奴隷の女を買う男 3
玄関から外へと出ると、冷たい雨が地面を激しく叩きつけていた。ところどころ黒い水たまりが出来ている。
「ご主人様」
後を追ってきたコンラートが傘を差しだしてきた。
「娘はどこだ?」
「・・・あの楡の木の下でございます」
コンラートが渋々指さす先には、樹齢百年を超える楡の木がその大きな腕を四方へ伸ばしていた。
大きな楡の木は雨粒から娘をかばうように、その葉を広げているようだった。
さすがのコンラートもむやみに放置したわけでもないのか。
冷たい地面から娘を抱え上げると、わずかに娘の頬にかかる雨粒を、長い指でぬぐう。
弱々しいけれど息はしているようだ。
「ヘレナを呼べ」
「ですがご主人様」
「ヘレナを呼べと言っている」
無言で頭を下げると、コンラートはその場を後にしたのだった。
パチパチと楡の葉を叩く音が静かに闇に響く。
腕に抱えた娘にエルンストは静かに問いかけていた。
「お前は何故奴隷に身を落としたのだ。お前は何故このような過酷な運命を背負うことになったのだ」
答えは・・・無かった。
自分たちを包む闇が、見えない未来を象徴しているような気がした。