第09話(どんぐり……)
「これ、どうしましょうかね」
とりあえず藪に突き刺さっていたジェームズの足を掴んで、ズルズル引っ張りながら戻ってくるランスロット。扱いがぞんざいだ。
「まぁ、自身が復讐と思っていても、やっていることは大したことないしなぁ……」
「でも、裏切り者と一緒にいるって言うのも危ないですぜ」
「いつ裏切るかわからないっスからね」
俺は許してもいいと思っているんだが、オサムネやコジューローの意見は厳しい。
「……許してあげて欲しい……爺には悪気はあったみたいだけど、それとは別に私への献身は本物だと思うから」
フラン姫がこちらの対応を伺いながら、意を決した表情でお願いしてくる。
「まぁ、良いんじゃないですかね。裏切ったのは一族を殺された恨みだったものの、やっていることは大したことではなかったですし。そもそもオサムネ達も最初は敵でしたしね」
「ぐっ……」
「そうっスね」
ランスロットがそう言うと、オサムネとコジューローも同意せざるを得ない。
「私は、私は……」
そんな対応で混乱しているのはジェームズ自身だけだった。そして許す方面で話が固まったことにフラン姫の表情が明るくなる。
「爺!もうあんなことしないで、いつもの様に私を守ってください」
「……姫……こんな、裏切った私になんてお優しい……わかりました。このジェームズ。残りの命は全てフラン姫に捧げると誓いましょう」
「まぁなんだ。俺は敵と見ると突っ走っちまうから、フラン姫の護衛は頼むわ」
一通り元の鞘に納まったようなので、俺はジェームズに頼む。
「グググゥ……まだ私は、貴様がフラン姫にふさわしいとは認めてない!!」
しかしジェームズは鼻息荒く、俺とフラン姫の婚姻を拒否する。全くこのジジィは……
「兎に角、大所帯になったのもあって、一回どこかで腰を落ち着けたいですね」
ランスロットの言う通り、オレとランスロットだけの気ままな旅だったら、フラフラしてても問題ないのだが、フラン姫は野宿に慣れてなさそうだし、ジェームズはジジィだし、オサムネとコジューローもいるし……そんなことを考えていると、オサムネが手を上げる。
「だったら、俺らの仮拠点に来るっていうのはどうでぇ?アニキ」
「そうっスね。食料もあるし、安全ですし、いったん腰を落ち着けるくらいなら、良いんじゃないっスか?」
オサムネとコジューローが提案してくる。
「こいつらの拠点……不安しかないが、背に腹は代えられんか。よし、案内してもらおう」
「合点承知!」
「承りっス」
俺が承諾すると、オサムネとコジューローが嬉しそうに先頭を歩き始める。
すっかり日が暮れてしまった中、ピョンピョン跳ねながら俺たちは移動する。夜は夜で俺たちを捕食する獣がいない訳でもないので、大きな耳で周りの音を聞きながら警戒し、敵を見落とさないように注意する。途中、腹ごしらえに木の実を採って齧ったりしつつ、目的地に向かう。
夜通し移動してオサムネたちの仮拠点とやらに到着する。周りが深い藪に覆われた岩陰の隙間がアジトらしい。
アジトの前に付くと、岩の隙間から跳びネズミたちがワラワラと出てくる。
「おかえりなさいませ!お頭!!」
皆が整列して立ち上がり、声を揃えてオサムネに頭を下げる。教育が行き届いているようだ。おかしい、オサムネの見た目はただの山賊なのに。
「皆、俺のいない間良くやってくれたようだな。まぁ色々あったが、こうしてまた皆と会えたのを嬉しく思う」
オサムネが威風堂々と話し始める。
「誰だアイツ?なんか普段と態度が全然違うんだが?」
「グレン様。上に立つものは、威厳がないといかんのです。グレン様も少しはそう言うの考えてくださいよ」
俺が豹変したオサムネの様子を語るとランスロットから手痛い反撃を食らう。
「そして、こちらが任務の中で戦い、俺を負かせた強者のグレンのアニキだ!!そして、アニキの従者のランスロット様だ!!これからはグレンのアニキを頭として、エイコーン傭兵団は活動しようと思っている!」
「オサムネのお頭が負けた?」
「あの大して強そうにも見えない奴に?」
「片目に傷がない奴にお頭が負けるわけがない!」
オサムネが俺を上に据えることを宣言すると、部下たちが騒めく。え?何?片目がないのが強さの証明だったりするのこれ?
「というか、栄光傭兵団じゃなかったっけ?」
「何を言っているんですかアニキ、俺らの傭兵団はエイコーン傭兵団ですぜ」
俺が聞き違いかと思って確認するが、オサムネがそれを否定する。
「エイコーンって……」
「どんぐり……ですね」
「どんぐり傭兵団かよ……」
どんぐり傭兵団って……まぁ、らしいっちゃぁ、らしいんだがなぁ……