小川(三友物産支社長)救出、八島流空手の凱旋
1986年11月15日15時頃、三友物産フィリピン支社長の小川が、マニラ首都圏郊外のゴルフ場からの帰りに、フィリピン共産党の軍事組織、新人民軍(NPA)のメンバー5人に誘拐された。その後の1987年1月16日に、三友物産本社や通信社各社に脅迫状や写真、テープが届いた。写真は、誘拐された支店長が虐待を受けているように見え、テープには弱々しい声が吹き込まれていた。この写真はその後すぐにマスメディアによって報道され、小川の解放を求める世論が沸騰することになった。
三友井物産の小川支社長が誘拐されたことが、フィリピンと日本で大きく報道された。俺は未来の知識でこれが起きることを事前に知っていたので、小川さんに挨拶に行った時に伊勢神宮の御守りの中に俺の念が入った水晶を入れておいたのだ。
誘拐犯を討伐するためにマニラを出発した。俺、TV局、八島と弟子3人、護送用のトラックの4台で出発した。
フィリピンでは民間の銃の所持が認められている。しかし八島達のような外国人に銃の所持は認められていない。八島の道場は歓楽街のマカティの近くにある。街にはギャング達もいた。銃を持つギャングに対抗するために、八島達は殺人拳を研究し練習をしてきた。相手を一撃で戦闘不能にする技術、複数を相手にするためのこちらのフォーメーションと攻撃の練習をしてきた。日本のフルコンタクト空手では、顔面と急所への攻撃ができなかった。殺人拳では相手の眼の中への突き、首への抜き手、手刀、脇腹への抜き手と肋骨を折る、急所への蹴り、頭部・顔面への蹴り(試合のように途中で止めずに蹴り抜く)で脳挫傷と首を折る。レスリングや総合格闘家によるタックルへの対策として、膝蹴り、前蹴り、1発決まれば戦闘不能になる。タックルされれば脳天への肘打ちで、頭骸骨陥没、眼の中、耳の中への抜き指、全て相手を破壊して生き残っても障害者になる重症だ。研究した結果をフィリピンではいくらでもいるギャングの討伐で経験を重ねていった。八島と弟子3人は殺人拳に磨きをかけていった。武道を嗜む者が八島の前に立てばわかった。武道というルールで守られたスポーツではなく、相手を壊して殺す黒い岩のような殺意に怖気付いてしまうだろう。
八島の道場のあるビルに車が到着した。八島と弟子3人が待っていた。八島達はギャングを襲撃する時に着用する米軍払い下げの迷彩服を来ていた。
TVの録画が始まった。
「八島、道着に着替えてこい」
「押忍、申し訳ありませんでした」
4人が八島流とOD.HDが印刷してある道着を着てきた。
「三友物産の小川さんを拉致した武装集団を八島流空手で壊滅して小川さんを救出する」
「いいか!八島流空手を世界に知らしめるのだ」
「押忍!」
・・・・
俺はフィリピンの地図を見ながら瞑想していた。自分の念が込められた水晶を探すのだ。方角と大体の距離がわかるので地図から場所を特定していく。俺の隣のシートでTV局のカメラマンがその様子を録画していた。
この国道を北にまっすぐ行こう。日本のように高速道路があるわけではない。舗装されていない道を時速10km〜30kmで進むのだ。一日中走って野宿をした。アジトは山中にある。3日目に俺の案内でアジトの近くに到着した。アジトには徒歩で向かった。
昼飯の時間に犯人達を襲撃することにした。
俺は意識をアジトに飛ばした。ただの誘拐犯ではなかった。共産ゲリラのアジトの一つだった。建物が3戸あった。誘拐犯5人の家、ゲリラ5人の家、幹部2人と小川さんがいる家の3戸が建っていた。
「八島、お前に任せる」
「押忍、俺と木村がゲリラの家、近藤と萩原が誘拐犯だ、時刻を合わせる(全員がGショックの時計だ)、タイマーをセットする。アラーム音、バイブ機能を消しておけ、5、4、3、2、1、0、2分後に突入する。相手に発砲させるな、よし行け」
一斉に突入した、と言っても音を出さずに隠密に奇襲して行った。
・・・・・・・
・・・・・・・
「ドドゥー」
ライフル銃の音が1発した。
4人が戻って来た。
「すみません、撃たせてしまいました」
「修行が足りんぞ、萩原!」
