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暴かれた過去~そして~ 6

 その日のうちにフィーアは城内の地下牢に連れてこられた。

 縄で後ろ手に縛られたフィーアは地下へ続く石造りの狭い階段を下りていた。

 

 最後の一段を降りると、じめっとした生臭い匂いが鼻をつき、ぴちゃぴちゃと水が落ちる音が聞こえた。

 湿った空気に肺を刺激され、フィーアは咽ってしまった。


 先頭を歩く兵士の松明に気づいたのか、牢番が重い腰を上げた。

 フィーアは牢番の姿を見て身震いしてしまった。

 

 ボロボロのローブを身にまとい、強烈な悪臭を放っている男は片目が潰れていた。

 男の背後にある牢からは、何やらうめき声が聞こえる。

 

 闇にうごめく怪物がいるようだ。


 牢番は「イヒヒ」と気味の悪い声で笑う。


「随分と上玉が来たもんだ。こりゃ楽しみだ」


 その声を聞いて、もう一度フィーアはゾクリと震えて顔を背けた。

 牢番に向ける悪意を隠さず、ファーレンハイトが口を開く。


「喜べ。しばらくお前に休暇をやろう。ここは我らシュバルツリーリエが番をする」

「はっ?!休暇なんていらないでさ」


 ペコペコしながらニヤケが止まらない牢番の心は見え見えだった。

 忌々し気にファーレンハイトは牢番を空いている牢のひとつに入れるように部下に命令した。


「痴れ者め」

「待って下せえっ。何でワシが入らにゃならねえんでさ」


 牢番の抗議の声が、狭い地下空間に反響する。


「フィーア殿。このような場所に王家の姫を閉じ込めるのは誠に不本意なのですが、辛抱してください。必ずエルンスト閣下とお迎えにあがります」

「ご心配には及びません」


 フィーアは精一杯の笑顔で答えた。


「あなたはこんな時でも高貴な態度を崩さないのですね。普通の貴婦人だったら恐怖のあまり泣き叫ぶでしょう。やはり閣下が命をかける女性ですね」


 


 ファーレンハイトが去った暗く湿った牢の床に座るフィーアは虚脱感に襲われていた。


 あの時ゲオルグの命を奪っていたら。

 両親の無念も晴らせたのに。

 そして私も命を絶てば、エルンスト様にご迷惑をかけることなど無かった。


 フィーアは力なくため息をつく。


「今はエルンスト様を信じよう。そして、必ずゲオルグをこの手で屠ってみせる」


 暗い牢の中で、固く誓っていたのだった。


 

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