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皇妃暗殺 3

 兎走烏飛を今一番感じているのはエルンストだった。

 問題の突破口を見いだせないまま、既に一か月以上が過ぎていた。季節は夏が終わろうとしていた。


 貴族たちの間では、本当に皇妃は罪を犯したのか。と疑問を呈する者もいたが、大半は口を閉ざしている。

 ゲオルグもさすがに皇妃を亡き者にするのは気が引けるらしく、幽閉と言う形に留めた。


 しかし、運命が先延ばしされただけで、いずれは皇妃の命を奪うとエルンストは考えていた。

 

 加えてゾフィーの父、この国の宰相であるユンゲルスも幽閉されてしまい国政は停滞し混乱が少しづつ生じはじめていた。

 この事態を収拾すべくグレーテの推挙で宰相代理になったフォルクマー男爵はあまり有能な男ではなかった為、かえって傷口を広げる結果となっていた。



* 

 中々エルンストが突破口を見つけられないでいたそんな折、フィーアはゾフィが幽閉されている建物を訪れていた。

 城から少し離れたところにある、ムジークの離宮と呼ばれる場所だ。

 音楽が趣味のゲオルグが室内管弦楽を聞くためだけに作らせた小さな建物だった。


 フィーアは皇妃がここへ幽閉されてから、時々通うようになっていたのだった。

 

 いつものように、皇妃の部屋へ通されると、


「よくきてくれました、フィーア」


 やや元気のない笑顔で迎えられる。


 幽閉されて、外との接触が一切ないゾフィーの話し相手としてフィーアが選ばれたのだった。

 それはゾフィーのたっての希望でもあった。

 エルンストから新しい侍女の話を聞いていたことや、元々各国を旅していた旅芸人の座員だったフィーアならば、話題に事欠かないだろうとの思いからだった。


「お体の具合はいかがですか?」

「ありがとう、今朝主治医が診くてれて、順調ですって」

「それは良かったです。今日はプディングを作って参りました」

 

 バスケットから取り出すと、皿にのせてゾフィーの前に置く。


「まあ、美味しそう。フィーアはお菓子作りが上手だから、いつも楽しみにしているのよ」


 ゾフィーの表情が緩む。


「ここではデザートが出ないんですもの。陛下にお願いしているのだけれど、ダメみたい。きっとグレーテが許さないのだわ」

「お口にあいますかどうか」

「あうに決まっているわ。この前のシュトーレン美味しかったもの。又作ってきてね」


 笑顔でプディングを頬張るゾフィーを見て、フィーアは安心する。

 妊婦にとって、ストレスは良くない。

 少しでも皇妃様の心をお慰めできれば、と思う。


 フィーアより三歳年上のゾフィーは、初めて会った時から優しく接してくれている。

 エルンストからは、


『お前のことは、フィーア・フォン・モーデル。母方の遠縁の娘であること。下級貴族で生活が立ち行かなくなり、皇帝陛下の許可をとり旅芸人の一座として各国を回っていた。わけあって俺の元で奉公することになった。と伝えてある』


と聞かされていた。


 趣味の多いゾフィーは音楽にも造詣が深い。何かと意気投合し、ゾフィーにハープやリュートのレッスンをしていた。


「皇妃様は、本当に習得がお早くて驚いてしまいます」

「あら、そんなこと無いのよ。あなたの教え方が上手いのよ」

「では最後に、何か弾きましょうか?」

「そうね・・・」


 少し考えて、ゾフィーはフィーアに椅子を勧めた。


「今日はあなたと、もう少しお話がしたいわ」


 面会の時間は一時間と決められている。


「こちらへきて座って」


 言われるままに、ゾフィーと向かい合うように座る。


「あなたのお里の話を聞かせて。どんな所で育ったのか。どんな暮らしをしていたのか」

「はい」


 フィーアは注意深く、エルンストから聞かされ憶えたことを話を始めた。

 しかし、しばらくすると「嘘ばっかり」ゾフィーは話を遮った。


 フィーアに緊張が走る。


「だって、お父様にあなたのことをお話したら、そんな娘はいない。っておっしゃったわ」


 確かにモーデル家に娘はいたけれど、とっくに嫁いでいたらしかった。


 全身から血の気が引くのが分かった。


「兄さまが愛している人のことをもっと知りたいだけなのよ。邪魔をする気もないし。だから本当のことを教えて」


 優しいお姉さんらしさを見せるゾフィー。


 フィーアの手の中のカップはカタカタと揺れる。


 ──話せるわけがない。

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