表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/86

不透明な未来 3

 エルンストが食堂から出て行くのを見届けると、エレナはフィーアに優しく話しかけた。


「確か、旅の一座でリュートを弾いていたと言ったわね。ご両親は一座の人なの?」

「はい。父は座長をしておりました。母は踊り子です」

 

 洗い物を終えたルイーザがフィーアの前に座る。


「へー、あんた諸国を旅していたのね。あたしも一度でいいからこの国から出てみたいわ」


 大陸が平定されたのは最近のことだ。それまで庶民は各国を自由に行き来することは禁じられていた。

 それでも、貿易商と旅芸人の一座だけは通行証を特別に与えられていたため、越境をゆるされていた。

 ちなみに奴隷商には通行証は与えられていなかった。異国とのハーフが生まれることを懸念したカールリンゲン皇帝や、諸国の支配者の思惑はこんなところで一致していた。


「あなた、北方地方の訛《なま》りが少しあるわね。それも、シュタインベルグ王国に近い地方の」


 フィーアは無言で頷き、ルイーザが驚いた顔をした。


「へー、ヘレナさん詳しいんですね。北方地方に知り合いでもいるんですか?」

「ええ、そちらに嫁いだ姉がいるのよ。めったに会わないのだけれど、時々夫婦で帝都に遊びに来るからその時に会うのだけど、姉の旦那さんに訛りがあってね。姉も最近では影響されて、訛っているけど」

「そうなんですか。確かに少し変だなって、あたしも思っていたんですけど、北方訛りなんですね」


 納得したようにルイーザが頷く。


「ヘレナさんの仰るとおりです。私、シュタインベルグとの国境沿いの山間の村で生まれました」

「やはりね」


 ヘレナは満足気な顔をすると、言葉を続けた。


「何でもその辺の村では帝都から離れているせいで、双方の密輸が横行しているらしいのよ。それで、シュタインベルグの訛りが国境近くの村に移ったとされているわ」

「ばれたら大変じゃないですか?」


 驚くルイーザにヘレナは頷いた。


「でもね、皇帝が黙認しているみたいなの。言わば必要悪みたいなものね。だってシュタインベルグから入ってくる小麦はこの国にとって貴重でしょ?貿易商から買うと三倍の値になるし。貧しい地方の人々にとっては生きるために必要なことなのね。でないと辺境の人たちはみんな死んでしまいかねないから」

「逆にシュタインベルグにとって、カールリンゲンから入ってくるヤギの毛は、やはり貴重なものです」


 今度は二人がフィーアを見た。


「平地の多いシュタインベルグではヤギは良く育ちません。家畜化を進めているのですが、中々うまくいかないみたいです」

「へー、あんたも結構物知りね。確かにヤギは高山で育てているわ」

「はい、私の村でもヤギを沢山飼っていました。国境がすぐだったのでシュタインベルグにも度々訪れました。ヤギは山岳地帯が多いこの国の特産品みたいなものですよね。高値で取引されていますよ」


 村人たちは密貿易で大半の収入を得ているとフィーアは二人に教えた。


「それで・・・」とヘレンが話を戻した。


「旅の一座の娘がどうして奴隷なんかに?」


 フィーアはきゅっと口を結び答えあぐねた。


「まさか、さらわれて売られたの?」


 ヘレンの問にフィーアが答える前に、ルイーザが拳をテーブルに叩きつけた。


「この国には奴隷は罪人と決めつける人も多いよね。ご主人様もコンラートさんもそう。あんたのように不幸な娘がいることに、気づいていないのさ」

「ルイーザ、ご主人様は気づいているわ。ただ、気づかないふりをしているだけよ」


 ヘレナは驚いた顔をするルイーザをたしなめた。

 気づいてはいるけれど、罪人が含まれていることも事実。罪人か、そうでないかを見極める前に、罪人である前提として話を進めたほうが、安全だと考えているらしい。


「それに・・・気づけば領主として、行動を起こさなければならないでしょう?皇帝陛下に具申し、沢山いる奴隷商人や奴隷を一人一人調べなければならない。そうしたいけれど、今はそちらに構っている暇がないのよ。もっと先にしなければならないことがあるの」

「先にしなければならないこと?」


 今度はフィーアとルイーザがヘレナを見た。


「そう。この大陸を平定したとは言え、まだまだ不安定なことが多いらしいの。王政を廃止したとされるフォーゲルザンクが再び王政を復活しそうな雲行きらしいわ」

「えっ?!」

「フィーア、あんたには関係ないのに、どうしてそんなに驚くのさ?」


 フィーアは口ごもる。


「そ、そうですね。先の戦で国王は死に、その一族は息絶えたと聞いています。今フォーゲルザンクを治めているのは帝国から派遣された役人と聞きましたけど?」

「それがね、どうもそうじゃないらしいのよ」


 ヘレナは声を潜めた。


「その役人は殺されたのか、相手に丸めこまれたかまでは分からないのだけど、王家の残党かその家臣かが王政を復活させようと企んでいるみたいよ。ご主人様は、今そちらに力を注がなくてはならないの」


 奴隷の問題など大局を見た場合、後回しにせざるを得ないらしい。国に再び混乱が起きては元も子もないのだ。

 闇はいつまでも闇でしかないのだろうか。

 それよりも・・・とフィーアは思う。フォーゲルザンクの王政が復活する。

 フィーアは複雑な感情をゴクリと飲み込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