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21 幼馴染と噂の終わり





 噂が流れ始めて数日が過ぎたが、特段、話題にするような問題は起きていない。

 朝、妹に挨拶をして幼馴染を迎えに行き、のんびりと言葉数少なく、いつも通りのテンションで登校。

 眼鏡やら委員長やら、イケメン君やらに挨拶をした後、頬杖をついてSHRの時間を待つ。


 何事もない、いつも通りの日常だ。


「そんじゃ、球技大会のチーム決めが明日までに提出だから、うちのクラスは今日までに出すように。俺、体育教師の全般に睨まれてるんで何卒よろしく」


 相変わらず生気のない虚な目をした担任教師が告げた連絡事項を無視すれば、だが。


 最後、ただの私怨じゃねえか、とクラスの面々の多くが心の中でツッコミを入れたことだろう。

 何でも「爽やかさが足りない。若者らしくない。生徒に示しがつかない。目つきの悪さで近所の人から苦情が入った」などの背景事情があるようで、ナル先生は一部の教師からは反感を買っているのだとか。

 人のこと言えない立場に置かれてて笑う。


「薄雲、お前放課後雑用な」

「マジで言ってます?」

「うん」


 ニヤついていたら、しっかりとペナルティーを頂戴した。意外と目敏いよね、貴方。あと心が狭い。あ、睨まないでください、冗談です。

 まぁ、どうせ何か面白いことでも耳にしたから、というのが本心なんだと思うけど。

 先生にまで知られる生徒間の噂って相当だよな。取り上げられている相手が相手だから仕方がない気はするが。

 それにしても理不尽感が凄い。

 周囲からすれば、さぞかし目をつけられているように見えるのだろう。不真面目なつもりはないんだけどなぁ。




 SHRが終わるとクラスメイト達は各々の仲良しさんグループに分かれて、短い自由時間を楽しみ始める。自然と耳に入ってくる話題には球技大会に関することも多く、クラスの中心で騒ぎ立てている彼らもそれは同じようだった。


「今年は絶対勝たないとな、藤堂」

「…………? うん、まぁ勝てたらいいよね。その方が楽しいし。怪我をしないのが一番だけど」

「そんなこと言って、誰よりもやる気に満ち溢れてるのは知ってんだぞ。なぁ、お前ら?」


 名も知らぬ陽キャさんは藤堂の肩に腕をかけながらそう言って、周囲に集まっていた数人の男子の顔を見回した。

 困惑しているようにも見える藤堂を置き去りにして、佐藤くん(仮)を含んだ彼らは彼らのペースで盛り上がり始める。


「…………えっと、何の話?」

「いや、何の話って……お前、とぼけるのもそれぐらいに――」


 話が噛み合っていないことに藤堂が疑問の声を上げた。肩を組んでいた陽キャがその質問に答え始めたが、それは教室の片隅で生じた叫び混じりの驚嘆の声に遮られることになった。


「えっ!? 宮城さんって藤堂くんと付き合ってないの!?」


 当然のようにクラス中の注目が声の発生源へと集中する。

 そこに居たのは真面目そうな雰囲気のする女子生徒。宮城さんグループとして固まっていた女子集団の中の一人だった。

 

