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いざ、フィリピン

 リリー、ナンシーとルーシーを日本に呼べないか?」

「電話がないから、直ぐには無理よ」

「とりあえず手紙を書いておくから、でも今年中に着くかどうかわからないわよ?」

「そんなにかかるのか?」

 

「実は赤坂にアイリッシュバーの店を出すことを、三友不動産の飯田部長と飛鳥の支店長に話したら、支店を上げて応援しますって」

「社員を毎日行かせますので、お任せ下さいって言ってくれてな、エマを入れても3人だろ?」

「女の子が足りないんだよ」

・・・・

「あたしが呼んで来てあげようか?」

「マニラまで5時間くらいだし、ファーストクラスなら席が取れると思うわよ」

「そうか?、リリーのご両親にも挨拶したいから、俺も一緒に行くよ」

「マニラのリゾートホテルのスィート2部屋、ハイヤーも2台チャーターしてくれ」

「大事なこと忘れてた。突然行って連れて来れるのか、ご両親の承諾も必要だろう?」

「大丈夫よ、2人とも来たがってたし、パパとママにはお小遣いをわたすから、大丈夫よ」

「そうか?、じゃあ頼むよ」

「2日後の羽田発の便をとったわ、ホテルもクリスマスイブ前だから空いてたわよ」

「よし、わかった、明日は朝から俺と一緒に行動してくれ、銀行に口座を作りに行く」

「もちろん、いいわよ」

 

 翌日朝、東京銀行渋谷支店に来ていた。俺と有限会社ユージとリリーの口座を作った。各口座に瑠美子と麗子の代理人選任届も提出した。直ぐに五芝銀行渋谷支店の有限会社ユージの口座から、リリーの口座に30億円、有限会社ユージの口座に20億円、俺の口座に10億円を振り込んだ。

 ランチをとった後、BOT(東京銀行)の渋谷支店にくると、五芝銀行からの入金処理が終わっていた。東京銀行で口座設定した3口座にある円資金をドルに替えた(ドル転)。

「初めてのお取引なので、TTS(中値TTMより1円高い)になりますが、よろしいでしょうか?」

「お願いします」

 その場でドル転された。リリーの口座だけでなく、俺と会社の円預金もドル転しておいた。東京銀行のリリー口座のドル資金を、全てフィリピンのBOD銀行のリリーの口座に送金した。これでBODのリリーの口座には約1200万ドル弱の資金がある事になる。BOD銀行にへの入金処理は3日〜1週間の予定だ。(海外の場合、入金処理に数日かかります。何日かかるかは曖昧です)俺個人の口座とリリーの口座への入金の経理処理は、有限会社ユージから貸付した形にした。

※東京銀行(現東京三菱銀行)当時為替関係者から東銀、BOT(ボット)と呼ばれていた。日本で唯一の為替専門の銀行、日本の金融機関が為替取引を行う際の指標(TTM、中値)は、午前10時過ぎに発表される東京銀行の指標を使用していた。日銀(日本銀行)が行うレートチェックや為替介入は東京銀行を通して行われた。為替関係者にはテレレート(全銀協の情報提供会社)でリアルタイムで発信される情報、例えばTTMを確認していた。

※ディーラーはQUICKの画面で為替レートとチャート、ロイターやブルームバーグの情報画面などを同時に数画面を見てディールをしていた。

注、1980年代当時、個人が外国への外貨送金する場合に利用する銀行を東京銀行と想定しました。誤りがある可能性が事をご承知おき下さい。


 翌々日の羽田空港、手持ちで2万ドルを持っていく事にした。100万円を超えたので税関に「支払手段等の携帯輸出・輸入申告書」を提出した。

 夕方にはフィリピンのマニラ空港に到着し、ホテルにチェックインをした。

 ホテルの副支配人を呼んで、外国人向けのコンドミニアムを扱う不動産屋と法律事務所を紹介してもらった。

「当ホテルを運営している会社の関連会社の不動産部門の会社です」

 ホテルのパンフレットの末尾のページに関連会社の一覧かあって、その一つだった。

「コンドミニアムを購入したいのですが、ご紹介願いますか?」

「いいですよ、日本人に何度か紹介してますから」

「今、電話しますね、少しお待ちください」

「こちらに担当者を寄こすそうですから、お部屋でお待ち下さい。来ましたらご連絡します」

「コンドミニアムを買うの?」

「ああ、フィリピンでは外国人の不動産の所有を認めていないんだ。例外があってコンドミニアム(日本のマンションのように区分所有)だけは購入できるんだよ」

「日本の商社なんかも購入しているはずだ」


 フィリピン到着2日目の午後、紹介された不動産屋の車でコンドミニアムに着いた。高い壁に囲まれた広大な敷地に銃を持った守衛のいるゲートを通らなければ中に入れない仕組みになっていた。南国の樹木や花々は咲いている敷地の中はゆったりとした高級リゾートホテルのようで、最も豪華な建物にはプール、レストラン、ラウンジもあり、その建物の中で最も高額なコンドミニアムを紹介してくれた。日本円で2000万円、8万ドルだった、ただ管理費が高いとのことだったが日本から比べれば激安だった。建物床面積600平方メートルでメイド室、運転手室、料理人室までついていた。織田雄治名義で購入する事にした。売主は紹介した不動産会社だった。不動産屋の事務所で手付金を支払い、東京からの入金が確認でき次第、正式な売買契約を行う事を約束した。