八島が言った。
「押忍、申し訳ありません」
「萩原、道着を脱げ、見せてみろ」
俺が萩原を呼んだ。
「八島、萩原を後ろから押さえておけ」
八島が萩原を羽交締めにした。
「腹をやられたか、腸もやられているじゃないか、このまま放置すると死ぬな」
俺は萩原の銃弾で開いた穴に指を突っ込んだ。
「ウググッ」
歯を食いしばった萩原が呻いた。
・・・・・
「ほらよ、取れた」
「ポロッ」
腹から銃弾を抉り出した。血が吹き出している穴に再度、指を突っ込んだ、傷ついた細胞、千切れた小腸を修復して傷を修復治癒をした。
「ウウウッ」
萩原がまた呻いた。
・・・・
「フー、これでいいだろう」
俺は額の汗を腕で拭った。腹の表面についた血を萩原の道着で拭いて綺麗にした。傷のない綺麗な腹に戻っていた。
「奇跡だ!」
弟子の3人とTVのカメラマンが口々に言った。
残った最後の小川さんが捕えられているバンガローに入った。俺は捕えられている部屋の前に立った。
「八島、幹部を生きたまま捕えるから、ここは俺にまかせろ」
「押忍ッ」
俺は部屋の扉のハンドルをゆっくり回した。
「バン、バン、バン、バン」
扉越しに銃弾が撃ち込まれた。ゆっくりと扉が開いた。俺の姿が消えた。
部屋の中に両手を挙げた俺が突然現れた。
幹部の男が2人いて、1人が俺に銃を向け、もう1人が小川さんに銃を向けていた。
「こんにちは、いきなり撃つなんて酷いですね」
「お前は誰だ?」
「小川さんの友人で、小川さんを助けにきたに決まってるでしょう」
一瞬の内にゲリラ幹部が持つ拳銃が俺の両手に移っていた。
「偶発して怪我でもしたら大変だからね」
「ババンーン」
幹部の2人が突然床に倒れた。
「みんな、入ってきていいぞ」
「ボス、どうやったんですか?」
「内緒だ」
「八島、縛って拘束しろ」
TVカメラマンが、八島と弟子が征圧したゲリラと誘拐犯の小屋に入って録画をしていた。全員が殴り殺されていた。武装集団が銃を持たない空手家の4人に一方的に殺されていたのだ。惨たらしく殺された死体が録画された。
「ボス、俺の修行の成果を見て下さい」
道端に捨てられたビールの缶を指差した。
「カアー、ハッツ」
八島が正拳突きで10m先の缶を吹き飛ばした。
「八島、凄いじゃないか、よく頑張ったな」
何年空手をやっても出来ることではない。俺が気功を教えたとはいえ、大したものだ。俺は本当に嬉しかった。
「ボス、よろしかったら見せて頂けますか?」
「まあ、いいだろう」
ちょうどゲリラのトラックが置いてあった。俺はトラックの前に立った。八島達の4人とカメラマンが見ていた。俺はトラックに正拳突きを放った。
「ドッガーン、バギィ、ダン」
トラックが破壊されて30mくらい吹っ飛んで、転がった。
「ボス、あの大木もお願いします」
「おお、あれか」
俺は手刀の形を作って右手を振った。
「ギギギイーーー、ズダダーン」
指差した大木の後ろや左右の大木まで20本の大木が切断されて、大きな音を立てて倒れた。
「ボス〜〜、凄いです」
八島が感動して叫んでいた。
他のみんなは口を開けて放心していた。
「録画したけど、信じてもらえないよな、映画の合成だと思われるな」
カメラマンが言った。
帰路の1日目
トラックの荷台に幹部の2人が縛られて転がされていた。俺は荷台の運転席の後ろで寄りかかっていた。
「テメー、タダじゃあ済まさねーぞ、俺らのバックには中国共産党やソビエト連邦もついているんだぞ。お前の家族もみんな拷問して殺してやる」
「ふーん、元気がいいな、拷問が好きなのか?」
俺は拘束している2人の意識と感覚を操作した。
(たっぷり味わせてやる)
・・・・・
「ウギャーーー、ババババーーー、ガガガガガガーー、イイイいいいいー」
・・・・・
「八島さん、あいつらなんで悲鳴を上げているんすかね〜、ボスは本を読んでるだけだし」
「さあな、ボスとあの叫んでる奴らしかわからんよ」
幹部の2人は、今アフリカの草原で数十頭のライオンの群に生きたまま食い殺されている最中だ。
・・・・・
「ウギャーーー、ババババーーー、ガガガガガガーー、イイイいいいいー」
・・・・・