「ちょっと! 何、大きな声出してるのよ!?」

「……ご、ごめん! その、びっくりしちゃって」


 一緒に居たつり目で勝気そうな雰囲気の少女が、真面目ちゃんを叱咤した。

 わたわたと慌てる真面目ちゃんに、幼馴染様が優しく微笑みながら近づく。


「気にしなくても大丈夫だよ。別に他の人に知られても困ることじゃないから。だから、ね? そんなに謝らないで」

「宮城さん……っ! わ、わかった。もう気にしないようにするね」


 決して『誰、あの美人』などと思ってはいけない。道理で女神だなんてあだ名がつくわけだと素直に納得しておくのが利口である。

 二人の様子を見た勝気ちゃんは何とも言えないような表情で口元をモニョらせていた。非常に気まずそうにしている。

 つい語気が強くなってしまったとわかりやすく落ち込み、脳内反省していそうな勝気ちゃんを見ているのは面白いのだが、注意を払うべきポイントは他に存在した。


「……ああ、なるほど。まだ、だったのか」

「えっと、何が?」

「いや、何でもねえよ。宮城さんと付き合ってないならそう言ってくれよ、藤堂」

「最初から僕は誰かと付き合っているなんて言ってないんだけどなぁ……」


 視線の先を教室の中央へと移す。

 真面目ちゃんの言葉を聞いた男共も多少の気まずさを感じていたらしい。

 何も知らない状態だった藤堂を囃し立てるのをやめ、噂が噂でしかなかったのだとその場の誰もが認めようとしたときだった。


「でも、残念だな。せっかく、美男美女のお似合いカップルの誕生だと思ったのに」


 それが誰のつぶやきだったか。

 声量自体は特段大きなものではなかったが、何故かその言葉は教室中にはっきりと伝わった。

 恐らく、多くの者の潜在意識の内にその認識が眠っていたのだろう。

 唯一、お互いにつり合いが取れる組み合わせはこの二人しかいないのだと。


 それから程なくして、教科担当の教師が教室へと入ってきたため、自由時間を過ごしていたクラスメイトたちは皆、自分の席へと戻っていった。


 何事もないように始まる授業。

 これから起こると思われる面倒事のことを思うとどうしてもやる気が起きなくて、開始早々に机へと伏した。



 ✳︎



「…………紅夜、今いい?」

「見ての通り、暇を持て余してる所だけど」

「え、俺と楽しくお喋りしてたよね?」

「ならよかった。少し付き合って」

「どこにだ?」

「おーい? おーい? 君たちー?」

「「ちょっとそこうるさい」」

「酷過ぎやしないか???」


 お昼休み。

 眼鏡と共に昼食を終え、どうでもいい雑談に興じていたところを涼風に話しかけられた。

 心なしか、涼風が佐竹を睨んでいるように見えたのは気のせいだろう。気のせいではなかったとしたら、佐竹は喧嘩を売る相手を間違えたに違いない。合掌してやる。


「人がいない所なら、どこでもいい」

「了解」

「なんかエッチだな、今のお誘い」

「潔く死ね」

「文句なしの暴言!?」


 目を見開いて喫驚している佐竹は放っておくとして、人がいない場所ときたか。

 幾つかの候補を思い浮かべながら、チラリと幼馴染様の方を見る。


「…………」

「……み、宮城さん?」

「――ん? どうかした?」

「う、ううん、何でもない……です」


 案の定、彼女は俺を見ながら周囲に威圧を撒き散らしていて、つい笑ってしまった。真面目ちゃんも可哀想に。


「じゃ、ついでに飲み物買いに行っていいか? 自販の前で駄弁ろうぜ」

「わかった……貴方も大変ね」

「はてさて、何のことやら」


 多分「屋上に行こう」なんて言葉は聞きたくなかったのだろうなと、そんな予想を立ててしまうのは自意識過剰が過ぎるだろうか。

 もしそうであれば嬉しいことこの上ないのだが、残念ながら追求は出来ない。

 むざむざと地雷を踏み潰しにかかる趣味があるわけでもないので、屋上以外の行き先を涼風に提示した。


 白野兎高校は新棟と旧棟、特別棟の三棟から構成されている。

 二階、三階に存在する渡り廊下にて『工』の字を描くようにして新棟と旧棟が結ばれており、特別棟はまた少し離れた場所に位置する。

