かかると思います」

「小川さんは山根専務と大学の同期ですよね。あと2〜3で定年を迎えられると思いますが、どうされるんですか?」

 高山が聞いた。

「会社を設立させて、企業グループを造り上げる仕事は、若い頃からの私の夢でした。必ず完成させます。本社に戻るつもりはありません。リリー奥様の会社に拾って頂くつもりです」

「織田社長は小川さんの事を高く評価されています。今シンガポールで不動産の開発を計画しています。僭越ながら私の想像ですが、おそらくその先はシンガポールに企業グループを造り上げる事を織田社長はお考えだと思います。フィリピンの次はシンガポール、香港になると思います。企業グループを造り上げるのは小川さんの仕事になると私は思います」

 高山が言った。

「私は、今でも死ぬほど忙しいのですが、まだその先もありそうですね」

「私の知らないことばかりなので、高山さん、後で教えて下さい」

 飯田が言った。

「もちろんだ、飯田」

 高山が言った。


「ロジャー、あなた何やってるのよ、農村部の用地の取得が全然進んでないじゃない!」

「小川さんの会社のデスクを借りてあげるから、そこで仕事をしなさい。計画のスケジュール管理をしているから、その計画に沿って仕事をするの、用地確保のスタッフがいるから一緒に仕事をするのよ、用地の所有権は私の会社だから、契約と登記は弁護士が必要だから段取りをちゃんとしてね」

「はい、奥様」

「人手が足りないのなら、雇いなさい、そうね不動産管理会社も必要ね、ロジャー、弁護士に言って不動産管理会社を設立させなさい」

「わかりました」

(仕事が忙しすぎる、もう無理かもしれない。とにかく弁護士に言って会社を設立させて、小川さんのところに行こう。CMで応募してきた者を20名を新しく作る管理会社の社員に採用するぞ)



  高山は宿泊しているホテルのバーで飯田と待ち合わせをしていた。一緒にフィリピンに来ているマリーは、娘のリリーとナンシーと同じバーの別の席で飲んでいた。マリーが楽しそうにしているので、高山も心が和んだ。

「お待たせしました。遅れてしまって申し訳ありません」

 飯田がやってきた。

「いや、まだ約束の時間の前だから大丈夫だよ」

「今日のお話しなんですが、織田様はなんで小学校を訪問しているんですか?」

「フィリピンは貧富の格差が激しくて、貧しい家に生まれた人間は一生貧しいままの人達がほとんどだそうだ。社長のお話しでは人口の0.4%がギフテッドと言って知能指数140以上の天才だ。フィリピンでは毎年7200人のギフテッドが出生するが、そのほとんどが陽の目を見ずに一生が終わる。社長はギフテッドを見ればわかる。農村部の小学校、寄宿舎、宗教施設の建設は完了したので、今は前期中学校、後期中学校の建設をしている。1学年1000人の定員で貧しい農村部で集めたギフテッドを小学校から高度な教育を無償でするそうだ。毎年1000人の天才、10年で1万人の高度に教育された天才を世界中に派遣して、その国の政治経済の要人にする。彼らは小さい時から織田様の作った宗教法人の信者で、寝食を共にした仲間意識が強い者達だ。織田様を崇拝する者達が世界中の政治、経済の要人になったら、ODA.HDグループはどうなっている。壮大な計画だ」

「飯田が言ってただろ。織田様は宇宙人だって、俺もそう思う。小川さんの救出ドキュメントで腹を撃たれた弟子を治癒している映像は本当だ。社長は訪問する小学校でケガや病気の治癒も行っているから大変な人気で、聖者様と呼ばれているんだ」

「利益を度外視してもやるんですね」

「その通りだ」

「世界中の金持ちが、途方もない広さの自宅や城、クルーザー、プライベートジェット、豪華なパーティ開催と言った自分の欲望と見栄のために金を使っている。一方社長のように人類のためのお金の使い方も夢があっていいと思わないか?」