次は生きたままハイエナに骨まで砕かれて、食べられていた。
・・・・・
「ウギャーーー、ババババーーー、ガガガガガガーー、イイイいいいいー」
・・・・・
数十万の蟻の大群に皮膚を喰い破かれてジワリジワリと食い殺されていた。
・・・・・
「ウギャーーー、ババババーーー、ガガガガガガーー、イイイいいいいー」
・・・・・
大蛇に生きたまま飲みこまれて、ドロドロに溶かされていった。
帰路の2日目
「助けてくれ、なんでもする」
「助けて、く、だ、さ、い、 だろう? 言葉使いもできないのか」
「お前ら態度がでかいんだよ、お仕置きが必要だ」
「申し訳ありませんでした、どうかお許し下さい」
「俺の家族が何だって?、ふざけたこと言いやがって」
「許さない」
「ええええー、そんな〜〜〜」
・・・・・
「ウギャーーー、ババババーーー、ガガガガガガーー、イイイいいいいー」
・・・・・
何十万羽のカラスの大群に襲われて、目をくり抜かれて突かれて殺されていた。
・・・・・
「ウギャーーー、ババババーーー、ガガガガガガーー、イイイいいいいー」
・・・・・
3日目
「八島、2人の縄を解いて地べたに座らせろ」
・・・・・・
「お許し下さい。何でもします。何でも話します。どうかご慈悲を」
2人が俺に土下座をしていた。
「ふーん、どうしようかな、とりあえず知っている事を全部話してもらおう」
「私は面倒なので、カメラマンの方と八島の方で尋問しておいてくれ」
(録画されているので「俺」ではなく「私」と言っている)
「お任せ下さい、ボス」
八島が言った。
「八島、ボスって言うのは止めにしようか」
「何とお呼びすればいいでしょうか」
「総帥、ではいかがですか」
「何だか偉そうで嫌だな、師匠でいいぞ、実際のお前の師匠だしな」
「はい、師匠!」八島は嬉しそうだった。
俺達の車がマニラ郊外に入った。俺は車を停車させた。ここから先には俺は一緒に行かない。英雄の八島流空手の凱旋には同行しない。停車した俺の車には小川さんと運転手が同乗していた。
「織田さん、本当に有難うございました。身代金が支払われた後、自分の命は無いものと思っていました」
犯人一味は身代金を日本円で30億円を要求していた。
「不思議なのは、どうして私が捕えられている場所がわかったんですか?」
「伊勢神宮の御守りをお持ちですよね」
「はい、今も大事に持っています」
「ちょっと貸してもらえますか?」
俺は御守りの中から俺の念を込めた水晶玉を取り出した。
「これには私の念を込めています。フィリピンは危険な国ですから、友人の小川さんに何かあったらいけないと思い、この水晶玉を入れました。私はこの水晶の存在をどこにいても認識できます」
雄治の手の平の上で水晶玉が光っていた。
「そんな不思議なことがあるんですね。織田さんは今では“聖者”と呼ばれていたんでした。これからは織田様とお呼びしなければいけませんね」
「その呼び方では、“友人”ではなくなってしまいますから、今まで通りでお願いします」
「私は報道の前には出ませんので、ここで別れてホテルに戻ります」
「いいんですか、聖者様の評判がまた上げりますよ」
「止めて下さい。それこそ未熟な自分のボロが出てしまいます」
マニラ市内に入ると、フィリピンのTV局と日本のTV局のヘリコプターが上空を飛んで実況放送をしていた。三友物産フィリピン支社までの道路脇には警察官がズラリと並び、所々に軍の兵士がゲリラの報復に備えて待機していた。
「今、小川支社長を乗せたと思われる車が現れました。車は4台ではなく3台です」
日本のTV局とフィリピンのTV局の報道が全世界に放映されていった。
フィリピン三友物産支社の前に誘拐された小川支社長と八島達が到着した。救出に同行していたTV局のカメラマンが事前に到着する事を連絡していて、支社のビルの前にはフィリピンと日本を含めた多くの報道陣が詰めかけていた。
「今、誘拐された三友物産フィリピン支社長の小川さんと、救出に成功した日本の空手家の八島さん一行が車から出てきました」
「小川さんの足取りはしっかりとしているようです」
多くのカメラのフラッシュが発光していた。