 家具と調度品の購入について不動産屋に相談すると、リゾートホテルの調度品を扱っている関係会社に話を通してくれるということだった。ホテルのスィートルームとラウンジのような仕様にして欲しいとお願いした。不動産屋は販売のために用意してある間取りと写真をもとに、内装のデザイン会社が作成したプランと見積もりを宿泊するホテルに届ける様、指示した。


 多感な思春期に女神の様に美しくSEXYなリリーを愛することは俺に至上な喜びだった。俺の魂に深く刻まれた。リリーの両親と家族に会いに行くのは当然のことだ。

 マニラから車で30分ほど走ると、道路が未舗装で砂埃が舞う道だった。トウモロコシやパイナップル、バナナの農園地帯になった。道にはバスが通っていて、リリーの実家の近くにもバス停があるそうだ。

 リリーの実家に着いた。思ったよりもちゃんとしていた。台風の季節は日本より風速が強いのでコンクリート住宅だった。

「ただいま〜、ママいる〜」

 奥からママのマリーが出てきた。ママのマリーとリリーが抱き合った。マリーは農村のおばさんの体型をしていたが、ウェストはちゃんとくびれていて、若い時は相当美人だったと思う。リリーに聞くとまだ44歳とのことだった。

「まだクリスマスまで日にちがあるのに早く帰って来たわね」

「隣の男の人はだあれ?」

「あたしの彼氏のユージだよ」

「初めまして、ユージ・オダと言います。よろしくお願いします」

「あっそう、あなたがユージなのね」

「日本人なのに大きいわね」

 俺は日本人としては身長が高くて185センチだ。

「今、何歳?」

「あの、リリーより少し年下です」

 言いにくかった。最近やっと正直な年齢をリリーに言ったばかりで、気まずかった。

「リリーのこと、どう思ってるの?」

 いきなりストレートの質問が来た。

「愛しています」

「結婚はするつもりかい?」

「今は誰とも結婚するつもりはありません」

「愛人かい?」

「恋人です」

「リリーのこと、捨てなきゃいいよ、大事にしておくれよ」

「はい」

 厳しい面接が終わった。

「ナンシーとルーシーは?」

 リリーが聞いた。

「多分明日の昼前に帰ってくるよ」

「ホテルで仕事しているのよ」

 マリーが答えた。

「じゃあ、GTRは?」

「あの子達が、乗って行ったよ」

(あいつら俺のGTRを使ってホテルで客をとってるのか?)

(ふざけるな!)

 奥から弟のウィルが出てきた。

「どうも」

「ウィル、ちゃんと挨拶して!」

 リリーが叱った。

「弟のウィリアムです」

「ユージ・オダだ、よろしくな」

「パパはまだ働きに出てるから、帰ってきたら4人で食事にしましょう」

マリーが言った。


 5時過ぎに、ジョージパパが帰ってきた。昔はイケメンだったのだろうが、太鼓っぱらの髭面の親父が帰ってきた。

「パパ、おかえり」

 リリーが抱きついた。

「おお〜、よく帰ってきたな」

「うん?」

「いつも話しているユージよ」

「おお〜、ユージ、よくきたな、今日は泊まっていくだろう」

「はい、そのつもりです」

「よし、今日は飲み明かそう」

 肝心のナンシーとルーシーがいなかった。

「リリーは東京で何してるんだい?」

 マリーが聞いた。

「今、4店舗やってるんだけど、もうすぐ1店舗増えるのよ」

「この間来た時、そんな話してなかったよね」

「夏頃から急にそんな話しになったのよ」

「あんた、やり手だったのね」

「全部ユージの店だよ。私のために作ってくれたのよ、ねえユージ?」

「ああ、まあな」

「ユージって、お金持ちなんだね」

 マリーが言った。

「すごい人なの、ユージは」

 リリーが俺に抱きついた。

(なんだ、こいつ、俺は嫌いだ)

 ウィルが睨んでいた。

 リリーが昔働いていたフィリピンパブの店が潰れた顛末を家族に聞かせていた。どんなにユージがすごいのか自慢していた。

 俺はシャワーを浴びて用意してくれた部屋のベッドに横になった。12月で真冬だから夜は涼しかった。家の雰囲気を重たく感じていた。(フィリピンの気温は12月が最も低い)

