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宵待ち草 5

「あのね、ハンス。ご主人様が入浴の後、何か軽いものを召し上がりたいそうなの」

「いつもワインだけなのに、珍しいな。よほど腹を空かせておいでだな」


 グラスを用意しながら、フィーアは適当な食べ物を探す。


「そこの干し肉をスライスしたらいい」

「分かった。ありがとう」


 スカートの裾をひるがえすと、早速準備に取り掛かる。

 エルンストが風呂から上がる前に終わらせなけらばならない。


「フィーア、ご主人様がそろそろお上がりになるみたいよ」


 調理場にルイーザが姿を現した。


「はーい」


 フィーアは慌ただしく調理場を後にした。


「廊下は走っちゃだめよっ」


 


 

 ルイーザの声はフィーアには届いていないようだった。

 パタパタと足音が聞こえる。


「やれやれ」


 ため息を漏らしながらルイーザはハンスの隣にやって来る。


「随分明るくなったよな、フィーアの奴」

 

 ハンスは火にかけた鍋を小刻みに揺する。

 体が大きい割にそれとは対照的に、料理の味は繊細なハンスだ。


「そうね、ここへ来た頃は口数も少なくて、暗い子だと思ってたけど。無理もないけどね」


 作業台に置かれていたブルーベリーを口に放る。


「うん、甘い。もう一個」


 伸ばした手をハンスにぱちんと叩かれ、「ケチ」と頬を膨らませる。


「鹿の肉にかけるソースが無くなっちまう」

「あんたも食べてみたら?ソースの仕上がりの確認としてさ」

「おう、それもそうだな」


 ハンスはふっくらとした太い指でブルーベリーをつまむ。


「こりゃ旨い。旬だけのことはある」

「じゃ、あたしももうひと粒」

「これ以上は駄目だ」


 ブルーベリーの入ったカゴをひょいっと持ち上げる。


「何さケチ。そのブルーベリー、あたしが摘んで来たんだよ。ご褒美にくれたっていいじゃないのさ」

「がはは」


 ハンスは大きなお腹を揺らして豪快に笑う。背丈がドアの高さを超える巨漢が笑うと、地響きが起こるようだとルイーザはいつも思う。


「いい歳して、あんたは明るすぎね」

「ひでえなぁ、俺はまだ三十だぜ」

「さーてと、夕食づくり手伝うわよ。おっさん」


 腕まくりをすると、サラダ用の野菜を切り始めるのだった。



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