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宵待ち草 2

『さあさあ、旦那方。うちの奴隷はお買い得だよっ。何と言ってもこの娘――』


 とぼとぼと屋敷への道をひとり歩く。

 広場での光景が頭から離れない。

 奴隷商人はうつむく少女の髪を掴むと、顔が良くみえるようにくっと上へ引っ張った。


『いくらだ?』

『旦那、お目が高いっ!』


 フィーアは気分が悪くなってきた。


 心の奥深くに押し込んていた感情がふつふつと蘇り、どうしようもなく不快で切なくて悲しくて、今こうしている自分が許せなくて、訳も分からず叫びたかった。


 激しいめまいに襲われ、よろめく。


「痛てえな、ねぇちゃん」

「ごめんなさいっ」


 頭を下げて、その場を立ち去ろうとするフィーアの腕は掴まれていた。


「離してください」

「そうはいかねぇんだよ」


 薄ら笑いを浮かべる男は、どうやら酔っぱらっているようだった。


「離してっ」


 強引に男を引きはがそうともがけばもがくほど、酔った男はムキになって大声をあげ始めた。


「何だよ、この小娘がっ」


「喧嘩か、喧嘩かっ!?」周りに人だかりが出来る。

 あっという間に野次馬に囲まれてしまった。


「若い娘と酔っ払いの喧嘩だぁー」


 誰かが叫んだ。

 その声につられて人だかりはどんどん膨らむ。

 見物人は面白がっているとしか思えなかった。


「喧嘩の原因は何だー?」


 輪の中から掛けられた声に、酔っ払いの男が反応する。


「こいつがよー、俺様にぶつかったのに謝らねえんだよ」

「そんな、私ちゃんと誤りました」

「はぁー、何言ってんだよねーちゃん」


 まともな会話が出来そうにない。


 すると、もみ合う二人の前に剣が投げ込まれた。


「娘はどこぞのお屋敷の侍女だろ。旦那の腰にも剣が下げられてる。ここは貴族どうし剣で決着をつけたらどうだ?」


「わーーー!」


 一斉に歓声があがる。


 平民に帯剣は認められていない。粗末な服からして、酔っ払いも、剣を投げ込んだ男も下級貴族だっと思われた。


 剣で決着だなんて。

 どう考えても男性の方が力があるのだから、不利に決まっているわ。

 ううん、そもそもこんな決着の仕方おかしい。


「待って、どうしてこうなるのっ」


 フィーアの声は、群衆にかき消されていた。

 

「娘、相手は酔っている。それがハンデだ」


 勝手に仕切り始めた。

 周りからは、拳を突き上げ、歓声とも怒声ともつかない声がちこちから嵐のように沸き上がっている。



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