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炎と永遠 4

 ゲオルグの側近によって地下牢から出されたフィーアは、王宮の湯殿にいた。そこで牢での汚れを洗い落とされ、ドレスに身を包んでいた。


 これからどんな運命が待ち受けているのか、自分にも分からない。だからそれを見極めるまで大人しく言いなりになっておこうとフィーアは決めていた。


「こちらです」


 皇帝付きの女官に案内された一室には、ゲオルグの姿があった。

 フィーアの姿を見ると、「おお」と感嘆の声を上げて近づいてきた。


「余の用意したドレス、よく似あっておる」

 

 上から下まで舐めるような視線にフィーアは不快感しかない。


「やはりそなたは大陸一美しい。殺すには惜しい。余の側室にしてやる。喜べ、命が助かるのだぞ。何不自由ない生活をさせてやろう。そして余の子を産むのだ」


 フィーアはゲオルグを見据えた。沸き起こる嫌悪感と憎悪。


「さあ、この手を取るがいい」


 目の前に差し出された手を、フィーアは思いきり払いのけた。


「私から幸せを奪った憎くき男に抱かれるとでもお思いですかっ」


 サイドボードの上に置かれていたガラスの花瓶を取ると、フィーアはそれを何の躊躇もなく壁に叩きつけた。


 ガッシャ―ン!派手な音とともに、それは砕け散る。大きな欠片を拾うと、その鋭利な先をゲオルグに向けた。


「お前の命、ここでもらいます」


 何があってもゲオルグを許すわけにはいかない。


 エルンスト様。これでお別れです。

 あなたに愛された時間は短かったけれど、私は至上の幸せを得ました。

 女としての悦びを与えてくれたあなたへの想い出を胸に、私はカロナバスの舟に乗ります。


 フィーアはゲオルグに襲いかかった。

 手にした凶器を振り下ろす。


 だがゲオルグも戦士の端くれ。よろめきながら間一髪でそれをかわす。


「だ、誰かおらぬか!」

「ヴァルハラがお前を受け入れてくれるかどうか分からないけれど、潔くその命、差し出しなさいっ」


 転がるようにゲオルグは床を這いまわる。


「余が悪かった、許してくれっ」


 それには答えず、凶器をゲオルグ目がけて突き刺した。

 ガラスの破片は心臓をそれ、腕に突き刺さった。

 鮮血の流れる腕を押さえながら、ゲオルグはゆっくりと立ち上がる。


「これくらいの怪我など、何とも思わん。フィーアよ形勢逆転だ」


 フィーアは他のガラスの破片を拾う。


「余とて戦場で戦った経験はある。小娘にやられてたまるものか」


 腕が伸びるとフィーアの細い喉元をぎりぎりと締め上げた。


「小娘を殺すなど、造作もない」


 ゲオルグの指がフィーアの喉に食い込む。

 もはやこれまで。フィーアは抵抗することなく瞳を閉じた。

 

 ゲオルグを追い詰めたのに、死をもってその報いを受けさせられなかったことが悔しい。

 どうして正直者が馬鹿をみて、悪が世にはばかるのだろう。

 この世に正しい裁きを行う神はいないのだろうか。

 

 薄れゆく意識の中でフィーアの閉じられた瞳からは涙が滲み出ていた。


 ――エルンスト様。 

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