 新棟と旧棟はどちらも四階建てで、広さの面でいえば、白野兎高校は県内でもそれなりに大きな高校だった。

 校内で自販機が置いてある場所は一つではないが、今回やってきたのは『工』の文字で言う縦のラインに当たる場所。渡り廊下の下に存在する新棟と旧棟の一階を結ぶ道。

 左右を中庭に挟まれ、外気に晒された廊下には幾つかのベンチが置かれていたがその全ては空席だった。


「…………缶コーヒー飲める人?」

「……缶は、飲んだことがないわ。コーヒー自体は嫌いじゃないけど」

「あら、お嬢様。期待せずに飲んでみろよ」

「……ありがとう」


 俺は嫌いではないのだが、コーヒーが好きでも缶コーヒーは苦手という人は時々いる。

 ドリップコーヒーしか飲まない主義だと言うのなら無理強いはしないが、一度くらいは飲んでみるのも損ではあるまい。

 自販機で缶コーヒーを2本購入して、片方を涼風に渡す。おっかなびっくりプルタブを引く姿を見ると、自販機を利用すること自体が涼風にとっては珍しいことなのかもしれない。


 コクリ、と一口。

 微妙そうな顔をした涼風を改めて正直な子だな、と思いながら俺も缶に口をつける。


「…………ん、それで、どうしたんだよ?」

「……はぁ…………あの鬱陶しい噂以外に話題があるなら、聞いてあげるけど?」

「わぁ、手厳しい。俺、涼風のそういう明け透けなところは美点だと思うよ」

「…………? ありがとう。急に褒めても何も出ないけど」

「そうだった。この子、皮肉が通じないんだった」


 首を傾げたのち、僅かに照れの素振りを見せた涼風だったが「そんなことより」という文言を形にしたかのような咳払いを一つ挟んだ。

 どうやら、真面目な回答をご希望らしい。


「……噂なら、朝の一件で終わりだろ」

「本気で言ってるなら、軽蔑する」

「………………」


 表面的な薄っぺらい答えは冷ややかな視線と共に放たれた一言で一蹴されてしまった。

 こりゃ、友達いないよな、と心の底から思わせるほどの直球な物言いに面食らう。

 涼風の言っていることは正しい。彼女はとても優しい友達思いの子だ。

 そんなことは既に知っているつもりだったが読み違えた。

 

「…………存外に、過保護なんだな」

「……私が、過保護?」


 どうやら本人も自覚はしていなかったらしく、涼風が怪訝そうな顔をする。

 気持ちは痛いほどにわかる。

 どうしても勘違いしそうになることだって理解はできるのだ。


「宮城藍夏は、そんなに弱い人じゃないよ」

「…………」


 涼風は知っている。

 宮城藍夏が、誰にでも人当たりが良い、成績優秀、容姿端麗な女神様だと崇められているような人ではないということを。


 感情の整理は下手くそで。

 人気者なんて柄ではなくて。

 彼女が震えながら虚勢を張り続けているような人であることを、勝手に親友扱いを受けてきた涼風美鈴は知っている。

 だから無意識のうちに、守らなければと思うのだろう。今思えば、初めて涼風が俺と話をしたときも、彼女の目的は俺を見極めるためだった。


「…………大丈夫。噂だ何だを跳ね除ける程度の話なら、うちの幼馴染様が上手くやる」

「…………じゃあ、貴方は何もしないの?」


 繰り返し告げた俺の言葉を少しは信じてくれたのだろうか。

 涼風が納得したような、けれどまだ何か心残りがあるような、そんな表情を浮かべる。

 一呼吸置こうと、もう残り少なくなっていた缶コーヒーをぐいと傾ける。少しの苦味と癖のある酸味が口全体に広がった。

 

「…………噂の出所を潰す。聞かなくてもわかるだろ」

「人の考えなんて聞かなきゃわからないわよ」

「……少しは読み取ろうって努力してみない?」


 締まらないやつだな。

 問いかけたりなんかして、完全に恥ずかしいやつじゃねえか。

 まあ、こんな不思議ちゃんでも幼馴染様の親友様にして貴重な味方様だ。慣れるしかない。


「で、具体的に何をするつもり?」

「それは――っと、もう時間だな。」


 涼風の質問に答える前に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。気づかない内にかなりの時間を自販機の前で過ごしていたらしい。

