信じたくない事実 その2
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ニウテは、異常なまでに濃密な魔力が渦巻くこの空間を見つめながら、レンを意識したわけではなく独り言のように呟いた。
「これを止める方法はないのか?」
その言葉に、レンは冷笑しながら返す。
「あるわけないだろう。発動したら最後、魔力は勝手に集まってどんどん魔物を生むんだ。
止める方法があったとしても・・・お前たちに教える義理はない。」
レンは、ニウテの言葉に反応し答えた。
その言葉を聞いたユキは、拳を握りしめ、声を震わせながら呟く。
「救えない・・・」
「ごちゃごちゃうるさいやつらだ。5対1か分が悪いな。あまりやりたくはないが奥の手を使うしかないか」
そう言うと、レンは懐から小瓶を取り出した。
それは、魔石のように濃縮された魔力が詰まった不気味な薬だった。
どれほどのマナポーションを凝縮すれば、このようなものができるのかも分からない。
レンはためらいなく、その薬を一気に飲み干す
飲むと一気に魔力が膨れ上がり、その魔力は、まるで生き物のように蠢き、渦を巻いて体中を覆い尽くしていった。
普段何気なく体に取り込んでいる無害な魔核がその膨大な魔力に反応してなのか、体内で魔石化したのかレンの体を変質させる。
魔石のように紫色の光沢のある体、そして魔物のような爪や牙が生える。
禍々しい魔力を身に纏い魔物と人間の混ぜたような見たことも無いナニカに変化する。
レンの理性はほとんど失われ、言葉も話さなくなる。
「ぐわーわわーーわ」
やがて、その魔力が完全に彼を包み込んだとき、彼の姿はもう過去の面影を留めていなかった。
かつての優しさを感じさせる表情は消え失せ、そこに立っているのは恐ろしい魔物そのものだった。
彼の黒い魔力は、周囲に強烈な不快感を与え、空気が重く、息を呑むほどに気持ち悪さを振り撒いた。
「人間が魔物に・・・。」
エメダは呆然とその光景を見つめ、言葉を失う。
圧倒的な力の差が感じ取れて絶望する。
「倒すしかないのかな」
その言葉は、決して軽くはなかった。マキの目には、深い悲しみと痛みがにじみ出ていた。
助けようとしてきた相手が、こうして姿を変えてしまったことが、どれほど胸を引き裂くような痛みだったか。
それでも、マキは立ち上がり、決断しなければならない現実を直視していた。
「自業自得。マキちゃんためらっちゃだめだよ。ここで、この人を止めないとまた同じことをやる。
故郷がなくなったことを忘れたの?」
ユキは、マキをゆすり協力して戦うように求める。
「うん。みんな倒しましょう。」
マキは、悲しみを堪え、みんなへ戦いを宣言する。
今はまだ、魔物レンだけに集中できる状況ではない。なのにレンは、かなり強力な魔物へとなっていた。
20階層のボス以上の力を持っているようだった。
かなりの苦戦を強いられる。
未だこの階層は魔力が豊富であちこちに魔物が発生している状況だ。
気を抜けば、レンだけではなく他方から攻撃が飛んでくる。
その攻撃を避けながら、沸いた魔物を倒しながらの戦闘になる。
状況はあまりよくない。周りを見るだけでも30体、40体もの魔物がひしめき合っている。
レンは、魔物認定されているようで魔物からは攻撃されない。
そして、レンは上位種の魔物扱いのように周りの魔物と連携も取れる特殊能力があるようだ。
不利な状況が重なっている。
「みんな少し時間を稼いで、ここの魔力をまず何とかする。」
マキは、みんなに協力をお願いし、レンと魔物の戦いを引き受けてもらう。
その間に、マキは、身体強化をしできるだけ早く移動し広範囲に魔石を置きながら走り回る。
さっき閃いた事を試すための準備を始めた。
魔道具を中心に魔力濃度が濃くなっているのが感じられたので、その周辺に魔石を配置する。
そして、マキは一つ魔石を持つ。
マキは、この状況下ではあるにもかかわらず、すごい集中力で合成するイメージをし、魔力を手に集め
「魔石合成」
と叫ぶ。
辺りに配置した魔石が声に反応し輝き、光の線で結ばれ魔法陣のような文様を浮かび上がらせる。
その光が魔力を吸収し、やがて、マキの手に持つ魔石へと集約されていく。
まばゆいばかりの光が手に収束し、一つの魔石を生成する。
「エンシェントゴブリン?」
マキは、見たことも無い魔石で首をかしげながら、声をだす。
これまで、合成で作れていたのは、グレート(約魔力3000)やキング(約魔力5000)ぐらいの魔物の魔石だった。それ以上は、やったこともなかった。数も必要になるしできるかもわからないから、やっていなかった。
エンシェントは、2段階ぐらい上の魔物であるとマキは予想した。
感覚だけではあるが、だいぶ魔力濃度が低く感じがした。
ユキも同じ感覚だった。
「多分成功よ。正常の魔力値になったと思う。」
マキは、自信なさそうにみんなに伝える。
時間の経過とともに、ダンジョン内には絶え間なく魔物が発生していた。
しかし、マキが魔石合成を行った後、しばらく経っても新たな魔物が生まれる気配はなかった。
静寂が訪れたかのようなその変化に、誰もが驚きを隠せずにいた。
そんな中、魔石合成の直後、エメダはふとレンの様子に違和感を覚えた。
辺りの魔力減少が影響したのか、レンは圧倒的な強さで戦闘していたが、この時だけは、一瞬体が揺らぎ後退していた。
その事実をエメダは見逃さなかった。
(まさか!)