 ダイニングで両親がリリーを挟んで話していた。

「リリー、パパが通っているバスがとっても混んでいるし、時間も遅れるのよ」

「パパに車を買ってくれない」

 ママがお願いした。

「ええ、いいわよ」

「本当か、リリー、ありがとう」

 パパは嬉しそうにいった。

 パパとママとリリーは夜遅くまで飲んでいた。

 リリーがユージがいる部屋に戻ったが、ユージが寝ていたので、そのままユージが寝ている横のベッドで寝た。


 翌朝、朝食を食べ終わるとハイヤーが2台迎えにきていた。

「ごちそうさまでした。私は仕事があるので帰ります」

「リリーはゆっくりして行っていいぞ」

 俺は荷物のデイバッグを持ってハイヤーの1台に乗った。

「もう帰っちゃうの?、ナンシーもルーシーも、もう少ししたら戻ってくるよ」

「ああ、もういい、お前もここでゆっくりしていい、東京に戻ってくるのは来年でいいぞ」

「それじゃあな」

「えっ」

 リリーが突然のことで、頭が真っ白になった。

「ユージが帰っちゃった」

「あたし、置いて行かれちゃった」

「あたし、どうすれば」

 リリーが泣き崩れてしまった。

「リリー、どうしたの?」

 マリーが肩を抱いた。

「ユージが帰っちゃった。あたし捨てられちゃう」

「大丈夫よ、リリーはこんなに美人なんだから」

「触らないでよ!」

 リリーがマリー手を振り解いて立ち上がった。顔が涙でぐちゃぐちゃになっていた。

「あんた達のせいだ!」

「昨日から何よその態度は、ユージのこと歓迎してないじゃない」

「何よ、偉そうに親ぶって」

「誰が仕送りしていると思ってるの、ユージのお金だよ」

「何が、自動車が欲しい?、自分で買いなさいよ」

「あたし、捨てられちゃう。ユージの周りにいる女はみんなユージの女なんだ。うちの店の女どもまでユージを狙ってるんだ」

「あたしなんか、すぐに捨てられちゃう」

「どうしてくれんのよー」

 リリーが泣き崩れた

「なんだい、ただの小金持ちの若造じゃない、大したことないよ」

 マリーが言った。

 リリーがムッとしてマリーを睨んだ。

「ユージの年収ってどのくらいだと思うの?」

 リリーが聞いた。

「パパ(自分)が300ドルくらいだから、3万ドル(当時の日本円で750万円)くらいか?」

 パパが言った。

「せいぜい10万ドル(2500万円)がいいとこだね」

 マリーが決めつけるように言った。

「8億ドル(2000億円)だよ、資産じゃないよ、今年1年間の年収だよ」

 リリーが言った。

「えっ、あたし耳が悪くて、よく聞き間違いするんだよ」

「もう1回、行っておくれ」

 マリーが聞いた。

「8億ドル」

 リリーが小さい声で言った。

「やっぱり10万ドルだよね、びっくりしたよ」

 マリーがほっとして言った。

「マリー、違うぞ、8億ドルだ」

 ジョージパパが言った。

「ちょっと待ってよ、そんな人いるわけないじゃない」

「お前は、騙されてるんだよ」

 マリーが言った。

「経理の女の子が教えてくれたんだ」

「先月も東京にビルを120棟を現金で買ったんだ。飴玉を買うようにビルを120棟も、それも借金なしで現金で」

「そんなことあるわけないじゃないか」

 マリーがまだ信じられないように言った。

「ウィル、何、あの態度は、上の学校には行かせないよ、自分で働いて行きなさいよ!」

 リリーが怒った顔で言った。

 ウィルが突然話を振られてびっくりしていた。将来に漠然と描いていた夢が崩れ落ちて行く気がした。

 家族が揉めているところに、ナンシーとルーシーがホクホク顔で戻ってきた。

「アッ、リリー姉さん帰ってたんだ」

「あんた達、客を取る道具にGTRを使ったね!」

「ユージが怒って帰っちゃったじゃない!」

「ユージと別れる事になったら、あんた達のこと一生許さない!」

 リリーが、また泣き崩れた。

注 リリーの家族は 1ドル=250円 と考えています。


 俺が宿泊していりリゾートホテルのリビングで、俺の前に、仕事に行ったジョージパパを除いたリリーの家族が土下座をしていた。

「ユージ様、大変失礼な態度をとって申し訳ございません。どうかお許しください。娘のリリーを捨てないで下さい。私はどうなっても構いません。ユージ様の奴隷にだってなります」

ママのマリーが言った。

(エッ、ママ、ユージの奴隷になっちゃうの?)

(なんで、いきなりユージ兄様の奴隷なのよ!)

 3人の姉妹が驚いた。


 昨日、ナンシーとルーシーがマリーママからユージの年収を聞いた。口を開けて、固まった。

「あたし、絶対ユージ兄さんの女になる、絶対なる」

 ナンシーが言った。

「あたしも絶対なるんだ」

 ルーシーが強く握り拳を作って言った。


「あたしも奴隷になります」

 ナンシーが言った。

(ママになんて負けてられないわよ)

「あたしなんて、もっとすごい1番の奴隷になります」

 ルーシーが負けずに言った。

「僕も奴隷になります」

 ウィルがボコボコに殴られた顔で言った。

 お前も奴隷かよ、と俺は思った。


 リリー達家族がホテルに向かう道中

 GTRにはリリーがマリーママを乗せていた。気まずい空気が流れていた。

 一方、迎えにきたハイヤーの後席に、ウィルを挟んでナンシーとルーシーの3人が並んで座っていた。

「あんた、何やってくれたのよ!」

「ボコ、ガツッ」

「ユージ兄さんのこと、ずっと睨んでたって!」

「ボコ、ガツッ」

「ボコ、ガツッ」

「ボコ、ガツッ」

「ボコ、ガツッ」

「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」

「あんた、あたし達の足、引っ張るんじゃないよ」

「ボコ、ガツッ」

「ボコ、ガツッ」

「ボコ、ガツッ」

「ボコ、ガツッ」

「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイーイ」


 気持ちはわかりました。

「俺がリリーを捨てることはないですから」

(リリーの家族は捨てるかもな)

