表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/86

奴隷の女 4

 鞭の音とともに、奴隷たちは再び歩みを始める。

 アンゼムもふらふらと立ち上がったのだが、再び石畳の上に倒れこんでしまった。

 当然のように奴隷商は鬼の形相で飛んでくる。


「こんな所で誰が寝て良いって言ったかよっ!」


 しつこいくらいに鞭は奴隷の体を打ちつけるが、アンゼムはピクリとも動かない。


 フィーアはアーデルを背から下すと、


「このままでは、死んでしまいます」


 奴隷商に体当たりをした。


 周りから悲鳴の声が上がる。よろめいた奴隷商の鞭の向きが見物人に向かったからだ。


「このあまっ!」


 恥をかかされたとばかりに、奴隷商の鞭は勢いよく路面を叩いた。小石が舞い上がる。


「私たちは灼熱の中、長い距離を飲まず食わずで歩いて来ました。せめて水をください。このままでは奴隷市に着く前にみんな死んでしまうわ」

「家畜のくせに、一人前に口をききやがってっ!」


 体勢を整えると、奴隷商はフィーアに鞭を向けた。


「私たちがあたなの商品であるならば、商品を高く売るために大切にしたらどうですか」


 ほとんどの奴隷たちが怯えた様子を見せる中、フィーアはきっぱりとした口調で言い放った。


 町の人の目があるから、さっきのようなことはしないだろうとフィーアはふんでいた。


 一瞬驚いた顔をした奴隷商だったが、徐々に憎悪が湧き上がってきたのか著しく顔を歪め、鞭をぎりぎりと両手でたわませた。

 フィーアの胸ぐらを掴むと、軽々とその体を持ち上げた。足は路面から頭ひとつは浮いただろう。


「てめえ誰に向かって口を利いてやがる」


 フィーアを路面に叩きつけると、腹部を何度も蹴り上げ鞭で背中を叩く。


 その様子を面白がって見ていた町の人々だったが、しばらくすると、一様に眉をひそめだした。いくら奴隷であっても自分たちと同じ人間だ。虐待にも限度がある。

 気分が悪くなったのかその場を離れる者もいた。


 鞭に打たれ続け、フィーアは苦悶の声を上げる。


「何だよてめえっ!文句あんのかっ!」


 歯止めの効かなくなった奴隷商を誰も止められない。とうとうフィーアのボロボロに汚れた麻で出来た奴隷服が切れ、下から現れた肌が裂け、土埃を含んだ赤い川が背中から流れ出し、奴隷服を染める。


「奴隷の焼き印よ。初めて見たわ」


 見物していた町の女からそんな声が漏れた。


 フィーアの左肩辺りには『奴隷の焼き印』が押されていた。人間の目を意匠化したデザインで、『お前たちは常に人の目にさらされている』との意味があるらしかった。


「早く立ちやがれっ」


 鞭はフィーアの背中だけでなく、頭を腕を容赦なく叩き続けた。不思議と痛みは感じなくなっていた。


 もうすぐ人生の最期を迎えるのだろうか。

 こんな人生は幸せだったとは言えないけれど、それでも良かった。他人の手で終わりを迎えるのであればきっと天国に行ける。

 神様、来世はもっと幸せでありますように。


 薄れゆく意識の中で、フィーアは声を聴いたような気がしたけれど、そんなことはもうどうでも良かった。

 

「その辺で止めておけ」 


 それは低く落ち着いた声だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