ロックウェル地区にある大学の講堂で記者会見が行われた。リリーが取引のある大学に掛け合って記者会見の会場を確保していた。
講堂の演壇には、小川さん、カメラマン、空手の道着を着た八島とその弟子達、八島の通訳とし派手なルルが八島の隣に座っていた。八島は緊張していたが、ルルの前でみっともない真似はできないと気合いを入れていた。
救出された小川が報道陣の質問に答えていた。
「ゴルフの後に誘拐犯5人に拉致された後の様子をお話しして頂けますか?」
「バンタイプの車に乗せられてすぐに目隠しをされました。途中ガソリンの補給のために停車していましたが、夜通し一日中走っていました。2日ほどしてアジトに到着しました。フィリピンの日本商工会議所会頭の私を誘拐して身代金を会社に請求するのが目的でした」
「捕えられている時に危害を加えられましたか。どのような扱われていましたか?」
「危害を加えることはありませんでした。彼らはフィリピンにある共産党の軍事組織である人民軍の兵士達でした。誘拐犯を含むゲリラ組織ではありません。服装は一般人と同じでしたが、上官に対しては階級名で呼び敬礼もしていました。日中は幹部2人が作戦と情報収集をして、時折呼ばれて詰問されました。昼間は幹部のいる建物にいて、夕方以降は兵士のいる建物に移されました。手錠と足に鎖をつけられました」
「その人民軍のことで何かわかったことはありますか?」
「フィリピン内にアジトがいくつもあり、一般人を装ってマニラをだけでなく他の都市にも拠点を持っているようでした。彼らの目的は武力による革命です」
※米ソの冷戦が続いており、発展途上国では共産主義、社会主義国家からの軍事支援を得て、民主主義の政府転覆を狙った軍事行動が続いていた。
「八島さんにお聞きします。どうして小川さんの居場所がわかったんですか?」
八島達は八島流空手の道着を着て会見会場に来ていた。
「それは私からご説明します」小川が話をさえぎった。
小川がポケットから御守りを出した。
「発信機ですか?」
「いいえ、安全祈願にと私の友人の織田雄治さんから頂いた御守りです」
小川が御守りの中から小さい水晶玉を出した。
報道陣の幾つものカメラが望遠でズームになって水晶玉を写した。
「織田さんが念を込めた水晶玉だそうです。織田さんは、どこにいても、この水晶玉を認知することができるそうです」
「私が誘拐された事を知って、自分の弟子達を連れて私を助けにきて下さいました」
会場の照明が消えた。リリーの演出だ。ズームにしたカメラレンズがほのかに光る水晶玉を映していた。
照明の電気がついた。
「今日は織田さんは、お見えにならないのですか?」
「こういう会見が苦手だとおっしゃられて、逃げられてしまいました」
「八島さんにお聞きします。人民軍の武装組織にたった4人で武器も持たずによく立ち向かいましたね。アジトの兵士達をどうやって征圧したのですか?」
「言葉では説明できません」
ルルが八島に耳打ちした。
「あそこのデカい机をぶっ壊して」
教壇の頑丈な机が会見のために隅に移されていた。
「怒られますよ」
「大丈夫よ、リリー姐様がなんとかしてくれるわよ」
「よし、お前達、教壇を前に運べ!」
「押忍っ」
弟子達が頑丈そうでデカい教壇の机を会見のデスクの前に持ってきた。
「これから八島流空手をお見せします。これが武装組織を征圧した力です。危ないので報道陣の方は下がって下さい」
「カアーーーッツ、ハッツ、カアアーーッツ」
八島が鬼の形相で空手の息吹を行っている。八島の身体の周囲から殺意の圧力が放射されていた。初めて見る息吹に集まった報道陣はたじろいた、こんな奴に殴られたら死んでしまうと思った。
「セイヤーッツ」
「バギィ、バゴーン」
デカくて硬い机がメチャクチャに破壊されてしまった。破片が飛び散って報道陣まで届いてしまった。会場にいる報道陣は圧倒されてしまった。あの破壊力で打ちのめされれば、生きている者はいない。
「よおーっく、わかりました。武装組織が八島さん達に壊滅されたんですね」
弟子達が破壊された机を片付けていた。
「お怪我はされなかったのですか?」