「ユージ」

 リリーが思わず涙を目に浮かべて言った。リリーがユージからもらった水晶のブレスレットをずっと握り締めていた。

「ナンシーとルーシーを東京に連れて行きます」

「いいですか、マリー?」

「はい、よろしくお願いします」

 ナンシーとルーシーが笑顔いっぱいになった。

「マリーとウィルはハイヤーで家へ戻ってくれて結構です」

「ハイ、ユージ様」

 マリーが返事をした。

 フィリピンでは金の力が強い。裏社会では端金で簡単に人を殺すし、人身売買も行われていた。貧乏人は金への渇望が強い、貧乏から脱出するためだったら大抵の事をやる。金のためだったら自分の子供だって売るのだ。

「リリー、悪いが隣のスィートルームで待っててくれるか。こいつらに話がある」

「はい」

 さすがリリーの姉妹だ。物凄い美人だ。リリーほどではないが、東京にいるモデルにもこれほどの美人はいない。物凄い美人だけど何をするかわからない。鎖をつけるしかないと思った。

「お前ら、俺の奴隷になるんだったな」

「はい、ユージ兄様」

「全裸になれ」

「はい」

「俺はタトゥーが嫌いだ。ギャングの女や、風俗嬢に見えるからだ」

「お前らは上品で高級で一流のバーで働いてもらうつもりだが、日本の上流社会の人間はタトゥーを嫌う」

「タトゥーはあるか」

「すみません、あります」

「そうか」

「まずナンシーからチェックする」

「ルーシーはここで待て」


 ナンシーを部屋に連れてきた。既に全裸だ。スレンダーな金髪だ。ナチュラルな乳房でキュンと乳首が上を向いている。薄いサファイア色の瞳をしている。外国のモデル雑誌に出てもおかしくない。

(何で売春婦なんかしなくちゃいけないんだ)

 心の中で思った。

 ナンシーが色々な男に抱かれている姿が脳裏に浮かんだ。自分でもよくわからない、俺の綺麗な宝物が、下品でいやらしい男達に汚されているような酷く嫌な気分になった。

「見せてみろ」

「はい」

足首とお尻の上のウェストにあった。

「うつ伏せになれ」

「はい」

 俺は「ポン」と叩いて気絶させた。

 俺は目を瞑って意識を集中させた。気功を使ってお尻の上のウェストにあるタトゥーの入った細胞を分子レベルで分解して行く、綺麗に無くしてから、今度は光のエネルギーを集めて細胞を修復していった。時間を加速して行ったから、2〜3分だ。足首も同様に行った。次にナンシーの秘所近くに極小の水晶球を埋め込んだ。これでナンシーの動向を遠隔で把握し、場合によっては性感を刺激して俺なしではいられない身体にした。少し疲れた。ナンシーから生体エネルギーを少し吸収して補充した。

 ナンシーを起こして、ルーシーを呼ばせた。

「何してたの」

「わかんない」

「ルーシーも呼んでるよ」

「うん、行ってくる」

 ルーシーは赤毛で、日本人にはない大きくて魅惑的なやや濃いブルーの瞳をしていた。微笑むとキュートで可愛い。思わず抱きしめたくなる。なんていい女なんだ。外国の女優に引けを取らない。俺個人の好みとしては、それ以上だ。ナンシーにも感じたが、何で売春婦なんかするんだ。俺の女にして絶対手放したくないと思った。俺の好みだ。リリーに出会わなかったら、俺はルーシーに溺れていると思った。ルーシーの施術も終了した。

 


「お前らのタトゥーを消した」

 2人は互いのタトゥーを確認した。

「えっ、本当に綺麗にないよ」

「どうなってるの」

「ユージ兄様は神様なの?」

「ちょっと、疲れた」

「2人ともベッドにこい」

 俺は大の字に横たわった。

「2人でマッサージしてくれ、俺は眠るから」

「ゆっくりやってくれ」

「はい、わかりました」

 本当に寝てしまった。

「本当に寝ちゃったよ」

「どうする」

「やめろって言われてないから続けようよ」


 俺は一眠りしてから、ナンシーとルーシーの秘所に埋め込んだ極小水晶球に俺のエネルギーを流して、性感を100倍に増幅させた。麻薬の朦朧とした意識ではなく鋭敏な意識のまま、もの凄い快感に包まれ、狂った様にイキまくる2人を抱いた。俺から奔流の様なエネルギーを注入された2人は、翌日には体調がすこぶるいいはずだ。


 リリーのいる隣のスィートルームにきた。

「随分時間がかかったわね」

「ああ、2人にタトゥーがあったんで消すのに時間がかかった。すごく疲れたよ」

「タトゥーって消せるものなの?」

「まあ、何とかなったよ、ウィスキーが飲みたいな、付き合ってくれるか」

「ええ、もちろんよ」

「つまみはナッツしかないけど」

「ルームサービスで、適当に頼んでくれ」

「やっぱり、リリーの隣は落ち着くな」

「リリーとウィスキーとシガータバコ、ほっとする」

 マッカラン18年をロックで口に含んだ。シガータバコのMOREを吸った。

「リリーの実家はお金に困ってるのか?」

「あたしも仕送りをしてるんだけど、全然借金が減らないんだって」

「借金の金利はいくらなんだ?」

「農場主に、パパがみんなを代表して聞いたんだって」

「そしたら、お前達に説明してもどうせ分からないから、俺に任せておけばいいんだって言われたんだって」

「それでよく文句が出ないな」

「農場主があの辺一帯をシマにしている大きなマフィアの子分で、みんな怖がって何も言えないんだって」

「そうか」

「それは、何だか楽しめそうだ」

 俺は嬉しくなってニヤッと笑った


 翌日、ホテルのテラスでリリーとモーニングを食べた。ナンシーとルーシーがスッキリした顔でやってきた。

「おはよう、あ〜、良く寝た」

「お腹すいた〜」

 ナンシーとルーシーが言った。

(この3人がいれば、もう愛人はいらないな。レベルが違いすぎる。日本だけでなく外国のどこに行っても、連れて歩けば男達が振り返る美人だ)