 残してきた佐竹には悪いことをしたかもしれない、なんて考えをほんの少しだけ浮かべながら教室へと戻っていく。

 その途中、ふと思った。

 彼女の質問に答えなくて済んだのは幸運なことだったと。



 ✳︎



「……本当に雑用じゃねぇか」

「悪いな、非常に助かる」

「せめて少しは悪いと思ってるようなテンションで言ってくれません?」


 放課後の化学準備室。

 ナル先生を筆頭にした化学教師たちの私室と化しつつあるその部屋に俺は呼び出されていた。

 何の資料かもよくわからないプリントを指示された通りの2枚組みにして、ホチキスで留めていく。これ生徒にやらせる仕事じゃないだろ。

 

「無理にやれ、とは言ってないだろ。暇なら手伝ってくれとは言ったが」

「アンタが作業を終えるまでここから帰さない、とか言い出したからでしょうが……俺はさっさと帰りたいんですよ」

「今週は家庭部の活動週だ。律儀に居残ってるやつが何言ってる」

「……そこまで把握されてるとキモい超えて怖い。早く禿げればいいのに」

「教師に対する態度とは思えないな」

「生徒に対する態度と思えないから、だけど」


 幼馴染の部活に合わせて帰宅時間を調整していることがバレていた。何だこの腹黒教師。プライバシーってものを知らんのか。

 意図的に強めの圧でホチキスを鳴らした。

 無言の抗議をナル先生は澄ました顔で受け流した。


「雑用が嫌なら、代わりに何か面白い話でも聞かせろよ。近況報告、言うべきことがあるだろ?」

「…………」


 端からその話しかするつもりがなかった癖に白々しい。

 茶化し半分、心配半分といったところか。

 ナル先生にふざける余裕があるのを見ると、どうやら俺は切羽詰まったような顔を浮かべているわけではなさそうだ。


「……なーんも、ありゃしませんよ。強いて言えば体育きっついなぁ、ってぐらいですかね?」

「…………そうか」

「はい。そうです」


 パチパチ、としばしの間、ホチキスの音だけが部屋に残る。


「………………じゃ、帰っていいですか」

「面白くなかったから、不許可」

「このゾンビ教師がよ」

「どうせ居残りするなら、いいだろ。手伝いが終わったらアイスやるから」

「よっしゃ、言ったな。ありがとうございます!」

「他のやつには言うなよ」


 ナル先生曰く、理科教師とはビーカーでお湯を沸かしコーヒーを飲み、教材保管用の冷凍庫にてアイスを保管している生き物なのだとか。是非とも真面目に仕事をしている教師に謝ってほしいところである。

 

 一心不乱に雑用へ励み、その作業の終わりが見え始めた頃。

 ナル先生の提案で、俺たちは棒つきアイスを味わいながらの休憩時間を挟んでいた。仕事に終わりが見えた途端に作業ペースが落ちるのって結構あるあるだよね。バニラアイスうめぇ。


「……そういえば、お前は球技大会で何に出るつもりなんだ?」

「あー、今日までって言ってましたね……多分サッカーだと思います。希望出してないんで知りませんけど…………え、うちの男子、素人を卓球に選ぶほど鬼じゃないよね?」

「知らねえよ。そうならないように、希望を募るんだろうが……」


 ちょっとした雑談。

 ぐぅの音も出ない正論を叩き込まれた。


 この学校の球技大会は殆どの男子にとってサッカー大会と同義だ。逃げ道と言えば、唯一の男女混合団体競技である卓球のみで、それ以外の男子は基本的にサッカーに出場することになっている。卓球は卓球で経験者どもがひしめく魔境と化すので、経験者でなければそっちの方が地獄だ。

 因みに女子はバスケとバレー、卓球の中から一つを選択して割と元気よく楽しんでいたりする。女子バスケって素人が集まってやると結構、迫力あるんだよなぁ……怪我人が出そうという意味で。ストレス解消にでもなるのだろうか。