・・・・・・

「東京の不動産の状況はどうだ」

「80年代初頭と比較して城東、城南地区の土地が住宅地で5〜8倍、商業地区でおよそ10〜15倍になっています。例えば1坪100万円の30坪で3000万円の土地が2億4000万円に値上がりしています。普通のサラリーマンでは一生一戸建ては持てません」

「土地の値上がりが郊外にも波及しています。地方都市の大阪、名古屋、福岡、仙台、札幌が値上がりしています」

「覚えているか、まだ25歳の織田社長が82年の11月に120棟のビルを買った時の事を、あの時に89〜90年に不動産は全て売却すると言っていたのを、その時がピークじゃないのかって、俺は信じている」

「まだあるぞ、任天堂の大株主だったろう。花札とトランプの会社がファミコンを作ったんだ。株価は100倍くらいになってるんじゃないか?」

「社長は投資の天才だ。どこまで行くのか間近で見てみないか?」

「私も見てみたいです。でも軽井沢の開発を任されているんです」

「お前がこちらの会社に来て担当すればいいだろう。施主の立場で指示すればいいんだ。完成は97年以降にしてくれ」

「そんな先なんですか?」

「新幹線と高速道路の開通、ロイヤルグループのショッピングセンターの開業、この3つが揃うのが95年だ。総合リゾート施設の開業は97年以降にしてくれ」

「わかりました」

「山根専務の方はどうするんですか?。お世話になってますよ。辞められませんよ」

「シンガポールの開発の仕事を回せばいいじゃないか。フィリピンだって600〜800億円の案件だぞ。日本国内とは規模が違うよ。それに山根専務が織田社長に恩を売りたいと思っているだろうし、自分の部下だった者がいる会社と取引をするんだ、都合がいいに決まってる。文句は言わないと思うぞ」

「あの〜、給料はどのくらいもらえるんでしょうか?」

「どれくらい欲しいんだ」

「三友不動産の社長くらいの年収です。5000万円です」

 思い切って飯田は言った。

「わかった。1億円にして下さいと俺の方から社長に進言しとくよ」

「もらえますか?取締役までなった会社を辞めるんですよ。大丈夫ですか」

「社長はその辺アバウトだ。ただ周りとのバランスをお考えになってるだけだから大丈夫だ」

「年収は3倍、でも仕事は10倍になるから覚悟しとけよ」

「高山さんはいくらもらってるんですか」

「俺は1億円だ。お前と一緒じゃ嫌だから2億円にしてもらうよ」

「そんなに簡単に上がるんですね」

「社長から、自由にやっていいと言われている。ただし毎月レポートで報告をしている」

「では、フィリピンの本社ビルの完成の目処が立ったら三友不動産を辞めます」

「頼むぞ」

「はい」

「あそこの席に、リリー奥様がいらっしゃるから、挨拶に行こう」

「リリー奥様には絶対服従しろよ、社長より怖いから、死ぬ気で仕事をするつもりでいろよ」


「リリー奥様、商談が終わりました。フィリピンの本社ビルの建設の目処が立てば、うちの会社に移るそうです」

「リリー奥様、お久しぶりです。今後ともよろしくお願いします」

「よかったわ、高山さんに続いて飯田さんまで不動産のプロが揃うのね。ユージが香港を飯田さんに不動産開発を任せたいって常々いっているわ。そのためにはフィリピンの本社ビルの建設をしっかり頼みましたよ」

「承知致しました。奥様」

「この人が俺の妻のマリーだ。リリー奥様の母親でもある」

「えええ〜、リリー奥様のお母様?お姉様の間違いですよね」

「飯田さん、よろしくね、リリーの姉のマリーです」

「姉妹ともよく似ていらっしゃいますね」

 飯田が納得していた。

「やめてよ、ママ」

「私の隣が妹のナンシーです」

 リリーが紹介した。

「飯田と申します。どうぞよろしくお願いします」

 ナンシーさんも一流雑誌の表紙を飾るモデルのように美しい、と飯田は思った。

「ナンシーです、よろしくね、飯田さん」

「ナンシーは私の右腕です。いずれフィリピンの会社はナンシーに任せます」

 リリーが言った。



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