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新たな生活 3

 カールリンゲン帝国皇帝ゲオルグ三世に謁見するためにその居城を訪れていたエルンストは謁見の間の前室に控えていた。


 身だしなみを整えていると、「べーゼンドルフ団長、お待たせいたしました」ドア係が扉を開けてくれた。その先に、皇帝の侍従が立っていた。


 広々とした空間を金で装飾した室内の中央奥に玉座が据えられ、そこに大陸を平定した若き皇帝が鎮座していた。


「シュバルツリーリエの団長は、今日も宮廷の婦人たちを誘惑しに来たようだな」


 笑顔で迎えられたエルンストは恐縮しながら頭を下げる。


「めっそうもございません、陛下」


 皇帝付き騎士団の別名をシュバルツリーリエと言った。

 この名は代々騎士団長を務めるべーゼンドルフ家に由来する。この武門の名家の紋章は家風とは対照的に百合の花だった。


 シュバルツリーリエ・・・黒百合。


 実際黒百合などこの世に存在しない。つまりこの世のものとは思えないほど秀でた武人の集団。と言う意味を込めて、先々代の皇帝が名付けたとエルンストは聞いている。

 軍服もこれに合わせて全身黒づくめに変更されたのだった。


 辺境視察の報告をひと通り聞き終えたゲオルグは、人払いを命じた。

 側近たちは一礼し、謁見の間から姿を消す。


「楽にしろ、エルンスト」

「はっ」


 ひざまずいていたエルンストは立ち上がると、足を開き両手を後ろに回した。皇帝に敵意のない姿勢を取る。


 ゲオルグは人懐こい笑顔をエルンストに向けた。


「その立ち姿でさえ、女性を魅了するのであろうな。けいの類まれなる容姿と、色気漂う肢体は男のでも惚れ惚れするぞ」

「ご冗談を」


 先代の皇帝の妃、側室は美姫びき揃いだった。外見重視だと家臣の間で噂されていたのだが、その息子ゲオルグは相当な色男だ。


「最近どうだ?」

「は?どうだと申されますと?」

「今だ娼婦しか相手にしておらんらしいな」


 そんなことまで陛下の耳に入っているのか。口の軽い娼婦が宮仕えをしている誰かに話したのだな。眉根を寄せてエルンストは困惑した。


「宮廷には美しい蝶がドレスをひるがえし、蜜を求めてあちらこちらで飛んでいるというのに」


 足を組み替えると、ゲオルグはにこやかに話しを進める。


「結婚はいいぞ。毎朝目を覚ますと、隣に美しい妻の寝顔があるのだ。余は愛おしい妻の顔を見ているだけで、幸せなのだ」


 エルンストは鼻白んだが、顔には出さないように細心の注意を払った。


 エルンストより二歳年上の皇帝が結婚したのは半年前。

 国中の嫉妬と羨望を一身に受けてその皇妃となったのは、宰相の娘ゾフィーだった。


 ゾフィーは今年二三歳になる。華奢なタイプと言うよりは、出るところが出ている、むしろふくよかな印象の美しい女性だ。

 教養も高く国母にふさわしい女性だとエルンストは思っている。

 ゾフィーの父とエルンストの父親は兄弟だったから、ゾフィーはエルンストにとって従兄妹にあたった。


「ゾフィー様は大変お美しくていらっしゃいますから、陛下もお幸せですね」


 新婚でありながら、女官や侍女に皇帝が手を出していることを、エルンストは知っていた。


 この茶番を早く終わらせたい。



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