 俺は3人を見てそう思った。

「今、あたしの店で女の子を募集してるんだけど、アメリカ人っぽい女の子って知らない?」

「タトゥーなしなんでしょう?」

「みんなタトゥーしてるから、してない子を探す方が大変かも」

「なんかいい案ない?」

 リリーが聞いた。

「お前達は前の店にどうやって入ったんだ?」

 俺が聞いた。

「街に女の子を紹介する斡旋所の店があって、そこに行ったのよ」

「じゅあ、そこで店で働く女の子を紹介してもらえばいいんじゃないか?」

「でも、手続きやらで一旦マニラで受け入れるところが必要なんです」

 ナンシーが答えた。

「マリーに受け入れる店はできないか」

「無理よ、店はマフィアがやってるんだから」

 リリーが言った。

「そうか〜」

「お前達の村って、みんな親戚なんだろ?」

「可愛い子がいるんじゃないか?」

「みんな貧乏だから、街の女になってるんです。年末年始に実家には戻ってくるけど」

 ルーシーが自分も同じだと思った。

「大体わかったよ」

 俺が言った。

「時間ができたから、ジョージとマリーに酒を持って行ってやろうと思うんだ。用意ができたら出かけるぞ、みんなたくさん食べておこうな」

「あたしステーキ食べたい」

「あたしも」

「お前達は留守番だ」

 俺はナンシーとルーシーにお小遣いをあげた。

「客を取るなよ」

「そんな事、するわけないじゃん」

「あたしはユージ兄様の女だから」

 ナンシーが言った。

「あたしも」

 ルーシーもすかさず言った。


 ホテルのスィートルームの部屋の戻ると、東京から電話があったメモが置いてあった。

「何かあったのか?」

「はい社長。来年支払う法人税(実効法人税)と固定資産税を計算したんですが、フィリピンに60億送ってますので、来年に納税すると、ほとんど残りません。

「どの位残りそうだ」

「試算では30億円くらいだと思います」瑠美子が答えた。

「少なすぎる」

「東京には20日に戻るから、23日に五芝銀行の担当者にアポをとっておいてくれ、頼むぞ」

「はい、社長」


「高山支店長、織田様からお電話です」

「・・・・・」

「はい、私のできる事でしたら、精一杯やらせて頂きます」

 三友不動産渋谷支店の高山支店長が頭を下げて答えた。

 

 夕方、GTRでリリーの実家に向かった。

「ただいまー、ママいる?」

「あれ、どうしたんだい、東京に行ったんじゃないのかい?」

「東京に戻る前に、ユージがママ達に酒を持って行こーって」

「本当かい、パパも喜ぶよ」

「ユージ様、ありがとうございます」

 ママが日本のお辞儀を深々とした。


 夜、ジョージパパが帰ってきた。

「ユージ様がお酒持ってきてくれたわよ」

「ユージ様、ありがとうございます」

 ジョージがお辞儀をして言った。

「あたしとユージ、夜のドライブ行ってくるから」

「暗いから気をつけてね」

 マリーが答えた。

「いってらっしゃいー」


「あそこがここら一帯の農場を持っている家よ」

「車を止めてくれ」

「リリーはここで待っててくれ」

「本当に大丈夫なの?」

 リリーは、ユージがヤクザの集団を一瞬で斃したのを見たことがあるが、相手はマフィアの子分だ、拳銃を持った用心棒だっている。心配でたまらない。

「ユージがいなくなったら、あたし」

 リリーが涙ぐんで言った。

「大丈夫だって、俺を信じろ」

「ちょっと、お話するだけだから」

「本当に?、危なそうだったら、すぐ帰ってきてね」

「ああ、わかったよ」


 スペイン領時代に建てられた石造の洋館だった。俺はスポーツ洋品店で買ったレインスーツに頑丈なリュックを背負って洋館に近づいていった。

 玄関のドアの前に立って。

「カチャ」

 ドアの鍵が勝手にはずれた。俺はゴム手袋をした手でドアノブを回した。

一階の玄関には誰もいなかった。右奥の台所に40歳くらいの女中がいた。意識を刈って気絶させた。

 女中には娘が2人いた。母娘3人が借金を理由に強引に館に連れてこられて、毎夜、農場主と息子達に陵辱されているようだ。

 館の2階に上がった。女の子2人の泣き叫ぶ声、快感に震える声、女達を引っ叩く音がしている部屋の前に来て、ドアを開けた。

 俺は女の子2人を遠隔操作で気絶させた。

「何だてめえは」

「どっから入って来た」

「ボスに呼ばれたんですよ」

 俺は意識誘導をした。

・・・・

「遅えよ」

「ボスがお待ちだ」

「ちょっと待ってろ、着替えるから」


「ボス、お連れしました」

「誰だ?お前?」

 ボスが俺を見て言った。

 そこに、ボスの息子2人が部屋に入り込んで来た。

「何でお前達が先に犯ってるんだ。俺らの後じゃないとダメだろうが、アホが」

「バンッ、バンッ」

 銃声が2発した。

「生意気なんだよ」

 タトゥーの男達がボスの息子2人を銃で撃った。

 床に倒れた息子2人が身体をくの字にして苦しんで死んだ。 

「バンッ」

 もう1発銃声がした。

「お前も生意気なんだよ」

 タトゥーの男の1人がもう一方の男を撃ち殺した。

「バンッ」

 ボスが残ったタトゥーの男を撃った。

 