「……考えたら不安になってきた」

「確認してきてもいいぞ。もう提出されてる頃かもしれないけど」

「完全に他人事扱いしてますね……誰のせいだと思ってやがる」


 私情で提出期限を早め、俺の放課後の自由時間を拘束してきたナル先生を睨む。

 何のことやら、とわかりやすく肩をすくめた彼を視界の外へと弾き飛ばし、席を立った。

 準備室のドアに手をかけたタイミングで、立ち止まる。


「……成瀬先生」

「…………どうした?」

「…………いえ、やっぱ何でもないです。アイスご馳走でした」

「……おう、困ったことがあったら言えよ」


 心配してくれているのだろうな、とそう思ったが、別に何も助けられてはいないことを思い出す。感謝の言葉を言うのは癪で、ぺこりと会釈を一つ返した。


「じゃ、俺が卓球にエントリーされてたら助けてくださいね」

「体育教師には関わりたくないからパス」

「期待した俺がバカだった」


 この役立たずがよ。

 死人のような目をしたままくつくつと笑う担任教師に背を向けて、俺は自分の教室へと走り始めた。




 夕日が差し込む、茜色の教室には一人の生徒の姿だけがあった。

 彼は酷く焦っているような、何かを恐れているような、そんな顔をしていて。

 そして、教室に入ってきた俺の顔を呆然と見ていた。


「どうしたよ、お前。そんな死人でも見たような顔をして」

「……い、いや、そんな顔してたかな? 少し驚いただけだよ。そっちこそこんな時間にどうしたの、薄雲君」

「アホ教師に呼び出しくらって、雑用やってた」

「あ、アレ、本当にやったんだ」


 一人教室に残っていた生徒――藤堂颯は、その整った相貌に呆れの色を浮かべながら、手に持っていた何かを背中に隠す。

 ふむ……さては、ラブレターか何かだな。今時、古典的なやつである。青春しているようで何よりだ。


「なんか慌ててるけど、お前が教室で何をやってたかを詳しく聞くつもりはないよ。俺は球技大会のメンバー表を確認しにきただけ」

「…………ッ!?」


 邪魔しないでやろうと気の利いた一言をくれてやりつつ、メンバー決定を行うプリントが貼られていた背面黒板の方へ移動する。

 様々なプリントや少しの落書きを眺めながら、目的のプリントを探していく。

 粗方、目を通してもプリントは見つからなかったため、既に提出されてしまったのだと諦めをつけたときだった。


「う、薄雲君! 球技大会のメンバー表ならこっちにあるよ?」

「……ん? あ、マジで!? サンキューな、藤堂!」


 プリントを探すのに集中していると藤堂が前方の黒板に貼られていたプリントを持ってきてくれた。


「そ、それじゃ、僕はそろそろ部活に行くから……プリントの提出を任せてもいい?」

「え? まぁ、別にいいけど」

「……ありがとう。じゃ、またね」

「おう。部活、頑張れよー」

「…………うん」


 彼の様子を見て「変な藤堂だな」と感覚的に違和感を捉えたが、何がおかしいのかはわからなかった。

 とりあえず、本来の目的達成のためにプリントを見る。自分の名前がサッカーの項目に書かれていることを確認して、それからプリントを提出するための行動に移る。


「って、おいこれ、提出場所、職員室じゃなくて体育教官室じゃねぇか! 逃げたな、アイツ!」


 あの部屋、悪いことしてないのに怒られてる気分になるから行きたくないんだけど。


 いや、まぁ……行くけどさぁ。

 ため息を一つ。

 面倒だと思いながら請け負った仕事を放棄するわけにもいかないため、とぼとぼと体育教官室へも歩き始めた。





 ✳︎





 後日。




「ほんっっっとに、ごめんなさいっ!!!」

「何の話???」



 渾身の土下座を藤堂からプレゼントされることを、まだ俺は知らない。 







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