第07話(助かった理由)
『それはまぁ、お主の生命力が異常過ぎるだけだ。普通、ネズミがあんな爪で貫かれたら即死してるぞ?』
「んが?誰だ?何だ?これ何?」
頭の中で呆れたような声が響き、俺はキョロキョロと周りを見渡す。
『我だ。我が直接お主らに話しかけているのだ』
銀色の毛並みと金色の角を持つ巨大な神獣が胸を逸らして誇らしげにしているように見える。
「神獣、すげぇな」
「そりゃまぁ、神獣様ですから……っていうか命を助けて頂いたのに不敬ですよ。グレン様」
ランスロットが呆れながら突っ込みを入れてくる。
『まぁ良い。だが手助けはここまでだ。弱肉強食は世の常、我が一方的に加担するのは世の摂理に反するのでな』
「まぁ、命が助かっただけでもありがてぇし、フラン姫もロンスロットも無事だったし、あぁ、ついでにオサムネとコジューローもな」
「ついでって……オレも忠実に命令を守ったんだぜ?」
「そうっス。頑張ったっス」
オサムネとコジューローが少し不満げに言葉を漏らす。
「あはははは。冗談だ冗談。オサムネ、コジューロー、フラン姫の護衛見事だったぜ。助かった」
「へへっ!しっかしアニキは尋常じゃねぇよな。ウルヴァリンなんかに立ち向かわねぇし、更にそのボスの呪怨なんか、裸足で逃げ出すってのが普通だぜ?それなのに戦って、しかも勝っちまうとか」
「そうっスよ。尋常じゃないっス」
『全く、命がいくつあっても足りない生き様だ……だが楽しかったぞ。ではな』
九死に一生を得た俺たちは、命がある実感を噛み締めながら笑いあう。そして、助けてくれた神獣も、楽しそうに笑いながら去っていった。
「さてと、とりあえず弔いに行くか……」
俺は明るい雰囲気に水を差すことになるが、終わらせるべきことを終わらせるべく口に出す。
「っ!……はい……」
ハッとしたフラン姫は一気に悲痛な顔に戻ってしまうが、悲しみを振り切るように俺に視線を向けて頷く。
俺たちは警戒しながらベルジュ王国へ向かう。どうやら城の周りをうろついていたウルヴァリンたちは撤退したらしく、姿は見えなかった。
城の周りの土を掘り起こし、呪怨達に殺されたベルジュ王国の同族たちを埋めていく。フラン姫が顔見知りの同族たちを見つけるごとに悲痛な面持ちを浮かべるが、誰も言葉を発することなく、黙々と作業をしていく。
「お父様、お母様……」
その中には当然フラン姫の父親と母親の姿があった。濃い灰色の王と、薄い灰色の王妃だったようだ。慟哭するフラン姫を横目で身守ながら、俺は一心不乱に作業を続けるしかなかった。
†
日も低くなってきた頃、作業を終え、目印になるように椎の木の枝を突き刺して墓標とした。世の中は弱肉強食。特に俺たち跳びネズミは狩られる側の種族だ。しかし、そうだとしても俺は負けん。弱肉強食なんて言う世の中の道理や摂理を蹴っ飛ばし、俺は俺の道を突き抜けるだけだ。
「フラン姫。現実なんて辛くて悲しいことだらけだ。だが、だからこそ残された俺たちが強く幸せでなければならない。俺に付いてきてくれないか?キミに襲い来る理不尽を蹴っ飛ばし、必ず幸せにすると約束しよう」
「……っ!!……は……ぃ」
俺は沈む夕日をバックにフラン姫に宣言する。彼女の悲しみを癒すことも俺の新たな使命だ。彼女の明るい笑顔を取り戻すためにも、俺はやれること全てやるのだ。
「くくくくく……そうはいかぬわ。ベルジュ王国の血は、ここで全て絶たせてもらわなんとな」
全てが終わり、これから新たな門出になると思った矢先に、長年潜んでいた妄執が噴き出すのだった。