「何、今の音は?」

 息子の母親が慌てて部屋にやってきた。

 床に倒れている息子達を見て

「イヤーー!、何なの!」

「ええっ、どうしたの?」

「パパ、早く医者を読んで!」

「バンッ」

 銃声がした。

「えっ、何で」母親の腹に弾が当たった。

「バンッツ」

 母親の胸にもう1発銃弾が撃ち込まれた。

 ボスが震える手で拳銃握っていた。

「勝手に手が、なんて事を」


「今晩は、農民達の借用書を受取りに来ました」

「何をふざけた事を」

「一応聞いただけです」

「バンッ」

 ボスが自分のこめかみを銃で撃ってデスクに突っ伏した。


「このクズがリリーの父親なのか」

 俺は部屋にある大きな金庫の前に立った。金庫のダイヤルが回った。金庫が開いた。

 汚い茶色になった古いB5くらいの紙の束が置いてあった。内容は分からないが古い証文のようだった。

「こりゃー説明できないし、見ても分からないよな」

 金庫の中には、ドル紙幣とフィリピンペソの紙幣がそれぞれ輪ゴムで止められていた。

 証文の束が入った紙製のケースと紙幣をリュックに入れた。


「おお、帰ったぞ」

 俺はGTRのトランクにリュックを入れた。

「銃声がしたけど、怪我はない?」

「ああ、何ともないよ」

「話のわかる人でよかったよ」

「それじゃあ、マフィアの親分のところに挨拶に行こうか」

「うん、あたし、心配で、心配で」

「大丈夫だって、遊びに行くようなものだ」


「マフィア(広域暴力団)のドンの家って、どこにあるのか知っているのか?」

「知らない人なんていないわよ」

 車で30分ほど行くと道が開けて石畳の道路になってきた。輪だちがあるので植民地時代は馬車道だったのであろう。

「これ以上近づくと車のライトで気づかれちゃうから止めるね」

「スペイン領時代のこの地域の領主の城を強引に奪い取ったって言われてるの」

「ギャングの取りまとめをしているボスなんだって、中に武装した兵士がたくさんいるそうよ」

「パパが農場主の手伝いで牛肉や野菜を運んでいるんだって」

「あそこはギャングの軍隊だって言ってた」

「ユージ、本当に行くの?」

「無理よ、絶対死んじゃう、お願い、行かないで」

「おい、俺が死ぬみたいな事、勝手に決めるなよ」

「俺に任せろ、綺麗に掃除してくるから心配するな」

「俺が怖がっている様に見えるか?」

「俺にとって、公園に散歩に出かけるようなもんだ」

「いいから、ここで待ってろ」


 遠くから見える城は高さのある城ではなく、がっしりした城だった。近くに来ると城壁があった。鉄の扉が閉まっていた。俺は横の壁を駆け上がった。城の周りを銃を持った男が歩いている。城の玄関の階段に銃を持った男が2人座っていた。おそらく交代制なのだろう。

 俺は玄関まで普通に歩いて行った。

「なんだお前は、どうやてここに来た?」

「今晩は、歩いて来ましたよ」

「ボスに頼まれた情報を持ってきました」

 俺は意識誘導をした。

「ああ聞いてる、こっちへ来い」

 城の周りを巡回していた2人が近づいてきた。

「どうした、何かあったか?」

「ああ、ボスのお客様さんだ」

「やっと来たか、待ちくたびれたぜ」

「じゃあ一緒に行くか」

 4人が先を歩いて、俺は少し離れた後ろを歩いた。

 ドアを開けて中に入るとロビーだった。応接セットに4人の男達が酒を飲みながらポーカーをしていた。

 俺は2階まで吹き抜けの天井に張り付いて下を観察していた。

「お前ら、何仕事サボってやがる」

「殺すぞ、こら」

「バンッ、バンッ、バンッ、バンッ」

「ポーカーなんか、してんじゃねえ」

 ポーカーの男達が銃で撃たれて死んだ。

「襲撃か?」

 玄関の左右から、2階からも拳銃を持った男達がやってきた。

「どうした、襲撃か?」

 集まった男達が俺が意識誘導している外の見張りの4人に聞いた。

「バンッ、バンッ、バンッ、バンッ」

 外の見張りの4人が撃った。

「バンッ、バンッ、バンッ、バンッ」

 周りの音達が4人を撃ち殺した。

「こいつら、敵の内通者だったのか」

(これで12人か)

「周りを探せ、ネズミは忍び込んでいるかもしれない」

「いや、ボスのところに行こう」

「そうだ、その方がいい」

 後から来て残った10人が階段を上がった。

 俺はこの10人を意識誘導して操った。

「どうしたお前達」

 幹部らしき男が3階から降りてきた。

「バンッ」

「こいつも内通者だったのか」

 幹部の男が殺された。

(13人)