「いえ、弟子の1人が銃に撃たれました」
萩原が席を立った。道着の前に銃弾が開けた穴と出血した血の跡が残っていた。
「傷の具合はいかがですか?」
「織田先生がその場で直して下さいましたから、今はなんともないです」
萩原が道着の前を開けて、割れた腹筋を見せた」
「なんだか、信用できませんね」
他の報道レポーターが批判した。
「後ほどTV局で報道特集を組む予定ですので、その時にご覧下さい」
救出に同行したカメラマンが、自分がキャスターをする報道番組の宣伝をし始めた。色々な質問が出たが、カメラマンが質問に答えて、番組で詳細に説明すると言っていた。
フィリピン三友物産の小川支社長救出のニュースが連日報道された。
TV局で録画の編集を行っていた。
「これが、織田様から放映するなと厳命された映像です」
八島が自分のビールの缶を離れたところから正拳で飛ばした、その後からの映像だ。
織田雄治が正拳突きでトラックを破壊して吹き飛ばし、手刀で森の大木を何十本も切断している映像だった。
「放映しても誰も信じないぞ。言われた通りにしよう」
「傷を治療するところはいいんだな」
「はい、普段から小学校を訪問した時に怪我人を直しているから、自由に放送していいそうです」
報道ドキュメンタリー番組はフィリピンと日本で放映されて、特にフィリピンで大反響だった。
八島流空手の道場には入門者が殺到した。名声を得た八島流空手に挑むギャングが現れてくるかもしれないと俺は思った。八島達は銃を所持していない。銃を持つギャングに突然襲いかかられれば、八島でも死んでしまう。俺は八島達に気功を伝授して能力を底上げしたかった。
「八島、正拳突きで腕を前に出せ、気を右手拳に集めろ」
「押忍」
俺は八島の右手首を握った。八島の気功はまだ気体の塊の状態だ。離れたビール缶を飛ばしたり、目潰しはできるが、その上がある事を教える。
八島の気功を俺が操作してダイヤモンドのように硬く変質させた。道場に練習用に用意したコンクリートの柱がいくつもあった。
「その状態で撃て!」
「バシッツ」
コンクリートの表面が削れた。
「もう一度やる、今度はゆっくり硬質化するから感覚を掴むんだ」
「押忍」
何回もやって八島が気功を集められなくなって終わった。3人の弟子達には気功を体内に循環させる訓練だ。仙術で言う、練った気功をチャクラに回す小周天、手の先や足の先まで身体中に回す大周天を、彼らの気に俺の気を混ぜて小周天を行った。修業は気功の感覚を掴むところからだ。
近くでゴメス参謀長が見学していた。フィリピンの陸海空軍、警察に八島流空手を導入するために訪問していた。
「織田先生、先生から何か見せて頂けないでしょうか?」
「では、少しだけですよ」
「師匠、やめて下さい。道場が壊れてしまいます」
八島が言った。
「大丈夫だ、手加減するから、おい、そこの練習用のコンクリートの柱をもってこい」
俺は人差し指を立てて、スッと振った。
「ズダーン」
コンクリートの柱が斜めに切断されて床に落ちた。
(これを人間にやったら、・・・・)
ゴメス参謀長が驚愕していた。
「ゴメス参謀長、銃をお持ちですか?」
「いえ、持っておりません」
護衛の将校が参謀長に拳銃を渡した。
「その銃で私を撃って下さい。全弾でも構いません」
「師匠、大丈夫なんですか?」
「いいから、見ていろ」
「バン、バン、バン、バン、バン、バン、」
腹、胸、心臓、顔、眉間、容赦なく必殺の銃弾が撃たれた。
俺は微動だにしていない。
「いかがですか?」
「まさか、空砲か?」
下を見ると銃弾が落ちていた。
・・・・・
「織田様、大変失礼致しました。どうかお許し下さい」
ゴメス参謀長が頭を下げて謝罪した。
「今日は特別です。撃たれるのは嫌いです。もうやりません」
「その代わり、八島のことをよろしくお願いします」
「かしこまりました」
八島がフィリピンの英雄になった。フィリピン国軍の兵士達が八島の弟子になったのだ。ルルの秘所に埋めた水晶球を除去した。ルルが八島を認めたのだ。不器用な八島の一途な思いが、ルルの心を撃ったのだ。その後、八島とルルが結婚した。