エメダはすぐにマキの元へ駆け寄った。
「マキ、レンが……」
小声でそう伝えると、マキはレンを状況を確認し、すぐにその異変の理由を理解した。
マキは納得したのか
マキの瞳が鋭く光る。
エメダの観察力に感謝しつつも、その裏に潜む真実を考えた。
レンは元々、強制的に高魔力の源を体内に摂取して、その結果として今の姿へと変貌していた。
つまり、魔力の減少がレンの生命力に直接影響を与えている可能性が高いと
マキはふと、以前の出来事を思い出した。
「エメダちゃん、ありがとう。レン…もしかしたら……元に戻せるかもしれない。
不死の人間から魔石を取り出した時と同じ方法なら、彼を救える可能性があるわ」
タイミングを見計らってちゃんとレンの体に触れることができれば、もしかしたら可能かもしれない。
ただ、圧倒的な強さの前のレンに触れていられるのか、そんな時間が作れるのかが問題になってくる。
魔物の発生も抑えられ戦いは少し楽にはなったが、強敵レンを前にして、厳しい状況はあまり変わりなかった。
レンも指揮する相手もいないので戦いに集中できるようになったのか、レンは完全に敵意をむき出しにし、マキたちへと向かってきた。彼の瞳は闇に染まり、体を蝕む魔石の影響が最高潮に達している。
「来るぞ!」
マキのパーティは五人。それぞれが武器を構え、レンに立ち向かう。
だが、レンの動きは尋常ではなかった。魔石の影響で生まれた圧倒的な速度と力が、仲間たちを翻弄する。
「くっ……強すぎる!」
エメダが剣で攻撃を試みるも、レンは一瞬で間合いを詰め、強烈な一撃を放った。
彼女は、なんとか受け流すことに成功するが、その衝撃だけでダメージを受け膝をつく。
「このままでは、状況は変わらない」
マキは、冷静に状況を分析していた。
目的は、レンを倒すことではない。体内にある魔石を取り除くこと。そして、救うこと。
「みんな、何としてもレンの動きを止めて、それだけでいいから」
マキは、みんなに指示し、レンの動きを止める戦術を展開する。
ガルジとニウテが前衛となりレンの攻撃を止める。
そして、ユキが魔法で動きを鈍くする。
「成長魔法!!」
「え!ユキちゃんそれは…」
「大丈夫。魔法はイメージだよ」
ユキは成長魔法のイメージを変えていた。早く走るイメージを乗せて発動させれば早く走れるようになる。
つまり遅く走れるようにイメージをさせれば、遅く走れるようになるのだ。
その機転利かせた発想で、魔法を放つ。
レンは一瞬動きが鈍くなる。
その隙を突き、エメダは、傷付きながらも追い打ちでレンの足に大ダメージを与えることに成功した。
「今よ!」
マキは一瞬の隙を突き、レンへと駆け寄った。
「ごめんね、レン。でも、助ける!」
マキの手が、レンの体に触れる。体全体が魔石のようになっている。そこに、マキの魔力を流し込む。
片方の手には、魔石を持ち
「…魔石、合成。!!」
その言葉と同時に、レンは光に包まれ体に浮いていた魔石が飛散していく。
果たして、レンは救われるのか。戦いの結末が、今決まろうとしていた。
次回の投稿は、6月27日を予定しております。