「おい何があった」

 バスローブを引っ掛けた男が2人、スボンだけ履いて上半身裸の男が2人出てきた。

「バンッ、バンッ、バンッ、バンッ」

 出てきた3人が撃たれた。撃った側の一人が撃たれて死んだ。

(17人)

「おい、まだ内通者が隠れてるかもしれないぞ、探して殺せ」

「殺せ」

「殺せ」

 1階、2階のドアが乱暴に開けられた。

「バンッ、バンッ、バンッ、バンッ」

「バンッ、バンッ、バンッ、バンッ」

 女と寝ていた奴、シャワーを浴びていた奴、トイレに入っていた奴が、いきなり男達が部屋に入ってきて、反撃する間もなく殺された。

(25人)

 部屋に散らばった男達が戻ってきた。

「3階のボスのところに行くぞ」

「ボスを守れ」

 3階の階段で待ち伏せした男達に4人が撃たれた。

「バンッ、バンッ、バンッ、バンッ」

(29人)

「お前ら無事だったか」

「付いてこい」

 待ち伏せしていた男達と下からきた音達が合流した。

「バンッ、バンッ、バンッ」

「ババッン」

 3階に上がると横から幹部の男2人と、奥からショットガンの男がでてきた。

「ドォーン、ドォーン」

「バンッ、バンッ、バンッ、バンッ」

 俺は次々と意識誘導で男達を操った。

「やったか」

 下からきた男達全員が死んだ。

(35人)

「ボスのところに行くぞ、ついて来い」

 ショットガンの男が命令した。

「ドン、ドン、ボス、俺です」

「よし、中に入れ」

 部屋の中には3人の護衛とドンがいた。ドンは重厚な机の黒い革張りの椅子に座っていた。ウィスキーのグラスとボトルがあった。灰皿には吸いかけの葉巻があった。机の上にはリボルバーの拳銃がおいてあった。

「ドォーン、ドォーン」

 ショットガンが火を噴いた。

「バンッ、バンッ、バンッ」

 部屋にきた男達3人とボスの護衛が死んだ。

(39人)

「バンッ」

 護衛の1人が片方の1人に殺された。

(40人)

「バンッ」

 ドンが残った護衛を殺した。

「今晩は」

「誰だ?」

「どうでもいいだろ」

「バンッ」

「ゴト」

 ボスが自分の頭を撃ち抜いて、机に頭を打ちつけた。

(41人)

「フ〜〜、疲れる」

「女の人達が15人か、あと5人気絶させないとな」

 俺は一旦部屋を出て、少しして戻ってきた。

 金庫をあけた。

「さすが大親分だな」

 隣がボスの個人部屋と寝室と応接間だった。

「おっ、いいものがあった」

 ルイヴィトンの大きな旅行用のカバンが2つあった。

 金庫を開けた。大きな金庫には、5gの金の延べ棒15本、ドル紙幣がぎっしり入った箱、あとはフィリピン紙幣の束があった。紙幣をリュックに入れて、入りきれない紙幣と金の延棒を2つのヴィトンのバックに入れた。

 金庫を元に戻した。俺は玄関から堂々と帰っていった。


「リリー、ただいま」

「トランク、開けてくれ」

 トランクが一杯になった。

「リリーの実家に戻るか」

「挨拶してからホテルに戻ろう」

「うん」


「ただいま、ママ、パパ」

「随分いろんなとこ、ドライブしたんだね」

「うん、ユージがこの辺のこと知りたいって」

「何にもないよ、マフィアの城以外は」


「ところでジョージ、お前、車が欲しいんだって?」

 俺がジョージに聞いた。

「は〜、できればなんですか、ユージ様」

「ジョージは車よりバイクの方が似合うぞ」

(この髭親父は大型バイクが絶対似合う)

「バイクなら、明日買ってやる」

「でも明日は仕事に行かないと、怒られるんです」

「明日の仕事は休みになると思うぞ、それから借金もなくなるみたいだ」

「ええ〜、そんなわきゃないですよ、なんでわかるんですか」

「神のお告げだよ、いいから明日の1番で、バスでホテルのこの部屋まで来てくれ、命令だ」

「はい、わかりました」

 

「それからマリー」

「はい、ユージ様」

「運転免許を取ってくれ、お前に車を買ってやる」

「本当ですか? あたしユージ様のためだったら・・・」

「それ以上言うな、わかったな」

「はい、ユージ様」

「これはマリーに小遣いだ」

 あまり多く渡すと、目立つから、1000ドル(25万円)を渡した。

「ありがとうございます。あたしはユージ様の・・・」

「それ以上は言うな」

「じゃあなジョージ、ホテルの部屋で待ってるぞ」

「はい、ユージ様」


 翌朝ジョージが10時頃、部屋にやってきた。バスと徒歩で来たから、これでも朝1番のバスで来たようだ。

 ジョージが緊張してやって来た。一流ホテルに来たことも、ましてスィートルームに入ったことがなかった。

「ユージ様、おはようございます」

「遅くなってしまって申し訳ありません」

「なに、気にしてないよ」

「ちょっと遅いがモーニングをみんなで食べに行こうか」


 ラウンジのテラスでモーニングを食べようかと思ったが、モーニングの時間が終わってしまった。ランチにもまだ時間があった。飲み物と軽食は出せるそうだ。

「俺とリリーは仕事があるから飲めないが、みんな飲んでもいいぞ」

「ジョージは遠慮して頼みづらいだろうから、俺が頼んでやるよ」

「マッカランの12年をボトル、ロックでグラス3つ、お願いします」

「つまみは好きなの頼んでいいぞ」

「俺とリリーは、あそこのテーブルに移るから好きにやっててくれ」


「リリー、アフタヌーンティーにしようか?」

「そうね」

「今日の予定なんだけど、昨日に臨時ボーナスが入ったから、東京からの入金を待たずに、コンドミニアムの売買契約を完了させよう」

「所有権移転登記と合わせてコンドミニアムを所在地にしたリリーの会社の登記も一緒に依頼する。次に金の延べ棒を交換所でドルに交換する。銀行に口座を作りドルを銀行に預ける」

「こんな感じだけど、登記にかかる日数があるから、フィリピンにいる間に全てはできないと思う」

「ふーん、わかった」

「本当にわかったのか?」

「ユージに任せることが、わかった」

「ああ、ありがとう」


「ギャハハハ、ハハハハ、エエー、ウッソー」

「あのね〜、姉ちゃんにはナイショだよ、それでね〜」

(お前ら、デカい声出しやがって、聞こえてんだぞ)

(俺とのSEXの時の様子じゃないか、リリーが隣にいるんだぞ)

(父親がいる前で、そんな話をするんじゃない!)


「リリー、部屋に戻ろうか?」

(これ以上、あいつらの話をリリーに聞かせるのはマズい)

「これからランチ食べるんでしょう」

「なんで部屋に帰りたいの?」

・・・・・

「いや、なんとなく、早くランチにならないかなあ〜」

 俺は少し慌てた。近くのテーブルで酒を飲んで、バカ騒ぎをしている親娘がいた。


 マニラで1番大きなバイクショップに来ていた。店内には高額なバイクが展示してあった。フィリピンでは一般に自転車が利用されており、比較的高級取りの男性はスクーターに乗っていた。バイクは若者の高嶺の憧れの乗り物だった。販売店の1番目立つところのバイクに人だかりができていた。販売価格は6000ドルだった。一般庶民が手を出せる代物ではない。フィリピンは貧富の格差が著しい。もちろん買える金持ちはいる。高級バイクを購入するのは金持ちの若者で、モーターサイクルが好きなマニアだ。

 ジョージは自分が場違いな場所に来てしまったと思った。自分には廃棄される寸前の中古バイクがお似合いだし、それでも大満足だ。ジョージは店の外にあるボロい中古バイクを熱心に見ていた。

「ジョージ!」

 ユージ様に呼ばれた。

「はい」

 ユージ様が遠くで手招きをしていた。ユージ様のところに走って行った。ユージ様は迫力のある綺麗なバイクの前に立っていた。

「ジョージ、これなんかいいんじゃないか?」

「これにしろ」

「はい、ユージ様の言うとおりにします」

 カワサキ750SS、最高出力74ps、最大トルク7.9kg、最高速度203km、0〜400m 12秒、当時の世界最高速度のバイクだ。今でも人気のあるバイクで、当時はバイク乗りにとって憧れだった。

 「6000ドルもするのか」

 俺が今から死ぬまで働いても稼げない金額だ。胸がドキドキしてジョージは思った。

 ユージ様が販売店の店員を呼んだ。

「これ下さい」

「どちら様が買われるんでしょう」

 ユージ様が俺の背を押した。

「もちろん、このジョージです」

「これ、渡しておくから、あとは任せた」

「俺達、これから仕事なんだ。じゃあな」

 ユージ様からフィリピンペソが詰まったカバンを渡された。でもたくさんのフィリピンペソでも6000ドルあるのか不安だった。

 フィリピンペソの紙幣は6種類で「20、50、100、200、500、1000ペソ」だ。1982年当時のペソの対ドルレートの平均は、1ペソ / 0.105924 ドルだ。6000ドルは 6000➗0.105924= 5万6644ペソになる。1番大きい1000ペソ紙幣で567枚になる。バックの中は1000ペソ紙幣がほとんどだったが、ジョージは心配だった。

「6000ドル分のペソがありましたので、残りはカバンに戻しましたから」

「ガソリンも満タンにしておきますね、当店のサービスです」

 店員が笑顔で答えた。店員は100ドル分のフィリピンペソをネコババしていたのだ。

「ああ、足りてよかった」

 ジョージはほっとして言った。

(ユージ様、一生ついていきます)

 ジョージは心に誓った。


 数日後、ジョージが農民達を集めた。農民達を代表して警察の事情聴取を受けた後だった。

「みんな聞いてくれて」

「俺たちの親父や爺さん達、もっと前から俺達を縛りつけた借金がなくなった」

「ジョージ、バカ言ってるんじゃないぞ」

「神のお告げがあったそうだ」

「俺達を苦しめていた領主や、その上のマフィア達が一夜にして壊滅したそうだ」

「マフィアの抗争があったわけじゃない、内紛があって殺し合って全員が死んだんだ」

「こんな事って、世の中にあるんだろうかって、ないよな」

「でもあったんだ」

「俺は思ったんだ。きっと神の怒りに触れたんだって」

「俺達は神に感謝して、今まで以上に仕事をしよう!」

「ジョージ、ちょっとおかしくなっちまったけど、まあ、結果が良ければいいさ」

 ジョージがいなくなると、小声で農民達が言っていた。

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